【17話】夏祭りの夜
ある日の夕方。
いつもの街に屋台が並んでおり、提灯が吊るされている。
今日は夏祭りだった。
緋月「わぁ。屋台がいっぱい。」
聖雷「ホントだね。人もいっぱい…。」
聖雷は少し気分が悪くなる。慌てて緋月があやす。
そこに、小夜がやってくる。
小夜「お待たせ。」
緋月「小夜っち。あれ?浴衣じゃないんだ。」
小夜「俺が浴衣を着ると思うか。」
緋月「いや。でも、かげろっちが見たら喜ぶん」
聖雷「小夜。行こうか。」
聖雷が緋月の言葉をさえぎった。
屋台のいる通りに入っていく3人。
小夜「今日は胡蝶いないの?」
緋月「うん。なんか、用事あってさ。」
聖雷「うぅ…。(前かがみになりながら)」
聖雷が人混みで気分が悪くなるのを心配しながら先に進む。
緋月「無理しないようにね。聖雷っち。」
聖雷「でも…、夏祭り行ってみたかったから…。」
聖雷は、夏祭りというものをずっと楽しみにしていた。元はと言えば、夏祭りに行きたいと言い出したのは聖雷だった。緋月と小夜を誘って街へ出れば大丈夫だと思っていた。
しかし、それは甘かったようだった。
小夜「屋台、かなりあるね。」
ヨーヨー、金魚すくい、フランクフルト、りんご飴など、色々な屋台が立ち並んでいた。
小夜「あっ。ちょっと寄ってもいい?」
小夜は屋台で買い物をした。
それに釣られるように、緋月たちも食べ物などを買うようになる。
小夜「飲み物買ってきたよ。はい、聖雷の分。」
聖雷に飲み物を渡すと、聖雷は少し落ち着いた。
聖雷「ありがとう。優しいんだね。」
小夜「これ飲んで、少しでも気分良くなったらいいな。せっかくの夏祭りだしね。」
緋月が屋台から帰ってくる。
両手には食べ物。
緋月「やっほー。買ってきたよ。」
聖雷「あはは。買いすぎだよ。」
緋月「フランクフルト、フライドポテト、焼きそば、鹿せんべい、わたあめ。」
緋月が買ってきたものをシェアして食べながら歩いた。
すると、あるひとつの屋台に目が止まった。
焼き魚が売っていた。
聖雷「あそこ、焼き魚だよ!」
聖雷が指を指した先を見ると、皆、驚いた。
屋台で魚を売っていたのは、影楼だった。
その横には胡蝶。
緋月「かげろっち?」
3人はすぐに影楼の屋台の方へ行った。
影楼と胡蝶がこちらに気づいた。
影楼「あ?」
胡蝶「貴様ら…。」
緋月「おうおう、こんなところで奇遇ですねぇ。」
胡蝶「何の用だ。」
緋月「夏祭りを楽しんでるだけだよ。胡蝶こそ、俺っちたちの誘いを断ってまでこんなところに居て、なーにしてるんでしょうね?」
胡蝶「貴様には関係ない。」
聖雷「影楼くんたち、お店開いてたんだ。」
緋月「なんで隠してたの?」
胡蝶「隠してたつもりは無い。」
影楼「ただこのキツネに手伝ってもらっただけだ。」
小夜「胡蝶、大変だったね。」
影楼「んだと?」
小夜が売り物の焼き魚を見る。
小夜「でも、美味しそう。」
影楼があることを思いつく。ニヤリと笑うと、3人を囲うようにして、腕を広げた。
影楼「お前ら。焼き魚、食べたいか?」
緋月「うん!」
影楼「よし。お前ら3人、屋台の手伝いしろ。」
策略通りに3人を屋台の手伝いに勧誘した。
胡蝶は呆れた顔で見ていた。
*
結局、3人は手伝うことになった。
影楼が魚を焼き、緋月と聖雷が接客をした。
胡蝶と小夜が詰め作業。
緋月「らっしゃっせー!」
聖雷「小魚の塩焼きはいかがですかー。」
胡蝶「…2人とも元気だな。」
小夜「夏祭り、楽しみだったみたい。」
緋月と聖雷の元気な声に惹かれ、焼き魚を買ってくれる人がだんだんと集まってくる。
気がつくと魚は、残りわずかとなっていた。
緋月「ありがとうございました〜。(頭を下げる)」
影楼「クソッ。小魚があと5匹だ。」
聖雷「えぇ。じゃあもう終わり?」
影楼「そうするしかねぇな。」
緋月「でも、随分売れたね。」
影楼「あぁ。おめぇらのお陰だな…。」
緋月・小夜・聖雷・胡蝶が一斉に影楼を見る。
緋月「かげろっちが感謝してる…。」
聖雷「明日は雪だね。」
影楼「あ゛?」
胡蝶「雪は季節外れすぎる。」
影楼が魚を焼くトングの先を聖雷と緋月に向けて脅す。2人は笑いながらかわしている。
影楼「ったく。」
聖雷「あはは。」
ふざけ合いながらも、5人は屋台で働き続けた。
そして、ついに。最後の焼き魚が売れた。
緋月「ありがとうございました〜。(頭を下げる)」
聖雷「やったよ。ひっきー!」
緋・聖「完売だぁー!!!」
胡蝶「よくやったな。」
影楼「おう。」
小夜「すぐだったね!」
影楼「とりあえず、店を片付けて帰るか。手伝え。」
4人「うん!」
店の片付けをし始める5人。
*
マーリン「お疲れ様。大変だったわね。でも、完売は凄いわ。」
宿に帰り、リビングでマーリンに木の実をもらった。つまみながら、反省をしていた。
緋月「マーリンさんありがとう。でも、楽しかったよ。手伝いだったけど。」
聖雷「まさか、完売するとは思ってなかったよ。すごい。」
胡蝶「影楼と2人だったら完売は難しかったかもしれないしな。」
マーリン「ふふ。仲良くできたなら良かったわ。」
すると、影楼はポケットから今日稼いだお金を取り出した。
影楼「今日だけでこれだけ稼げたぞ。」
小夜「うわぁ…。結構稼いだね。」
緋月「小魚って結構売れるんだね。びっくり。かげろっち、それどうするの?」
影楼「元々、俺のバイト先の道具を借りて屋台を開いたから、少しは返す。あとは森のことに使う。」
緋月「森のことか!」
聖雷「影楼くんのバイト先に感謝だね。」
マーリン「そうやって使ってくれるのはいい事だわ。」
影楼「…次は、木の実でも売ろうかなァ。」
聖雷「それはいいね。魚と木の実で、この森の良さを伝えられそう。」
胡蝶「だが、この森が有名になったとしたら、俺たちは宿から出られなくなるかもな。」
聖雷「そうだね。この森で取れたことは秘密だね。」
胡蝶「ああ。」
影楼「そうだ。…おめぇらに、お礼しなきゃな。」
そう言うと、影楼はニヤッと笑った。
影楼「よし、じゃあ、おめぇらに一度だけ手を貸す権利を与えよう。」
沈黙。
4人「え。」
影楼「もし困ったことがあったら、俺様を呼ぶがいい。一度だけ助けに行ってやるよ。」
マーリン「ふふ。あなたらしくていいわ。」
緋月「1回だけなの?」
影楼「欲張るんじゃねぇクソガキ。」
小夜「ありがとう。いつ使うかは分からないけど…。」
聖雷「本当に困った時だね。」
胡蝶「影楼に頼る時ってどんだけ困ってる時なんだ…。」
シユウ「にゃーん。」
影楼「もちろん、そこの白猫もだ。」
聖雷「シユウにもくれるんだ。良かったね。」
シユウ「にゃぁ。」
こうして、夏祭りは終わった。
影楼の屋台を手伝うことになったのはいきなりだったが、5人とも、すごく楽しそうにしていた。