【133話】宴
氷室高校の正門前。
緋月「…。」
校舎の前に受験生がぞくぞくと集まってきた。
もうそろそろ、合格発表だ。
緋月「…。(合格してますように。)」
3分ほど経つと、氷室高校の教師が大きめの紙を持って現れた。
緊迫する空気。
そして、ついに合格者の受験番号が発表された。
緋月「…!!」
*
宿。
リビングの掃除をしている聖雷とマーリン。
そこへ、胡蝶が起きてきた。
胡蝶「ん…おはよう。」
聖雷「おはよう!」
マーリン「ちょっと待ってね。掃除してるから。」
胡蝶「あぁ。…緋月は?」
聖雷「合格発表に行ったよ。」
胡蝶「あぁ、そっか。」
胡蝶はキッチンに水を取りに行った。
マーリン「…よし、もう座っていいわよ。」
胡蝶はテーブルの周りに座った。
聖雷「朝食持ってくるね。」
胡蝶「いや、あとででいい。」
聖雷「あとで?昼になっちゃうよ。」
胡蝶「あぁ、大丈夫だ。」
すると、玄関から物音がした。
緋月「ただいまー!」
緋月が帰ってきたようだった。
聖雷「あ!おかえり!」
緋月は帰ってくるなり、走ってリビングまで来た。
緋月「みんな!!!」
緋月は、1枚の紙を掲げた。
聖雷「ん?」
緋月「合格、したよ!」
緋月が掲げたのは入学手続きの書類だった。
胡蝶「!」
聖雷「ひっきー!おめでとう!」
緋月の合格に喜ぶ胡蝶たち。
マーリン「よかったわ。緋月ちゃんなら、合格できると思っていたわ。」
緋月「えっへへ。」
胡蝶「まさか、こんなに早く合格するとは思っていなかったぞ。」
緋月「なにそれ~。」
聖雷「ちゃんと勉強した甲斐があったね。」
緋月を抱きしめる聖雷。微笑むマーリン。
聖雷「この書類はどうするの?」
緋月「明日、家に帰って母さんに書いてもらう。…ついでに高校のことも言わなきゃ。」
聖雷「許してもらえるかな…?」
緋月「わからないけど…。高校に入ったら寮で過ごすし、バイトしながら学費を返すから。」
マーリン「頑張ってちょうだい。」
緋月「うん!」
緋月は、リビングの床に寝っ転がった。
緋月「ふぁ~。ようやく受験が終わったんだ。」
胡蝶「長かったな。」
緋月「これで3月までは遊べるぞ~!」
受験から解放されて、緋月は自由の身になった気がしていた。
すると、マーリンが鏡を見ながら何かに気が付いた。
マーリン「ふふ。」
聖雷「どうしたの?」
マーリン「お客さんのようね。」
少し経つと、玄関から物音がした。
緋月「!…もしかして。」
リビングに飛び込んできたのは、小夜だった。
小夜「みんな!」
聖雷「小夜だ!おはよう。」
緋月「小夜っち!」
小夜は制服姿だった。
小夜「合格したよ!」
緋月「うおおおお!!!」
喜ぶ4人。
マーリン「ふふ、これで一安心ね。」
小夜「ひっきーも、合格してたんだね!」
緋月「うん!一緒に合格だね!」
マーリン「2人とも、努力が実ったのよ。」
胡蝶「倍率はどのくらいだったんだ。」
小夜「俺のところは5倍。」
緋月「俺っちは3倍だよ。」
聖雷「…?」
小夜「5倍は5人に1人、3倍は3人に1人が合格する感じ。」
聖雷「すごいじゃんそれ!」
胡蝶「バカな緋月にとって3倍はよく潜れたな。」
緋月「うるさーい!」
宿の中での受験戦争が終わった。
2人とも、一段落がついたということで、今日の夜はご馳走にすることになった。
*
電話の呼び出し音。
緋月「……。」
円香《はい。》
緋月「円香っち!俺っちだよ。」
円香《緋月くん?私だよ。》
電話の相手は円香だった。
緋月「ねぇ、合格発表どうだった?」
円香《…緋月くんは、受かったね?》
緋月「うん。何でわかったの?」
円香《やっぱり、受かると思ってたよ。》
緋月「そうなの?」
円香《あれだけ勉強していればね。おめでとう。》
緋月「ありがとう。…円香っちは?」
円香《えへへ…落ちちゃった…。》
緋月「え…。」
円香は、少し暗い感じだった。
円香《第一志望の倍率が思ったよりも高くて。…私なんかじゃ、手が届かなかったの。》
緋月「そうだったんだ。」
円香《でも、大丈夫。第二のところは受かったの。》
緋月「ほんと!?」
円香《第一志望の合格発表行ったあとに、メールが来てね。第二は合格したよ!》
緋月「第二って、戸倉高校?」
円香《うん!なかなかいい学校だよ。》
緋月「そっか、よかったね。」
すると、緋月のもとへ聖雷がやってきた。
聖雷「(小声で)ひっきー、そろそろご飯だよ。」
緋月「わかった!」
円香《…ごはん?》
緋月「うん。そろそろ切るね。」
円香《うん。学校で会おうね。》
緋月「じゃあね!」
緋月は電話を切った。
聖雷「まどかって子?」
緋月「うん。第一志望が落ちちゃったんだって。」
聖雷「みんな、思い通りにいかないんだね…。」
緋月「…うん。」
聖雷「ひっきーと小夜は合格して良かったよ。本当に。」
緋月「…みんなのおかげだよ。」
聖雷「え。」
緋月は最高の笑顔を見せた。
緋月「小夜っちが勉強を教えてくれて、聖雷っちとマーリンさんとシユウが俺っちの代わりに家事をやってくれて、胡蝶がお母さんとのトラブルの時に助けてくれて。俺っちがサボりそうな時にかげろっちが叱ってくれて。…みんなに助けられたんだ。」
聖雷「…ひっきー。」
緋月「みんなみんな、大好きだよ。ありがとう。」
聖雷「…ふふっ。」
緋月「?」
聖雷「ひっきーらしいね。」
緋月「…そうかな。」
聖雷「それ、みんなに伝えないとね。ひっきーがみんなのことを…大好きだって。」
緋月「ええ、それはいいって!」
聖雷「えへへ…伝えちゃうぞ!」
聖雷はリビングへ向かおうとした。
緋月は追いかけた。
聖雷「いこっか。」
緋月「うん!!」
緋月たちは、リビングへ向かった。
リビングで迎えてくれたのは、小夜たち。
みんなで、夜のご馳走を楽しんだ。




