【112話】リフレッシュ休暇
8月のある日の夜。
緋月「ただいま・・・。」
緋月は宿へ帰ってきた。
それに気が付いて聖雷が迎え入れる。
聖雷「おかえり!ひっきー、どうしたの?」
緋月「疲れちゃった…。」
緋月は疲れている様子だった。
聖雷「ゆっくり休んで。」
緋月「うん…。」
聖雷は緋月の荷物を持ち、部屋まで連れて行った。
部屋につくと、すぐに布団に入った。
緋月「ごめん、聖雷っち。ありがと。」
聖雷「おやすみ。」
*
緋月の部屋からリビングへ降りると、マーリンと胡蝶がいた。
マーリン「緋月ちゃんは?」
聖雷「相当疲れているみたい。すぐ寝ちゃった。」
胡蝶「ご飯はいいのか?」
聖雷「食べられなさそう。」
胡蝶とマーリンは心配していた。
聖雷「まぁ、仕方ないね。最近、勉強漬けだろうし。」
胡蝶「いつも昼くらいに出て行って、この時間に帰ってくるからな。」
聖雷「たまには、休んでもいいんじゃないかな…。」
マーリン「そいうわけにいかないのよね…。」
マーリンは夕飯をテーブルの上に並べ始めた。
マーリン「ほら、夕飯の時間よ。」
聖雷「はあい。」
並べられていく皿のボーっと眺める聖雷。
マーリン「あ、そうだ。」
マーリンは一回手を止めた。
マーリン「みんなで、お出かけしてきたらどうかしら。」
聖雷「え。」
マーリン「1日くらい、休まなきゃ。どうかしら?」
聖雷と胡蝶は少し考えた。
聖雷「いいかも。でも、どこに行こうか…。」
胡蝶「リフレッシュするのなら、自然があるところだな。」
聖雷「宿出ればすぐだよ。」
マーリンも一緒に考えた。
マーリン「そうね…海とかは。」
聖雷「いいね!でも、去年行ったから、今年は川がいいな!」
胡蝶「そうだな。」
お出かけの話がどんどん弾む。
すると、リビングのドアが開いた。
聖雷「よし、じゃあ、川でバーベキューだぁ!」
緋月「ほんとーーーー?」
一斉に緋月の方を見た。
胡蝶「あれ。緋月、寝たんじゃあ…。」
緋月「えっへっへ。起きちゃった。」
聖雷「大丈夫なの?」
緋月「俺っちはへーき!」
緋月を心配していたマーリンたちはほっとする。
マーリン「よかったわ。」
緋月「ねえねえ、バーベキューいくの?」
胡蝶「まだ決まっていないけどな。」
緋月「嘘つき。決まってるくせに。」
胡蝶「(溜息)」
緋月「もちろん、みんなでだよね?」
胡蝶「そのつもりだ。」
緋月「マーリンさんは?」
緋月は夕食の準備をしているマーリンを見た。
マーリン「そうね…私はいけないわ。」
聖雷「なんで!」
マーリン「森を守らないといけないもの。この森を出たら宿を隠せなくなっちゃう。」
聖雷「そっか…。」
残念そうにする聖雷。
マーリン「…ほら、冷めないうちに食べて。」
気が付くと、テーブルには料理が並んでいた。
緋月はテーブルの周りに座るとすぐにご飯に手を付けた。
緋月「いったっだっきまーーす!」
胡蝶「は、早い。」
慌てて聖雷と胡蝶も座り、一緒に食べ始めた。
ガツガツと食べる緋月。
マーリンは安心して微笑んでいた。
*
お出かけの当日。
聖雷「早く、遅れちゃうよ!」
緋月が慌てて出かける準備をしていた。
聖雷と胡蝶は玄関付近でそれを待っていた。
宿の中は相変わらずバタバタとしていた。
緋月「ちょっと、まって〜。」
胡蝶「寝坊するからだろう。」
緋月は宿を出る10分前に起きたので、準備をしていなかった。
聖雷「はぁ…。いつも通りだね。」
シユウ「にゃん。」
聖雷「そろそろ、入ろっか。シユウ。」
聖雷は、大きなトートバッグの口を開いた。
中に入るシユウ。
聖雷「(シユウを撫でる)ちょっとだから、我慢してね。」
シユウ「にゃん!」
胡蝶「トートバッグで大丈夫なのか…?」
聖雷「うん。シユウが大人しくしてれば…。」
胡蝶「そうか。」
ようやく準備が終わった緋月。
緋月「ごめん、おわったぁー。」
胡蝶「遅い。…忘れ物はないだろうな?」
緋月「ばっちし!!」
聖雷「マッチは?」
緋月「持った!」
聖雷「トングは?」
緋月「持った!」
聖雷「レジャーシートは?」
胡蝶「俺が持ってる。」
聖雷「財布は?」
緋月「…あ!」
胡蝶「おい。」
緋月が財布を取りに再びリビングに行こうとする。
すると、マーリンが現れた。
手には緋月の財布。
マーリン「ふふ、忘れ物よ。」
緋月「マーリンさん。ありがとう!」
マーリン「気をつけて行ってくるのよ。」
聖雷「うん…。ごめんなさい、マーリンさん。」
マーリン「どうしたの。」
聖雷「一緒に、行けなくて…。」
マーリン「そんなの、大丈夫よ。坊やたちが楽しんできて帰ってくるなら、私は嬉しいわ。」
3人はマーリンに手を振った。
聖雷「じゃあね、行ってきます!」
緋月「ばいばーい!」
こうして、3人は森の中を歩き始めた。
*
街の中。
駅へ向かって進む3人。
緋月「ひっさしぶりだなぁ、遊ぶのなんて。」
胡蝶「たまにはリフレッシュしないとな。そう思って今日があるんだ。精一杯楽しんでくれ。」
聖雷「2人は、お金の方大丈夫なの?」
緋月「うん、へーき。多くはないけどね。」
胡蝶「俺は、父からもらってる。聖雷こそ、大丈夫なのか?」
聖雷「微妙かな…。僕たちが住んでる宿には、お金というものを必要としないからね。街中に落ちてたのを拾って集めてる。」
すると、後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。
小夜「みんなー!」
振り返ると、小夜と影楼がいた。
緋月「小夜っちー!」
小夜「おはよう。」
影楼「よォ。」
聖雷「よっす!」
胡蝶「思ったよりも早く合流できたな。」
小夜「そうだね。よかった!」
待ち合わせ前に5人になった緋月たち。
駅へ向かい、電車に乗ることになっていた。
影楼「お、そーいやぁ。これ。」
影楼は、ビニール袋を持っていた。
聖雷「何これ。」
影楼「野菜。バーベキューのためにバイト先でもらってきた。」
緋月「かげろっち、やるぅ!!」
緋月がハイタッチを要求する。渋々相手をする影楼。
聖雷「じゃあ、駅まで行こうか!」
影楼「おう。」
5人はまた歩き出した。
*
駅へ着くと改札を通り、電車へ乗る。
この日は、あまり混んでいないようだった。
聖雷「少しでつくから、立ってていいよね。」
緋月「うん!何駅?」
胡蝶「2駅だな。」
小夜「うん。…ん?」
小夜が聖雷のトートバッグをじっと見た。
小夜「う、動いてる!?」
影楼「は!?」
聖雷は、小声で2人に言った。
聖雷「実はね…ほら。」
トートバッグの口を少し開くと、中にはシユウが入っていた。
小夜「シユウ…。」
影楼「気の毒だな。」
聖雷「仕方ないよ。シユウも連れてくには、これしかない。」
シユウ「にゃん。」
小夜・影楼・聖雷「!!」
猫の声が電車に響く。
咳払いや、笑いで必死に誤魔化す3人。
影楼「…あっぶねぇ…。」
胡蝶「アウトだぞ。」
聖雷「し、シユウ。もうすこしだから、我慢して〜。」
5人は、電車に乗って2つ隣の駅へ向かった。
川までは、あとすこしだった。




