【141話】中学の思い出
3月。
寒さも和らぎ、花が咲き始めた。
体育館で合唱練習をする3年生たち。
卒業式の曲を歌っていた。
もうすぐ、卒業式。
緋月たちにとっては、最後の3月だった。
円香「乱夢ちゃん、放課後練習行く?」
小夜「うん。昨日は行かなかったし、今日は行こうかな。」
円香「一緒に行こう!」
合唱練習が終わると、放課後練習に移った。
生徒が体育館に残る。
女子生徒1「じゃあ、パート練習にしたいと思います!各パート、ラジカセを持っていって練習してください。最後に2回ほど合わせます。」
生徒たちが各パートで集まり、練習を始める。
円香「じゃあ、ちょっと楽譜読みながら練習してみよっか。」
女子生徒2「はーい。」
ソプラノパートの練習を始めた。
小夜・円香「♪~」
ふと男子の方を見てみると、緋月がクラスメイトに囲まれながら楽しそうに歌っていた。
小夜「(ひっきー、変わったな…。)」
去年の夏まではクラスメイトとあまり馴染めずに不登校になっていた緋月。
今では、皆と仲良くできるようになっていた。
円香「ちょっと、何よそ見してるの。」
小夜「あ。」
円香「もう…、緋月くんが気になるの?」
小夜「いや。」
円香「ふふ。」
円香に注意されながらも合唱をした。
小夜「(円香も、変わったな。)」
3年生に上がってから、緋月たちと一緒のクラスになった円香。
真面目な性格で、模範となる生徒だった。
それが、彼女が勇気を出して緋月たちに話しかけたことで、前向きな性格であることが分かってきたのだ。
女子生徒2「みんな、前よりテンポがあってきたね。」
女子生徒3「楽譜まで読むと音程が分かっていいね。」
円香「うん!」
円香は、こんなにも明るく、笑うようになったのだ。
小夜「そういえば円香、伴奏の方は大丈夫なの?」
円香「うん!夜から練習するから。」
小夜「そっか。」
円香「今は、皆と一緒に勉強したいから。」
小夜「勉強?」
円香「お歌の勉強!」
円香は嬉しそうに笑った。
*
放課後練習が終わると、3人は一緒に帰った。
円香「あはは、そんなところにあったんだ。」
緋月「だって、机の中から出てくるとは思わないじゃん。一生懸命探したのにさ。」
小夜「バカだな。」
3人で笑った。
円香「…もうすぐ、卒業式だね。」
小夜「…うん。」
緋月「学校に行くのも、あと数回ってところか。」
円香「そうだね。」
緋月「…俺っち、楽しかったよ。皆と会えて。」
円香「寂しいこと言わないでよ。…でも、そうだね。乱夢ちゃんと、緋月くんと仲良くなれてよかった。」
小夜「うん。」
すると、円香が立ち止った。
円香「卒業式、頑張ろうね。」
すると、手を振って円香と分かれた。
緋月「…もう、こうやって一緒に帰るのも数少ないのか…。」
小夜「そうだね。」
緋月「でも、残りの時間を楽しむしかない。そうだよね?」
小夜「分かってるね、ひっきー。」
緋月はニヤリと笑った。
小夜「今日は、宿よってく?」
緋月「うん!」
小夜「じゃあ、こっちだね。」
2人は森の方向へ向かった。
*
そして、卒業式前日。
生徒たちは午前中に卒業式に予行をやっていた。
入場から退場まで、全てのプログラムを本番通りに行った。
卒業生による合唱では、円香が伴奏をしていた。
そして、予行が終わると。
小夜「伴奏お疲れ。」
円香「ありがと。…でも、ちょっと失敗しちゃった。」
小夜「そうなのか。」
円香「まちがえちゃったの。」
小夜「そっか。そうは感じなかったが。」
円香「本番は私も歌いながらやるから、今日も練習しなきゃ。」
小夜「放課後も残るの?」
円香「うん。乱夢ちゃんたちは帰る?」
小夜「ううん。少し、教室で残ってようかな。」
円香「分かった。」
円香が体育館から出て行った。
すると、緋月がやってきた。
緋月「円香っち、これから音楽室?」
小夜「そうみたい。」
緋月「そっか。…待ってる?」
小夜「うん。帰ってもやることないし、今日あんまり遅くまでやらないみたいだし。」
緋月「じゃあ、一緒に暇を潰そうよ。」
小夜「うん!」
2人は、校舎に戻った。
体育館から教室に戻る途中。
2人は歩きながら、思い出を話し合った。
小夜「ねぇ、ひっきーは、1年の時に何してたの?」
緋月「うーん、俺っちは、入学式以外、あんま言ってなかったかも。」
小夜「そうなの?」
緋月「…嘘だよ。途中まではちゃんと言ってた。でも、だんだんつまらなくなって。家に帰りたくないからずっと公園で時間潰してたかな。」
小夜「ふふ、一緒だね。」
緋月「そうだね。小夜っちも円香っちも、廊下で何回もすれ違っているはずなのになんで覚えてないんだろう。」
小夜「お互いあんまり関わらなかったからね。」
緋月「どうしてもっと最初に会ってなかったんだろう。」
1年生の教室の廊下から、2年生の教室前まで来た。
小夜「2年生か。…俺たちが出会ったのも、あの時だったね。」
緋月「そうだね。俺っちが、夏のベンチで休んでる小夜っちに勇気をかけて話しかけたんだ。『秘密基地に行こう』なんて変な言い訳作ってさ。ただ、小夜っちと関わりたいだけだったのに。」
小夜「でも、それがすごく嬉しかったんだよ。」
緋月「懐かしいなぁ。」
小夜「すごく暑い日だったね。急に森へ行こうなんて言って、びっくりしたけど。」
そして、ついに3年生の教室の前に来た。
小夜「ついたね。」
緋月「うん。」
小夜「あっという間だったね。」
緋月「うん。」
2人は、誰もいない3年A組の教室に入った。
緋月「初めの頃、覚えてる?帰り道に猫を見かけたの。」
小夜「うん。かわいかったね。」
緋月「シユウみたいに白くて。よく撫でたよね。」
小夜「宿に持って帰りたいって言ってたもんね。」
緋月「あの時、持って帰らなくてよかった。あんなにかわいいにゃんこがいると、勉強に集中できないよ。」
小夜「シユウは今もいるけど。」
緋月「シユウは偉い神さまだからね。」
小夜「休み時間に、図書室で漫画読んだのも楽しかったね。」
緋月「毎回小夜っちが紹介してくれる漫画が面白いんだもん。」
2人は、席に座りながら話し合った。
小夜「体育祭で、ムカデ競争をしたな。ひっきーが皆のことを気合で引っ張ってた。…だんだんクラスのみんなと馴染めるようになって、受け入れてくれたんだ。」
緋月「ちゃんと体育祭に参加したのも、初めてだったかも。」
小夜「俺も。」
緋月「ついこの間まで、ここにいるのが嫌だったのに。なんでだろう、今はすごく楽しいや。」
小夜「俺も。」
緋月「小夜っちのおかげだね。」
小夜「そんなことないよ。…俺も、ひっきーに助けられた。」
すると、緋月はあることに気が付く。




