【128話】勉強の合間のひととき
*
円香家のリビング。
円香母「…円香たち、しっかりと勉強できているようね。」
小夜たちが円香の部屋に入ってから3時間。
誰一人としてリビングに来てないことから、勉強に集中できていると思われていた。
円香母「ちょっと、お菓子をもっていってあげようかしら。」
円香の母はお菓子を皿の上に並べ、円香の部屋へ向かった。
ドアの前で1度、声をかけた。
円香母「円香たち、入るわよ?」
部屋のドアが開いた。
そこには、寄り集まって1つの本を見る3人の姿があった。
円香の母は驚愕した。
円香母「…あなたたち…?」
円香「お母さん…!」
3人は気まずそうにしていた。
緋月「お、俺っちが悪いんだ。本に夢中になっちゃったから…!」
小夜「すみません…。」
すると、円香の母は笑った。
円香母「別に、怒ることなんてないわ。遊んでたくらい。」
小夜・緋月・円香「え。」
円香母「…受験生だって、遊びたいでしょう?青春したいでしょう?…勉強ばっかじゃ、いい大人になれないわよ。」
円香「でも。」
円香母「自分の入りたい高校に入るために頑張るのはもちろんだけど、その中でちゃんと遊ぶことも中学生の仕事なんだから。」
そういうと、お菓子の乗った皿をテーブルの上に置いた。
緋月「ありがとうございます…。」
円香母「気にしないでいいのよ。精いっぱい、遊びなさい。」
円香母が部屋から出ていくと、3人は顔を合わせた。
円香「…たまには、ね?」
小夜「休息もしないとな。」
緋月「えっへへ。」
3人は勉強道具をしまうと、本をまた読み始めた。
円香「でもさ、明日からはちゃんとやらないとだよ?」
緋月「もっちろん!」
小夜「今日だけのサービスってことな。」
3人は笑いあった。
*
緋月「あははは。」
本を読んで笑いあう3人。いつの間にか夕方になっていた。
小夜「今、何時だ?」
円香が時間を確認する。
円香「えっと、…もう5時?」
緋月「えぇ!」
小夜「すまないが、俺はそろそろ帰らないといかん。」
緋月「もう帰っちゃうの?」
小夜「音夢が来てるからな。少しでも遊んでやらないと。」
円香「わかった。緋月くんはどうする?」
緋月「まだいる。」
円香「わかった。」
小夜が帰る準備をすると、円香と一緒に玄関まで送った。
円香母「また来てね。」
小夜「お菓子もありがとうございました。お邪魔しました。」
円香母「気を付けて。」
小夜「また明日ね!」
円香「じゃあね~。」
円香たちが手を振ってドアが閉じた。
小夜が帰った。
円香母「緋月くんは、まだ帰らないの?」
円香「うん。もう少しだけいるって。」
円香母「そう、遅くならないようにね。」
円香「はーい。」
円香は部屋に戻った。
緋月「小夜っち、帰った?」
円香「うん。」
円香がテーブルの上を片し始めた。
円香「緋月くん、何時に帰る?」
緋月「6時ごろかな。まだ本読みたい。」
円香「うふふ、なんか、すっかり占いにはまったね。」
緋月「円香っちの本棚が面白すぎるんだよ。」
円香「そう?」
小夜が帰った後も2人は占いの本を読んでいた。
緋月「円香っち、目の前に大きな木があるよ。その木には、リンゴが何個なっていて、何個落ちている?」
円香「うーーーん、2個なってて、1個落ちてるかな。」
緋月「俺っちはね、1個もなってない。そんで、2個落ちてる。」
緋月は、次のページをめくった。
緋月「この心理テストでは、あなたの恋が実るかか分かります。」
円香「え!」
緋月「恋愛の心理テストだったんだね。」
円香「…結果は?」
緋月「木になっているリンゴの数が実る恋の数、落ちてるのが実らない数。だって…。」
円香「私、2回恋が実るのね!でも、1回実らないって。」
緋月「あはは、残念だね。」
円香「笑わないでよー。」
緋月「俺っち、1個も実らないよ…。」
円香「え、」
緋月「2回とも失恋だって。」
緋月が悲しそうな顔をした。
円香「ふふ、まぁ落ち込まないで。まだ中学生だし。」
緋月「うん…。」
円香「この先、高校生になったらきっと実る日がくるよ。」
緋月「その時にはもう、この心理テストの結果なんて忘れてるよね。」
円香「そうそう!」
2人で笑いあった。
緋月が本を閉じて手遊びをしている。
急に、場が静かになったのに気が付いた。
円香「…なんか、乱夢ちゃんいないと寂しいね。」」
緋月「そうだね。」
円香「…。」
少しまた静かな時間が続く。
円香「…ねぇ、緋月くん。」
静かな部屋に円香の声が響く。
緋月「なあに?」
円香「…緋月くんは……好きな人とか、いないの?」
円香の顔が少し赤かった。
緋月「…うーん、わかんないや。」
円香「わかんないって…?」
緋月「俺っち、そういうの気にしたことないや。」
円香「そうなの?」
緋月「円香っちは、いるの?」
円香「え。」
急な緋月からの質問に戸惑う円香。
円香「えっと…。」
緋月「?」
円香「…い…」
緋月「い…?」
2人の時間が流れる。
円香「…い、…いない……。」
緋月「いないんだ。」
円香「……うん…。」
緋月「なあんだ、てっきりいるのかと思ったよ。」
円香「…いたら、だめなの?」
緋月「いや?ただ、お友達のために恋は応援しないとなって思って!」
円香「…ありがとう。」
緋月「いないならしょうがないね。」
円香「…あはは。」
すると、円香の母が部屋の前にやってきた。
円香母「あの、もしよろしければなんだけど。」
緋月「?」
円香母「今日のご飯、食べていかない?もちろん、親御さんがよかったらね。」
緋月「いいんですか?」
円香母「ええ、せっかくだし。」
緋月「ありがとうございます!」
緋月が円香の母にお礼を言った。
円香母「もう出来てるわよ?キリのいいところで。」
緋月「わーい!行きます!」
2人はリビングへ食事をに行くこととなった。
*
小夜の家。
小夜「ただいまー。」
家政婦「おかえりなさいませ。」
小夜は靴を脱いで家に上がると、リビングへ向かった。
すると、やはり見知った声が聞こえた。
音夢「お姉ちゃん!」
音夢が小夜に抱きつく。
小夜「よく来たね。」
音夢「遅かったよー。」
小夜「ごめんごめん。」
音夢「どこいってたの?」
小夜「学校と、友達の家で勉強会。」
音夢「べんきょうかい?」
小夜「みんなで勉強したの。」
音夢「楽しそう!音夢もやる!」
小夜は一旦荷物を部屋に置き、制服から着替えると、リビングへ向かった。
リビングでは、食事がもう用意されていた。
家政婦「今日は音夢様とお嬢様の大好きなからあげですよ。」
音夢「はなさん(家政婦)、ありがとう!」
家政婦「お嬢様も、たくさん食べてね。」
小夜「うん、ありがとう。」
円香家も茉莉衣家でも夕食が始まった。
家族や友人と食べるディナーは一段と美味しく感じられた。
受験の合間のひと時。それは受験生にとっての幸せでもあった。
その受験勉強も、残りわずかとなった…。




