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僕たちは  作者: 猫眼鏡
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【108話】自分の意志と母の意見


*

 

 

小夜「…大丈夫?」

緋月「うん。なんとか。」

 

 小夜たちは手を貸し、緋月が立ち上がった。

 

胡蝶「怪我はないか。」


 緋月は首を縦に振った。

 

聖雷「良かった…。」

緋月「……ごめんね。俺っち何かのために。」

影楼「気にすんな。」

 

 緋月は制服の袖で涙を拭いた。

 

緋月「……俺っち…ずっとお母さんに愛されてると思ってたんだ。だから、俺っちを叩いたりしてしつけをして。…でも、違ったんだね。」

 

 すると、影楼は鼻で笑った。

 

影楼「…分かってんじゃん。そうだよ。てめぇの母親は感情に任せててめぇのことを殴ってんだよ。だストレスを発散するために酒を浴びて、タバコを吸ってんだろ?」

聖雷「影楼くん、それは酷いよ。」

影楼「事実だろ。なぁ?」

 

 全員が黙った。

 

緋月「……そうだね。かげろっちが…正しいや。」

胡蝶「…だが、愛が無いのは違うぞ。」

緋月「え。」

胡蝶「例え感情のコントロールが上手く出来なかったとしても、緋月の母親であることは間違いない。母親は愛がなきゃ世話をしない。ここまで育ててきてないんだ。」

緋月「…そうだね。」

 

 胡蝶は、緋月の手を握った。

 

胡蝶「さて、帰ろうか。マーリンの宿へ。」

緋月「…え。」

影楼「お前も帰るよな…?」

緋月「…。」

聖雷「早くご飯食べたいよ。」

影楼「まだ夕方じゃねぇかよ。」

聖雷「いいの!」

 

 緋月は困った顔をしていた。

 

緋月「帰って…いいの?」

影楼「何を迷ってんだ?」

小夜「実家に帰るよりも、こっちの方が楽なんでしょ?なら、そこでがんばればいい。暮らせばいいじゃない。」

緋月「………うん!」

 

 緋月は笑顔を取り戻した。

 5人は宿へ向かって街中を歩き始めた。

 

*

 

 

 次の日。

 

小夜「ひっきー。」

緋月「小夜っち。」

 

 昼休み。緋月はいつも通り、勉強していた。

 

小夜「少しは元気出た?」

緋月「おかげさまで。ありがとね。」

小夜「大丈夫なら良かった。」

 

 緋月はすわったまま、大きく伸びをした。

 

緋月「ふぁー。勉強疲れた。」

小夜「頑張ってるね。」

緋月「昨日はあまり勉強できなかったからね。今日頑張らなくっちゃ!」

小夜「分からないところある?」

緋月「ううん、平気。」

 

 緋月が教科書を机から出した。


緋月「気分転換に古典やろっと。」

小夜「来週小テストだよね。」

緋月「うん。でも、範囲狭いから大丈夫。受験に比べては楽だよ。」

小夜「…進路のことは、どうなったの?」

緋月「それは…まだ未定、かな。」

小夜「…そっか。」

緋月「俺っちは、まだ諦めないからね。…お母さんになんと言われようと、高校に行きたい。それは変わらないから。」

小夜「…そうだね。一緒に高校行こうね。」

緋月「うん!小夜っちも、高校行くんだよね。」

小夜「そうだね。もう決めたよ。だから、あとは勉強だけ。」

緋月「一緒に頑張らなくっちゃ!」

 

 すると、担任の先生が教室に入ってきた。

 

担任「藤本〜。」

 

 緋月は振り返り、返事をする。

 

緋月「あ、先生。」

担任「ちょっとだけ面談してもいいか?」

緋月「わかりました。(小夜に)行ってくるね。」

小夜「いいよ。」

 

 緋月は担任に案内されて隣の教室に行った。

 

 教室の隣の学習室。

 

担任「座って。」

緋月「はい。

 

 緋月が椅子に座った。

 

担任「昨日の面談のことなんだが…藤本は本当にあれでいいのか?」

緋月「え。」

担任「実はな…。」


*

 

 

担任「…茉莉衣、あなたが一番藤本の近くにいるからな。よろしく頼む。」

小夜「わかりました。」

 

 担任は席を立った。

 すると、小夜は担任に再び話しかけた。

 

小夜「あの、…先生。」

担任「どうした?」

小夜「ひっきーのことなんですが。」

担任「?」

小夜「…ひっきーは、明日三者面談ですよね。」

担任「そうだな。」

小夜「そのことで、心配なことがあるんです。」


 小夜は、緋月の母親のことや高校へ行くことを反対されていることを担任に話した。

 

担任「…そうだったのか…。それは困ったな。」

小夜「はい…。毒親で、ひっきー自身も母を避けるようにして生活してます。」

担任「母親は、そこまでひどいのか?」

小夜「はい…。ひっきーの腕の痣、よく見るから…。」

 

 小夜は下を向いた。

 

担任「進路に関しても、学校生活についても、やれることはやってみる。…話してくれてありがとう。」

 

*

 

 

緋月「小夜っちが、そんなことを?」

担任「あぁ。良い友達を持ったな。」

緋月「…小夜っち…。」

担任「家庭の事情も少し聞いた。だから、自分の意思で答えて欲しいんだ。いいか?」

緋月「…はい。」

担任「藤本は、高校に行きたい気持ちはまだ変わらないか?」

 

 緋月は覚悟を決めて言った。

 

緋月「はい。俺っちは、氷室高校に行きたいです。親になんと言われようと行きたいです。」

担任「分かった。なら、俺は藤本を応援する。」

 

 すると、担任は資料の束を机の上に広げた。

 

緋月「これは…?」

担任「氷室高校の新しい資料だ。進路指導の先生からもらった。よく見てみなさい。」

 

 何枚のも資料の中から、担任が緋月に見せてきたものは、寮の案内だった。

 

緋月「寮?」

担任「学生寮だ。氷室高校はあまりここからは遠くないが…安い値段で近くに泊まることが出来る。」

緋月「一人暮らしですか。」

担任「共同部分はあるらしいが、部屋が割り当てられるからな。ちなみに、家賃は月2.5万円だ。」

緋月「安いのかな…?」

担任「もし、寮で暮らすのなら、バイトをすれば十分賄えるだろうな。実家で暮らすよりも楽だろう?」

緋月「…そうですね。」

担任「あと…」

 

 担任は違う資料を見せてきた。

 

緋月「これは…!」

担任「氷室高校の学費支援制度。」


 氷室高校独自の学費支援制度のパンフレット。

 そこには条件が書かれていた。

 

緋月「条件は……なにこれ。」

担任「簡単に言うと、収入の少ない家庭や通学が難しい地域に住んでいる人向けだな。藤本はクリアしている。区立だから、そこまでお金はかからないが、少しでも楽になれるならいいだろ?」

緋月「はい!ありがとうございます!」

 

 担任は緋月に学費支援制度の申し込みの方法や他の資料を全部見せた。

 緋月は、元気を取り戻して行った。

 

 教室の外で、それを見て微笑む小夜。

 

 緋月は自立への1歩を進んだ。

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