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僕たちは  作者: 猫眼鏡
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【111話】円香のともだち

円香「…。」


 円香はうつむいたまま手紙で顔を隠していた。


円香「……お父さん………お母さん…。」


 円香はついにしゃべり始めた。


円香「……ごめんなさい。」


 会場の目が一気に円香に集まる。

 すると、円香は持っていた手紙をその場で捨てた。

 ざわつく会場。


円香「私は…三年間、ずっと友達がいませんでした。」


 会場がもっとざわつく。


緋月「円香っち…!」

小夜「円香…!」


 両親の方を見ると、静かに聞いていた。


円香「…話す友達がいなくて…一人で帰っていました…。…お父さんとお母さんには…ずっと…嘘をついていました…。」


 円香は涙を流しながらスピーチを続けた。


円香「…ごめんなさい…。…この嘘を…最後の発表会で言うことができて、よかったと…思います…。」


 円香が礼をした。円香に拍手が送られた。


緋月「…ちゃんと、言えたんだね…。」


 円香が舞台裏にはけていった。

 みんながしっかりとそれを見送った。




 発表会が終わると会場を出て、区民館の入り口で円香を待つことにした。


緋月「…円香っち、来ないね。」


 演奏者たちがどんどん会場から出てきて、保護者と合流していく。

 円香はまだ来なかった。


小夜「そんなにすぐは来ないだろう。」

緋月「そうだね。」

小夜「…ああいうことがあったんだ。」

緋月「落ち込んでないといいけど…。」


 すると、円香が現れた。


緋月「あ。」

円香「…。」

小夜「お疲れ。」

円香「…うん。」


 円香は困った顔をしていた。


円香「緋月くん、乱夢ちゃん。…最後までいてくれて、ありがとう。」

緋月「全然。円香っちの演奏、すごかった!」

小夜「あぁ、初めて聞いたがかなり綺麗な音色だった。」

円香「聴いてくれて嬉しいよ…。」


 小夜は、スピーチであったことを敢えて円香に聞いてみた。


小夜「…円香、さっきのスピーチのことなんだが…。」

緋月「さ、小夜っち!」

円香「ううん、いいの。」

 

 円香は口元が少し引きつっていた。


円香「二人のおかげだよ。はっきり、言えたから…。」

小夜「…本当に、それでいいのか。」

円香「うん…。」

緋月「きっと、分かってくれるはずだよ、お母さんたちだって。」

円香「合わせる顔、ないや。」

小夜「…。」


 すると、円香の両親がやってきた。


円香の母「円香…!」


 両親は真剣な顔つきだった。


円香の父「円香…。」

円香「…。」

円香の母「茉莉衣さんたちも…。」

 

 すると、円香は行動した。

 

 円香「お父さん…お母さん…。」


 円香は、頭を下げた。


円香「ごめんなさい。…今まで嘘ついて…。」

緋月「…。」


 円香の父は、円香に頭を上げるように言った。


円香の父「…円香が、友達を連れてくるとは最初から思っていなかったぞ。」

円香「え。」

円香の父「俺は…お父さんだ。だから、円香がどんな性格なのか、わかっているはずだ。…だから、円香が嘘ついているのもわかってたんだ。」

円香「…え。」


 円香の目が潤んでいるのがわかる。


円香の母「そうね…私も、薄々分かっていたわ。でも、円香がピアノを楽しんでやってるなら、いいと思っていた。」

円香「…なんで。」


 円香は手で顔を隠した。


円香の父「でも、大丈夫だ。今日、初めての友達ができたじゃないか。」

円香「え。」

円香の父「後ろをみてごらん。円香の、素敵な友達がいるじゃないか。」


 円香がゆっくり振り返った。そこには、緋月と小夜が笑顔で立っていた。


緋月「俺っち…うまく友達になれるか分からないけど…よろしくね!!」

小夜「あまり…器用な方じゃないんだ。…それでもよかったら。」


 小夜と緋月は手を差し出した。


円香「……あ、、、」


 円香はまた泣き出した。緋月が励ました。円香は、緋月たちの手を握った。


円香「あ…りがとう…。緋月くん…乱夢ちゃん…!」


 両親は目を合わせ、安心していた。


円香「お父さん、お母さん。友達、できたよ!」


 円香は今までにない笑顔を見せた。




円香「今日はありがとうね。」


 帰り道。円香と両親と緋月たちは区民館の前の道で分かれることにした。


緋月「うん!こちらこそ!だよ!」

円香の父「2人とも、円香をよろしくな。」

小夜「はい!」

円香の母「うちに遊びに来てもいいからね。」

緋月「ほんと?やったー!」

円香「来ていいよ!お菓子用意して待ってる!」


 そして、両親と円香は歩き出した。


円香「じゃあね。」

円香の母「ありがとね…!」

緋月「じゃーねー!」

小夜「また今度!」


 お互いに手を振りあった。

 円香たちと緋月たちは分かれた。


 緋月たちは歩き出した。


緋月「…これで、よかったんだよね。」

小夜「うん。すっきりした。」

緋月「俺っち…ちゃんとした友達は小夜っち以来かも。」

小夜「そうなの?」

緋月「宿のみんなと、円香っち。それだけだよ。でも、それで十分だよ。」

小夜「…そうだな。多いからって、仲がいいってこともない。」


 すると、緋月は立ち止った。


緋月「あのさ…。」

小夜「?」

緋月「…俺っち…。」


 緋月は、少しもじもじとしていた。


小夜「なぁに?」

緋月「……。」


 沈黙が続いた。


小夜「?」

緋月「…なんでもないや。」

小夜「…なんやねん。」

 

 小夜に軽く叩かれる。

 

小夜「もう、期待して損した。」

 

 小夜は呆れて歩いていった。

 

緋月「……まだ、早いかな。」

 

 緋月は心を切り替えると、小夜を追いかけて走っていった。

 

 

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