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僕たちは  作者: 猫眼鏡
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【142話】新しい生活への不安

緋月「…ねぇ。」

小夜「?」

緋月「…明日で…マーリンさんとシユウとお別れ…?」

小夜「そうだね…。」

緋月「…。」

小夜「卒業式終わったら、すぐ森に行くんだ。そこで…。」

緋月「…本当に、お別れなのかな。」

小夜「…うん。」


 緋月は無理にでも笑った。


緋月「あっはは。でも、楽しかったなー。宿でみんなと出会えて。」

小夜「…うん!…実感わかないけど。」

緋月「今日は…みんなと一緒に過ごそうかな。」

小夜「寮の方は大丈夫なの?」

緋月「どうってことないさ。1日くらい。」

小夜「そっか。…俺も、そうしようかな。」

緋月「ほんと?」

小夜「一旦家に帰るよ。明日、ママも来るから。」

緋月「分かった!」

 

 すると、教室のドアが開いた。


円香「あ!ここにいた!」

緋月「あれ。」

円香「探したんだから。」

小夜「練習はどうしたんだ。」

円香「やっぱり、家でやるよ。一緒に帰りたいし。」

緋月「いいの?明日本番だけど。」

円香「大丈夫!」


 3人は、一緒に帰ることになった。


 教室に出る前に振り返る円香。


小夜「?」

円香「緋月くん、乱夢ちゃん。」

緋月「なあに?」

円香「明日、頑張ろうね。」

小夜「うん!」

緋月「おう!」


 3人は学校を出た。


*



 その日の夜。

 聖夜の部屋。


聖雷「シユウ。」

シユウ「にゃ。」

聖雷「…ちょっと。きて。」


 聖雷はシユウを抱き上げた。


聖雷「シユウ。…ありがとう。」

シユウ「…。」

聖雷「僕、シユウと出会ってなかったらちゃんと生きられてなかったよ。」

シユウ「…。」

聖雷「シユウと森で出会って、一緒に暮らしたいって思ったから、覚悟をきめて孤児園を卒業して。兄ちゃんがいなかったのは寂しかったけど、シユウがいてくれたから生きてこれたんだよ。」

シユウ「…。」

聖雷「…僕、決めたから。シユウが森を守っている間、僕はお仕事して生きて行く。…シユウやマーリンさんが暮らす自然を、僕も守るんだ。」

シユウ「…聖雷。」

聖雷「シユウ。」

シユウ「…我も…聖雷と出会ってなかったら…飢え死んでいた…。助けてくれて…ありがとう。」

聖雷「えへへ、お互い様だね。」

シユウ「…だが…我は消えるわけではない。…いつでも、森に来てくれ。」

聖雷「うん!」


 聖雷とシユウは笑いあった。

 すると、ドアの向こうから胡蝶の声がした。


胡蝶「聖雷。」


 ドアを開け、胡蝶がやってくる。


胡蝶「…なにやってんだ。」


 抱き合う聖雷とシユウ。


聖雷「シユウと愛を確かめ合っていたんだ。」

胡蝶「…緋月みたいなことを言うな。」

聖雷「で、どうしたの。」

胡蝶「緋月と小夜が来たぞ。」

聖雷「え、こんな時間に?」

胡蝶「なんか、泊まっていくそうだ。影楼も時期に来るらしい。」

聖雷「わ!大集合だ。」

 

 宿のリビング。


緋月「あ、聖雷っち来た!」

聖雷「ひっきー!小夜!」

小夜「いきなりごめんね。」

聖雷「いいよ。ね、マーリンさん。」

マーリン「えぇ。今日は賑やかになりそうね。」


 マーリンは、食事の準備をしていた。


緋月「あれ?夕食はまだなの?」

マーリン「えぇ。今夜はちょっと、張り切ってつくっちゃったの。気が付いたらもう夜になってたわ。」

小夜「ありがとうございます。」

マーリン「いいのよ。でも、明日の卒業式に影響がないようにしないとね。」

胡蝶「そうか、明日は2人とも卒業式か。」

緋月「…うん。」

マーリン「私もいけたらいいんだけど…。」

胡蝶「難しいな。…俺らはいけるけど。」

聖雷「そうだね。胡蝶は卒業式明日じゃないの?」

胡蝶「…一応。」

マーリン「卒業式くらいは、行ってみなさい。」

胡蝶「…あぁ。そうする。」

聖雷「ねぇ、卒業式って、校長先生から卒業証書っていうのもらうの?」

小夜「そうだね。」

聖雷「へぇ、どんなこと書いてあるんだろう。」

緋月「俺っちたちの名前と、学校で何番目に卒業したかも書いてあるよ。」

聖雷「いいなぁ…。」

小夜「たいしたものじゃないけどね。」

聖雷「…もう大人になるんだね。」

マーリン「ふふ、もう高校生になるのね。」


 すると、玄関から音がした。


聖雷「?」


 シユウと聖雷が見に行こうとすると、息を切らした影楼が立っていた。


緋月「え!?」

小夜「影楼?早いね。」

影楼「はぁ…間に合ったぜ。」

緋月「おかえり!」

影楼「…まだ、夕食前か?」

マーリン「えぇ。あと30分くらいかかるわ。」

影楼「…よかった。」


 影楼が疲れて座り込む。


緋月「えっへへ、かげろっち、マーリンさんの料理がよほど食べたかったんだろうね。」

影楼「ち、ちげぇ。お腹空いてんだよ。」

小夜「かわいいね。」

影楼「うっせぇ。」


 宿に5人が揃った。

 最後の夜は、今までで一番賑やかとなった。


マーリン「はぁい、できたわよ。」


 テーブルにはご馳走。

 魚に木の実パイ、マルゲリータに、くるみパン、フルーツサラダ。


小夜「うわぁ…本当に、食べてもいいんですか。」

マーリン「もちろんよ。あなたたちが主役よ。」

緋月「俺っちたちの好物しかないよ。」

影楼「待ってたぜ。」

聖雷「うん!」


 そして、全員であいさつをした。


6人「いただきます。」


*

 

 

 豪華なご馳走は、あっという間に無くなった。


緋月「ふぁー。お腹いっぱいだ。」

 

 皿の上にはなにもなくなっている。

 みんながお腹いっぱいで眠くなり始めた。

 

影楼「久しぶりにこんな食べたぜ。」

マーリン「みんな、よくこんなにたくさん食べられたわね。」

聖雷「ほんとにね。」

マーリン「聖雷は、大丈夫なの?あまり食べてなかったけど。」

聖雷「うん。食べれなくて。」

緋月「聖雷っち、風邪?」

聖雷「違うよ。…なんか、明日が怖くて。」

 

 5人は、黙った。

 

マーリン「…。」

聖雷「こんなに、明日が来て欲しく無いなんて思ったこと無かったよ。」

緋月「…聖雷っち。」

マーリン「…やっぱり、気にしていたのね。」


 マーリンは全てを分かっているかのように言った。

 

マーリン「あなたたち、やけに明るく私に振舞っていたわ。私を不安にさせないため?」

聖雷「それは。」

マーリン「ふふ、おみとおしよ。」


 すると、マーリンは聖雷に優しく抱きついた。

 

マーリン「…あなたは1人でも大丈夫よ。私たちの元を離れても、きっとやっていけるわ。孤児園だって、覚悟を決めて1人で抜け出してきたんでしょう?…その勇気があるならば、あなたは絶対にいい大人になれるわ。だから、暗い顔をしないで。」

聖雷「マーリンさん…。」


 聖雷は、泣き出してしまった。

 2人を挟むようにして寄り添う胡蝶と緋月。

 

緋月「聖雷っち、大丈夫だよ。俺っちだって未来のことなんて分からないんだぞ。」

胡蝶「躓いた時に、また戻ってくればいいじゃないか。森にはいつだって俺らがいる。宿が無くても、俺たちは友だちだ。」

 

 聖雷の膝にシユウがやってきた。

 

シユウ「にゃぉん。」

 

 シユウは聖雷の顔をぺろぺろを舐めた。

 

聖雷「シユウ…。」

 

 小夜と影楼が聖雷の手を握った。

 

小夜「何かあった時はすぐに連絡をくれ、駆けつけてやる。」

影楼「勝手に俺たちのことを忘れるんじゃねーぞ。」

 

 聖雷は、みんなに囲まれて幸せそうにしていた。


聖雷「…うん。みんな、ありがとう。」

胡蝶「涙拭け、みっともないぞ。」

聖雷「えへへ、分かったよ。」

マーリン「きっといつか、また集まれる日がくるわ。…例え何年先だろうと、宿で過ごした日々は忘れられないはずよ。」

聖雷「うん!!」

 

 みんなで笑いあった。

 

緋月「案外、すぐ集まっちゃうかもね。」

影楼「寂しくて泣いちゃう奴がここにいるからな。」

聖雷「もー!!!」

 

 再び元気を取り戻した聖雷。

 みんなといる、幸せな時間は進んでいく。

 

*

 

 

聖雷「電気消すよ?」

4人「はーい。」

 

 部屋の電気を消す聖雷。

 布団がいくつも並べられている。

 

緋月「じゃあ寝よっか。」

胡蝶「そうだな。いっぱい笑いあったから疲れた。」

影楼「しっかし、布団敷き詰めるとこの部屋はせめぇな。」

小夜「もともとみんなで並んで寝るなんてことしないからね。」

 

 5人と、マーリンとシユウがひとつの部屋で一緒に寝ることになった。

 ぎゅうぎゅうだったが、それでもよかった。

 

マーリン「ふふ、暑苦しいわね。」

聖雷「でも僕は当たりの場所だもんね。」

緋月「どして?」

聖雷「シユウとマーリンさんの隣だもん。狭くな…」

影楼「俺の存在を消すな。隣だろう?」

聖雷「そ、…そうだね。影楼くんとシユウとマーリンさんの間…。」

緋月「かげろっちでかいいびきかきそうでやだね。」

影楼「出てけ。」

 

 みんな、しばらく会話が続いた。

 

小夜「…もう、全然寝れないじゃん。」

緋月「仕方ないよ。うるさいもん。」

胡蝶「貴様にだけは言われたくない。」

聖雷「喧嘩はやめてー。」

マーリン「ふふ、しゃべるのはいいけど、明日に影響がないようにね。」

聖雷「そうだね。」

マーリン「一生に一度の卒業式でしょう?寝不足で倒れたらいい思い出にならないわよ?」

緋月「そうだね。…そろそろ、寝よう。」

影楼「朝寝坊すんじゃねーぞ。起こさねぇぞ。」

緋月「分かってるって。ちゃんと目覚ましもかけてあるよ。」

胡蝶「止めて忘れるなよ。」

小夜「ひっきーならありそう。」

緋月「もう!大丈夫だって。」


 そして、全員は会話をやめて、寝ることになった。

 

緋月「…じゃあ、おやすみ。」

4人「おやすみ。」

マーリン「おやすみね。」


 宿で過ごす最後の夜は、幕を閉じた。

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