【14話】笑わせてもらったお礼
影楼がお腹を抱えて笑っている。
緋月「どうしよう…。ついにおかしくなっちゃったのかな。(小声)」
小夜「うーん…。」
影楼は、笑いながら4人のことを見た。
影楼「お前ら、おもしれぇ奴らだな。」
今まで威嚇してきた影楼からは想像のつかない言葉だった。
それもあって、困惑していた。
影楼「気に入った。お前ら、よーく見てろよ。今からこの森の魚、食わしてやるァ。」
そう言うと、影楼は小屋の中へ走って戻った。
*
焚き火の周りを囲む5人。
釣った魚を木の枝に刺して、魚を焼いていた。
緋月は焚き火の近くに顔を近づけて待っていた。
緋月「まだかな♪」
影楼「おい、あんま近づくと顔焦げるぞ。」
影楼が緋月の服を引っ張り、火から離れさせる。
聖雷「影楼くん、いいの?僕たちが食べて。」
影楼「気にすんな。どうせ今日釣ろうと思ってたんだから。」
そう言うと、影楼は焼いている魚を裏返した。
小夜「影楼さん、釣り、上手でしたね。」
影楼「あ?ああ。小さい頃からやってっからな。」
緋月「さっき、凄かったね。同じ材料で作った釣竿なのに、一瞬で魚を釣り上げてた。」
聖雷「えへへ。釣竿の作り方、影楼くんから教わったんだけどなぁ。僕たちは枝しか釣れなかったね。」
緋月「さっすが、かげろっち!」
影楼「あ゛?」
緋月「めんご〜。」
影楼が、焼いた魚をそれぞれに渡していった。
影楼「ほれ。食べろ。」
4人は「いただきます。」というと、魚をかじった。
影楼「あちぃから、気ぃつけて食べろよ。」
緋月「あちちちち…。」
胡蝶「言ってる側から。」
魚を食べる4人。熱い身を冷ましながら、少しづつ食べる。
緋月「この魚…、美味しい!」
胡蝶「ああ。」
その言葉を聞くと、影楼は照れくさそうに笑った。
影楼「ああ、そうかよ。」
小夜「本当だ、美味しい。」
聖雷「この池の魚ってこんなに美味しかったんだ。」
影楼「こう見えて、結構美味しい魚が泳いでんだぜ。この池。」
緋月「想像つかないなぁ。」
影楼「枝しか釣れなかったもんなァ。
一緒に駄弁りながら魚を食べていた5人。
森のことについても、影楼と話してみることになった。
小夜「影楼さんは、森でどうやって暮らしているんですか。」
影楼「基本的には小屋にいる。だが、食糧を調達したり、どっかに家建てたりしてる。」
小夜「へぇ。」
聖雷「宿も、影楼が建ててくれたんだよ。マーリンさんからのお願いで。」
影楼「まァな。」
胡蝶「大工道具もあるのか?」
影楼「あぁ。何でも揃ってるよ。」
緋月「あっそうだ。俺っちが間違えて入ろうとしたところって、かげろっちの家だったの?」
影楼「あぁ、あれか?あれはちげぇ。」
すると、すぐ後ろの小屋の近くにある鉄の床板のようなものを外し、4人に見せた。
影楼「地下室だ。階段があるだろ?」
緋月「うわぁ。下があるんだ!」
床板の中には下り階段。
どうやら、小屋の近くに地下室があるらしい。
小夜「地下室には、何があるの?」
影楼「まァ、大事なモンだな。風呂とかもある。」
胡蝶「これも影楼がつくったのか。」
影楼「あぁ。」
緋月「すごーい!」
影楼「地下室には誰も近寄れねぇようにしてんだよ。だから、このクソガキをとっ捕まえて焼いてやろうと思ったわけ。」
緋月「ひぃぃ。」
影楼は鼻で笑った。
影楼「まァ、冗談。」
緋月「なんだよ。」
胡蝶「こんなに立派な家や地下室を作れるのに、街には住まないのか。」
影楼「…あぁ。」
聖雷「確かに。大工さんできそうだよね。」
影楼「この森のことが…忘れられねぇんだよ。」
小夜「忘れられない。」
影楼「あぁ。どうしてもな。」
影楼が優しい表情になる。
全員、穏やかな気持ちになる。
すると、聖雷が何かを思い出した。
聖雷「…あ。そういえば。マーリンさんからの課題。」
それにつられて、皆が課題のことを思い出す。
胡蝶「そういえば。」
緋月「忘れてたぁ〜。」
すると、影楼はまた鼻で笑った。
影楼「あ〜。もういい。」
小夜「え。」
緋月「その前に条件もクリアしないと。」
影楼「もういいっつってんだろ。」
全員、影楼の方を見る。
影楼「今日はひっさしぶりに笑わせてもらった。お前らみたいなクソガキにな。だから、改築くらい、ただでやってやらァ。」
影楼はすごく乗り気だった。
それを見て嬉しそうになった。
聖雷「本当にやってくれるの?影楼くん!」
影楼「あぁ。お礼ってモンか?」
小夜「ありがとう、影楼さん。」
影楼は嬉しそうに立ち上がった。
4人は、課題クリアと影楼に会えたことに喜んだ。
森の中で騒ぐ5人。
少年・少女たちの夏はまだ終わらない。




