【15話】ようこそ、マーリンの宿へ
よく晴れた日の昼。
予定通り、宿の改築をしていた。
聖雷「うぅ…疲れたよ…。」
小夜「がんばれ。あと少し。」
森の木を切って木材を作る胡蝶。
それを運ぶ聖雷と小夜。
影楼は、マーリンの指示で家を組み立てていた。
影楼「おい、遅せぇぞ聖雷。」
聖雷「(びくっとして)はぁい。」
小夜「それにしても、木材、重いね。」
影楼はニヤッと笑う。
影楼「まぁ、女にしては力がある方じゃねぇか?」
聖雷「珍しい。影楼くんが人を褒めるなんて。」
影楼「っるせぇ。」
影楼はまた作業し始めた。
小夜と聖雷は顔を見合わせて少し笑うと、木材の運搬に精を出した。
影楼「ところでマーリンさん、今回はどんな感じに仕上げるんすか?」
すると、マーリンが宿の建設計画の紙を取り出した。
マーリン「まず、ざっくり言うわね。宿は3階建てで、1階と2階は逆台形型の断面よ。3階は長方形ね。2階にはウッドデッキをつくるのよ。部屋自体は2つくらい増やそうと考えているわ。」
影楼「おう。」
マーリン「デザインは影楼に任せるわ。」
影楼「おう。」
影楼は黙々と作業を続けた。
マーリンは完成を楽しみにしながら指示している。
すると、緋月がやってきた。荷物を持っていた。
聖雷「あ。緋月!」
緋月「ただいま。」
聖雷「おかえり。持ってきた?」
緋月「うん。いっぱい詰めてきたよ。」
聖雷「お母さん、大丈夫だった。」
緋月「うん。家に居なかった。だから、置き手紙置いてきたよ。」
緋月は近くの木の近くに荷物を置き、改築の手伝いを始めた。
小夜「ねぇ、聖雷。緋月、今から何があるの。」
聖雷「今日から本格的に泊まるの。だから、家から荷物を持ってきたんだ。」
小夜「あ、そっか。」
緋月はいつもよりワクワクしているような気がした。
それを見て、小夜も嬉しくなった。
*
休憩時間。
ペットボトルの水を飲みながら、近くの日陰で身体を休めた。
緋月「(水を飲んで)ぷはー。」
胡蝶「かなり木を切ったな。」
聖雷「僕もう腕が疲れたよ…。」
影楼「まだまだだぞ。」
マーリン「…でも、影楼が来てくれて本当に助かってるわ。私たちだけだと何年かかるか…。」
聖雷「本当だね。ありがとう、影楼くん。」
シユウ「にゃー。」
影楼「おう。」
宿のメンバー全員は、動き続けた。
途中で交代をしたり、休憩をしながら、宿ができるまでずっと作業し続けた。
そして、5日が経った。
*
緋月「ついに…。」
3階建ての建物に、2階にはウッドデッキ。
入り口は、猫の形をしていた。
前よりも、広くなっているらしいが、あまり面積は広く使っていないようだった。
入り口の松明に日が灯ると、宿は完成した。
全員「やったー!」
緋月はすぐに宿の中へ走った。
聖雷もシユウも興味津々だった。
胡蝶は呆れつつも聖雷たちを追いかけた。
影楼「こんなもんでいいか?」
マーリン「ええ。嬉しいわ。」
小夜「本当に、ありがとう。俺はあんまり関係ないけど。」
影楼「いや。そんなこたぁねぇ。」
小夜「え。」
マーリン「実はね、小夜ちゃんのために、余分に部屋を作ったのよ。」
影楼「あぁ。だから泊まりに来ても大丈夫だぞ。」
小夜「本当?」
マーリン「えぇ。この考えは影楼が考えたのよ。優しさ、受け取ってあげて。」
影楼「い、言うなよ…。」
マーリンは笑顔で小夜のことを見つめた。
影楼は後ろで恥ずかしそうにしていた。
小夜「ありがとう。影楼。」
3人は宿に入った。
宿の中。
綺麗で広いフロアに皆、心が踊った。
緋月「うわぁ!ひろーい。」
聖雷「リビングもあるよ。これで、みんなでご飯が食べられるね。」
1階には、フロア、リビング、キッチン、マーリンの部屋。
宿のみんなが全員くつろげる場所だった。
影楼「2階から上は個人の部屋だ。3階に、空の部屋がある。小夜はそこを使え。」
小夜「うん。」
小夜は3階へ上がった。
緋月と聖雷はリビングの畳で寝転がっていた。
緋月「畳だ〜。」
聖雷「みんなで鍋とかしたいね。」
皆、新しい宿に気に入ったようだった。
影楼は安堵した。
*
新しい宿の探索を終えると、マーリンは全員をリビングに集めた。
マーリンの前に座る5人。
聖雷の膝の上にはシユウ。
マーリン「わざわざ集まってくれてありがとう。本当は、緋月ちゃんだけを呼ぶつもりだったんだけどね。全員、この話を聞いてもいいと思ったわ。」
緋月「話って?」
マーリンは真剣な顔で話を始めた。
マーリン「緋月ちゃんが正式に宿で暮らすことになったから、宿でのルールを話すわ。他の人も聞いても大丈夫よ。関わる上で大切なことなのよ。」
緋月「はい。」
マーリン「まず1つ目。宿に泊まるからには週に一回、私のお手伝いをすることよ。事情がある時は言ってくれたらなんとかするわ。」
聖雷「お手伝いは、毎回何をやるか分からないからね。何が来てもいいように、構えておくんだよ。」
緋月「うん!」
マーリン「2つ目。風呂掃除は必ず当番がやることだわ。」
聖雷「当番と言っても…。僕と緋月だけだね。時々胡蝶になるけど。」
マーリン「3つ目。街へ行く時は必ず宿のメンバーに言うことよ。聖雷か、私に言ってちょうだい。」
聖雷「宿から一度、家に帰る時もだよ。忘れると心配になっちゃうから。」
マーリン「4つ目。この宿は私の特殊な力によって、普通の人から見えないようにしてあるのよ。関係者は宿にすんなり行けるようになってるわ。」
小夜は何かを思いついたように顔を上げた。
小夜「(宿の存在を知らなかったら、宿に辿り着かないというわけか。だから、宿を初めて来て以来、迷わなかったんだ。)」
マーリン「5つ目。これが最後よ。」
マーリンは一度、大きく息を吐いた。
マーリン「この宿のことは、絶対に誰にも言わないことよ。」
緋月は少し驚いていた。
緋月「言っちゃだめなんですか。」
マーリン「えぇ。絶対に。」
緋月「…。」
少しの間、沈黙が続く。
すると、聖雷が口を開く。
聖雷「本当はね、言うつもりじゃなかったんだけど…。」
マーリンと聖雷が目を合わせて合図をした。
聖雷「マーリンさんは、特別な存在なんだ。特殊な能力も持ってるし、喋る猫なんて普通、いないでしょ?そんなマーリンさんが外の人にバレたらまずいの。だから、誰にも言わないで。」
緋月「特殊能力?」
マーリン「えぇ。魔法みたいなものよ。」
緋月「すげぇ!」
聖雷「ずっと暮らしていけば、分かるよ。」
緋月は魔法という言葉を聞くと、興味津々にマーリンのことを見つめた。
マーリン「…でも、緋月ちゃんは守ってくれそうね。この様子を見ていると。」
緋月はキラキラとした目でマーリンを見ていた。
呆れる胡蝶と小夜。鼻で笑う影楼。
マーリン「とりあえず、宿のルールは分かったかしら。」
緋月「はい!」
マーリンは、にっこりと笑う。
マーリン「良かったわ。じゃあ、正式に登録ね。」
マーリンは緋月の方を見た。
「ようこそ、マーリンの宿へ。」