【124話】受験への思い
10月。
とうとう世の中が寒くなり始めた。
胡蝶「ほら、ココア。」
宿のリビング。胡蝶がホットココアを作ってくれた。
聖雷「ありがとう。」
影楼「ありがとよ。」
テーブルの上にココアを置いた。
影楼「あれ、あのバカは?」
胡蝶「勉強だ。部屋にいると思う。」
影楼「そっか。」
聖雷たちはココアを飲んだ。
影楼「マーリンさんは?」
聖雷「ちょっと山の方に行ってくるって。」
影楼「じゃあ、待つしかねぇか。」
影楼が見る方向には、木の実が入っている籠があった。選別をした後のようだった。
聖雷「やっと選別が終わったんだね。お疲れ様!」
影楼「大変だったんだぞ。感謝しろ。」
聖雷「うん!」
辺りが一回静まった。
胡蝶「…最近、あまり小夜も来ないな。」
聖雷「受験生だもんね。仕方ない。」
影楼「家にいるぞ。」
聖雷「小夜の家に行ったの?」
影楼「いや。小夜から直接聞いた話だ。」
胡蝶「2人とも、高校受験だもんな。」
聖雷「難関校を受けるんだって。」
すると、マーリンが帰ってきた。
聖雷「おかえり!」
マーリン「ただいま…あら、影楼?」
影楼「選別できたぞ。」
マーリン「早いわね。…緋月ちゃんは、ちゃんと勉強してる?」
聖雷「うん。さっき1度だけ降りてきたよ。(リビングに来た)今が頑張りどころだってさ。」
マーリン「そうね。」
マーリンは木の実が入っている籠を持ち上げ、袋に移した。
影楼「……。」
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家政婦「お嬢様、入りますよ。」
小夜の家。
家政婦が小夜の部屋に入った。
小夜「ありがとう。」
家政婦「がんばってね。」
家政婦は小夜に暖かいココアを渡した。
家政婦「今日は外出しないのね。」
小夜「うん。図書館閉まってたの。」
家政婦「臨時休業かしら?」
小夜「清掃だって。」
家政婦「仕方ないわね。ココア、欲しくなったらいつでも呼んでね。」
小夜「ありがとう。」
すると、家政婦は部屋を出ていった。
小夜「はぁ…。」
小夜はココアを眺めながら背もたれに寄りかかった。
小夜「……今日は、ここまで…かな。」
机の上のテキストを閉じると、すぐ横に置いてあったスマホを取った。
通知が来ていないことを確認すると、また横へ置いた。
小夜「………俺には、勉強を頑張らないといけない理由がある。だから、絶対に諦めちゃいけないんだ…。」
小夜には、高校の受験をする理由があった。
それは、家族…母親のためでもあった。
*
茉莉衣乱夢、7歳。
小夜「ママ、行ってらっしゃい!」
母「行ってきます。…じゃあ、よろしくね。木室さん。」
私は、小夜。本名は茉莉衣乱夢。
母親の茉莉衣結依は、女優の仕事をしていて、朝早くに出ていく。
父親の茉莉衣陽介は、医者。白駒総合病院の外科医。
家政婦は、木室花菜さん。私が1歳の時からずっと一緒にいる。
小夜「…行っちゃった。」
家政婦「じゃあ、お嬢様も準備しないといけませんね。」
小夜「もうできてるよ。」
家政婦「まぁ、早いわね。じゃあ…」
家政婦は、小夜の手を引いた。
家政婦「今日は早めに出ましょうか。」
小夜「え?」
家政婦「公園の近くを通って行きましょう。」
小夜「いいの?」
家政婦「えぇ、さぁ。ランドセルを背負って。」
小夜「うん!」
幼稚園の頃から、私は木室さんに送ってもらっていた。近所の幼稚園に通っていて、特に何事もなく卒園できた。
友達もできたが、男の子の友だちばかりだった。
虫取りや、鬼ごっこなどの遊びをして遊んでいた。
母と父は仕事が忙しくて、家に帰ってこないことが多かった。だから、家政婦の木室さんにいつもお世話になっていた。
*
ある日の学校にて。
休み時間。クラスのみんなが外で遊びに行ったりしている中、私は2年1組の教室で図鑑を読んでいた。
私の少し前で、女の子たちが何やら話をしていた。
女の子1「ねぇねぇ、きのうリカちゃんに教えてもらったおまじないしてあげる。」
女の子2「なにそれ?」
女の子1「お友だちができるおまじないだよ。」
女の子3「そうなの?やりたい!」
女の子1「じゃあ、この紙をにぎって。」
女の子が、小さな紙切れを渡した。
女の子2「にぎった。」
女の子1「その紙にはね、まほうがかかってるの。だから、にぎった人が幸せになれるんだよ。」
女の子2「やったぁ。」
女の子3「いいなー、私もやって!」
女の子たちが盛り上がっているところを横目に見ていた。
すると、女の子たちが小夜に気がつき、近づいてきた。
女の子1「あなたもやる?」
小夜「…おまじない?」
女の子3「にんきものになれるよ!」
小夜「うん!」
小夜は、さっき渡していた紙切れを握ってみた。
女の子2「うわぁ、これでにんきものがいっぱいになるね。」
すると、小夜は紙切れをじっと見た。
女の子3「どうしたの?」
小夜「……本当に、効くのかな。」
女の子1「あたりまえよ。」
小夜「…。」
女の子3「なにが気に入らないのよ。」
小夜「…もし、これで本当ににんきものになれるのなら、世界中のみんながともだちになれるよね。でも、せんそうは起こってるんだよ。」
女の子2「せんそう?」
小夜「色んな国のえらいひとたちが、大げんかするんだよ。」
女の子3「ふーん。」
小夜「でも、せんそうはなくならない。このおまじない、でたらめだね。」
女の子1「なによ、その言い方!」
女の子が小夜のことを叩いた。
持っていた紙切れが落ちた。
女の子1「まりいさん、だいっきらい!!!!」
女の子が走って教室を出ていった。
女の子2「サイテー。」
女の子3「もうあそんであげないから。」
続くように教室を出ていく女の子たち。
小夜「……なにか、間違ってたかな…?」
小夜は、再び図鑑を読み始めた。
こういうことは、多々あった。
私はただ、大人たちやニュースで得た知識を話しているだけなのに。
みんなみんな、聞いてくれなかった。
そして、それが最悪の事態への引き金となった。
小夜「おはようございます。」
私はいつもの様に学校に登校した。
校門で先生に挨拶をして、下駄箱で靴を履き替えて教室へ向かった。
そして、教室のドアを開けると。
小夜「…!」




