【122話】もしも目覚めたなら
10月のある日。影楼の家。
おばさん「翔くん。」
おばさんの声がすると、玄関のドアを開けた。
おばさん「おや、翔くんかい?大きくなったねぇ。」
影楼「それで、母ちゃんは。」
おばさん「まあまぁ、落ち着きなさい。とりあえず、行くよ。」
影楼「はい…。」
おばさんと影楼は、家を出た。
街の中をゆっくりと歩くおばさんと影楼。
おばさんは、隣の豆腐屋の店主だった。
小さい頃からお世話になっていた。
おばさん「ごめんね、急に連絡しちゃって。」
影楼「いや、俺こそ。…気づくの遅くなって、ごめん。」
おばさん「いいのよ。翔くんだって、忙しいでしょう?でも、会えて嬉しいよ。」
影楼「…母ちゃんは、ずっと入院しているのか?」
おばさん「えぇ。たまにお見舞いに行くんだけど。」
影楼「…そうか。」
おばさん「とりあえず、病院まで歩くよ。」
影楼「あぁ。」
2人は病院まで歩いて行くことにした。
*
1時間前。影楼の小屋。
影楼は、収穫した木の実の選別をしていた。
影楼「クソッ…少ねぇな。」
収穫量としては、少なかった。
影楼は、宿と協力して木の実を収穫していた。選別担当が影楼だった。
影楼「だめだ。…悪くなってるのが多すぎる。」
影楼は腐った木の実を窓から放り投げた。
影楼「この量で、3日は持つか…?いや、ダメかもしれねぇ。」
影楼が多少イライラしながら作業をしていると、携帯電話が鳴った。
影楼「あ?」
影楼は出ようとするが、途中で音が切れてしまった。
電池切れだった。
影楼「…ったくよォ。」
仕方なく、発電機を設置して充電をした。
そして、携帯電話の画面を見ると、着信が3回ほどあった。
影楼「なんだよ。」
影楼が折り返しの電話をした。
すると、相手が電話に出た。
おばさん「もしもし。」
影楼「……おばさん?」
おばさん「翔くん?お久しぶりね。」
影楼「…なんだよ。」
おばさん「大変なのよ。翔くんのお母さんの容態が急変したの。」
影楼「え…!!」
影楼は思い切り立ち上がった。
その勢いで木の実が少し零れた。
影楼「病院に今いるのか?」
おばさん「えぇ。でも、先に家に来てちょうだい。私も行きたいの。」
影楼「…分かった。」
影楼は電話を切った。
行く準備をし、帽子を被り、小屋を飛び出した。
*
白駒総合病院。
影楼たちはすぐに病院の中へ入った。
母は、入院棟にいた。
エレベーターで3階に上がり、ネームプレートでどこにいるかを確認する。
おばさん「…部屋が変わっちゃったのかしら。」
影楼「あ、あった。」
部屋には「影沼 永子」の文字。母だった。
部屋に入ると、母のベッドが見えた。
影楼「母ちゃん。」
母はベッドに横たわっていた。意識がないのか、寝ているようだった。
呼吸器を付けていて、身動きが取れなさそうだった。
おばさん「永子さん…こんなに弱っちゃって…。」
母の身体は前来た時よりも、やせ細っていた。
影楼「……母ちゃん。………ごめん。」
すると、看護師がやってきた。
看護師「影沼さんの、ご家族の方ですか?」
影楼「えぇ、まあ。」
看護師「担当医から、病状を聞きましたか?」
影楼「いいえ。」
看護師は!カルテを確認した。
看護師「私が、簡単に説明いたします。影沼永子さんは、4日前に肺炎と診断されました。」
おばさん「肺炎…?」
看護師「影沼さんは免疫が弱っている状態で肺炎にかかりました。なので、このような重篤な状況になってしまいました…。」
おばさん「…永子さんは、助かるんですか。」
看護師「ここから回復をすれば、日常生活を普通に送れるほどにはなります。しかし…ここからまた違う菌をもらってしまいますと…もう助からないと思います。」
看護師からの宣告に悲しむおばさんと影楼。
影楼「…。」
おばさん「…。」
影楼「…俺、母ちゃんと全然会って無かった。」
おばさん「……そうね。」
影楼「…。」
おばさん「…会いたがっていたはずよ。」
影楼は母の手を握った。
おばさんも、影楼の肩を撫でた。
*
それから3日後。
聖雷「影楼くーん。僕だよ〜。」
影楼の小屋の前。ドアを叩いて影楼を呼んでいた。
聖雷「影楼くんー?入るよ?」
聖雷は小屋のドアを開けた。
中には誰もいなかった。
聖雷「いないみたいだね。」
胡蝶「…収穫にいってるのか?」
聖雷「いや、それはないと思う。」
胡蝶「バイトか?」
聖雷「この時間はしてないはず。…てことは…。」
すると、テーブルの上にメモのようなものを見つけた。聖雷はそれを読んでみた。
胡蝶「…なんだ?」
聖雷「“街にでる。探すなよ。”だって。」
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白駒総合病院。
影楼「母ちゃん、入るぞ。」
母が入院している部屋に入った。
ベッドの横の椅子に座って、影楼は母を見守った。
影楼「…まだ、起きねぇか。」
母は、まだ意識を失ったままだった。
影楼「……。」
影楼は毎日母のお見舞いに行っていた。
しかし、目を覚ますことは無かった。
看護師に聞いても、危篤状態になってから意識を取り戻したことは無かったらしい。
影楼「…ごめんな。」
影楼は、母をずっと見ていた。
部屋の外から、看護師も見守っていた。
影楼「…!」
影楼が看護師に気がつくと、すぐに席を立った。
影楼「…また来る。」
影楼はそう言うと、病院を去った。
*
聖雷「ただいまぁ。」
聖雷と胡蝶がリビングに帰ってきた。
マーリンは、キッチンの掃除をしていた。
マーリン「あら、早いじゃない。」
聖雷「うん。影楼くんいなかったよ。」
マーリン「そうなのね。仕方ないわ。…でも、いつもはいる時間よね?」
胡蝶「テーブルにメモがあった。街に出てるって。」
マーリン「珍しいこともあるのね。」
聖雷たちがテーブルの周りに座った。
聖雷「でも最近本当に見てないんだよね。」
マーリン「なにかあったのかしら。」
すると、シユウが寄ってきた。
シユウ「にゃー。」
聖雷の膝の上に座ると、寛いだ。
聖雷「シユウも、影楼くんのこと見てないかなぁ…。」
シユウ「にゃ。」
マーリン「困ったわね…、影楼に任せた木の実の選別、終わったかしら…?」
聖雷「そうだね、僕たちのご飯にまで影響して来ちゃう。」
3人は影楼を心配した。




