【136話】ラスト・バレンタイン
2月になった。
緋月たちは学校が始まり、あとは卒業だけとなった。
授業が終わった放課後。
小夜「…そうなんだ。でも、よかったね。お母さんに許してもらえて。」
緋月「うん。寮で一人暮らしするっていったら、勝手にしろって…。」
小夜「ある意味いいのかもね。」
2人は話しながら学校を出ようとした。
緋月「あ。」
すると、円香が急いで学校を出ていこうとするのが見えた。
緋月「円香っちー?」
円香「!!!」
円香は驚いたように振り返った。
緋月「急いでるの?
円香「う、うん。」
緋月「そっか。じゃあせめて。また明日ね!」
円香「うん。じゃあね。」
円香はすぐに帰ってしまった。
小夜「…円香、何かあるみたいだな。」
緋月「レッスンかな。」
小夜「忙しいなら、あまり無理言わないことだな。」
緋月「そうだね。」
2人は、学校を出て帰ることになった。
*
円香「ただいま~。」
円香が家に帰ると、すぐにバッグを部屋に置いた。
円香「よし、つくるぞ~。」
向かった先は、キッチンだった。
冷蔵庫から、材料を取り出す。
レシピの書いた紙を見ながら、道具も準備した。
準備ができると、料理を始めた。
円香「えっと…グラニュー糖60g…薄力粉60g、…」
そう、円香が作ろうとしてたのは、お菓子だった。
明日はバレンタイン。
円香「…ちゃんと美味しくできるかな…。」
円香は不安に思いながらにも、チョコレート菓子を作った。
円香「美味しくなりますように。」
*
2月14日。バレンタイン当日。
朝、緋月が教室に入ると。
緋月「…?」
女子たちがチョコレートと男子に配っていた。
女子生徒1「はい。」
男子生徒1「ありがとう!帰り食べよーっと。」
女子生徒1「見つからないようにね。」
女子生徒2「ちょっと多めに入れておいたよ。」
男子生徒2「ありがとう。」
小夜「…ひっきー、おは。」
女子と男子を見ていると、小夜が話しかけてきた。
緋月「あ、小夜っち、おは~。」
小夜「(女子や男子たちを見て)みんな、先生がいないからチョコ渡してる。」
緋月「チョコ?」
緋月は、ようやく今日がバレンタインデーということに気が付いたようだった。
小夜「忘れるなんて、ひっきーらしいな。」
緋月「全く眼中になかったよ。」
小夜「結構皆、前から言ってたよ?」
緋月「聞いてなかったよ。」
緋月と小夜が席に座ると、2人で話をし始めた。
緋月「…あ、そうだ。小夜っち、次の休み時間暇?」
小夜「移動はあるけど…。」
すると、円香が教室に入ってきた。
円香「お、おはよう。」
小夜「おはよう。」
緋月「円香っち、寒そう。」
緋月は、円香の格好を見ると少し笑った。
円香「…う、うん。」
小夜「最近、朝から気温が低いからな。風邪ひかないようにな。」
緋月「そうだね。」
円香は、緋月の様子を気にしているようだったが、小夜と緋月は気がついていなかった。
すると、女子生徒たちが3人に近づいてきた。
女子生徒3「ねぇ、藤本くん。…これ。」
緋月「え?」
差し出されたのは、チョコだった。
女子生徒3「皆に配ってるの。」
緋月「え、ありがとう!」
女子生徒3「茉莉衣さんも、円香さんも。」
小夜「ありがとう…。」
円香「あ、ありがとう。」
女子生徒4「茉莉衣さーん、あたしのも。」
女子生徒5「こっちも~!」
小夜たちは、クラスメイトからどんどんチョコをもらった。
女子生徒6「はい。来年は、渡せないけど。」
小夜「ありがとう。」
緋月「わーい、こんなにもらっちゃった。」
女子生徒7「実はね、茉莉衣さん結構モテるんだよ?」
小夜「え?」
女子生徒7「ここだけの話だけどね。男子たちもチョコあげたいって。」
小夜「そうなの?」
女子生徒7「どちらかというと、イケメン系女子かな。」
女子生徒と話しているのを見ている円香。それに気が付く小夜。円香はなんだかもじもじしていた。
小夜「…?」
緋月「ねぇ、どうしよう。今までで一番チョコもらってるよ。」
小夜「食べきれるの?」
緋月「わかんない。…ねぇ、小夜っちはくれないの?」
小夜「もらおうと思ってたのか。」
緋月「えへへ。小夜っちならもらえるかなって。」
小夜「はぁ…。」
やがて、チャイムがなると朝のHRが始まった。
生徒たちはもらったものや自分のチョコを隠した。
*
昼休み。
給食の前が体育だったので、体育着のままだった。
小夜「制服に着替えてから図書室いかない?」
緋月「そうだね。じゃあ、あとで。」
小夜と緋月が分かれた。
それぞれの更衣室で着替えが終わると、教室に戻った。
緋月「小夜っち?」
教室に戻ったが、小夜はまだのようだった。
緋月「まだかー。」
教室には、皆が着替えに行ったのか、あまり人がいなかった。
緋月「仕方ないね。待ってよっと。」
緋月が席で待っていると、円香が入ってきた。
円香「…。」
緋月「あ、円香っち。」
体育着のまま、緋月の近づいてきた。
円香は、なにやら様子がおかしかった。
緋月「まだ、着替えてなかったんだね。」
円香「…うん…。」
緋月「…どうしたの?」
円香「…緋月くん。…その…。」
円香は顔を隠すように下を向いた。
緋月「なぁに?」
円香「…あの…ね。」
沈黙が続く。そして、円香が言おうとした瞬間。
小夜「ひっきー?」
教室に入ってきたのは、小夜だった。
緋月「あ、小夜。遅いよー。」
小夜「そんなに時間経ってないでしょ。…円香?」
小夜が円香に気が付くと、円香はビクッとした。
円香「っ…!」
小夜「?」
円香「わ、私、き、着替えてくるね…。」
そういうと、円香は教室を出ていった。
小夜「…。」
緋月「どうしたんだろ。」
小夜「…さあな。図書室いくか?」
緋月「そうだね。本返しに行かないと。」
2人は図書室へ向かった。
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その頃の円香は。
円香「あぁ…もう、私ったら…。」
トイレの個室でうずくまる円香。
ポケットから、そっと箱を取り出した。それは、緋月へ向けたチョコレートだった。
円香「はぁ…。」
円香は、緋月に渡せなかったことに後悔していた。
円香「うう……。」
でも、円香は諦めることはなかった。
円香「こうなったら…!」
円香はトイレでさっさと着替えると、ある場所に向かった。




