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僕たちは  作者: 猫眼鏡
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【107話】三者面談


担任「さようなら。」

生徒「「さようなら!!」」

 

 ホームルームが終わると、生徒たちはカバンを背負って次々に教室を出ていった。

 

担任「三者面談期間だからすぐ帰るんだぞー。」

 

 担任の先生は生徒にすぐ帰るよう促した。

 

小夜「じゃあね、ひっきー。」

緋月「うん、今日一緒に帰れなくてごめんね。じゃあね…。」

 

 小夜が教室を出ていった。

 教室には、担任の先生と緋月だけが残された。

 

担任「藤本は、ここで座って待ってていいぞ。まだ面談まで時間があるからな。ちょっと職員室へ降りてくる。」

緋月「分かりました…。」

 

 そう言うと、担任も出ていった。

 

緋月「…はぁ……………。」

 

 長いため息が出た。そう、これから三者面談があるからだ。

 

 緋月はカバンの中から高校に関する資料やメモやらを取り出した。

 ふとパンフレットが目に留まる。

 それは、氷室高校のものだった。

 

緋月「……。」

 

 すると、教室のドアが勢いよく開いた。

 

緋月「ひっ…!」

 

 緋月は音に驚いた。

 恐る恐るドアの方を向いてみると…母がいた。

 

緋月「え…。」

母「……お久しぶりね。」

 

 母は、冷徹な態度で緋月のことを見た。

 

緋月「……久しぶり、お母さん。」

 

 ドアを閉めると緋月に近寄り、隣の席に荷物を置いた。

 

母「随分と帰ってこなかったじゃない。」

緋月「……ごめんなさい。」

母「…先生はまだ?」

緋月「…うん。面談までまだ時間あるから。」

母「ふーん。」

 

 母は近くの席に座ると化粧道具を出し、メイクを直し始めた。

 

母「で、あんた。今までどこ行ってたの。」

緋月「…友だちの家。前も言ったじゃないか。」

母「家のこと何もしないでほっつき歩いてたのか。」

緋月「それは…ごめんなさい。」

母「ま、いいや。…で、就職はするんでしょうね?」

緋月「…え!」

母「この学校出たあとの話よ。働けって言ったわよね?」

緋月「それは、お母さんの望みだろう…?俺っちは…」

母「いい加減にしなさい!うちはお金が無いの。あんたが働かずに高校通ったら、こっちの生活がますます苦しくなるの。」

緋月「…。」

 

 母は緋月を睨みながらメイクをしていた。

 

母「学校もまともにいかずに友だちの家で遊んでばっかり。そんな息子なんていらないわ。」

緋月「ちゃんと、勉強してるよ…。」

母「働きなさいっていってるの。」

緋月「お金は、どうにかするよ…。俺っちは高校に行きたいんだ。」

母「それでうちのことはほったらかしか。家事もせず、働きもせず、あんたは本当に役立たずなのね。」

緋月「………。」

母「うちの息子なら、せいぜい家のために働いてもらわないとね。月30万くらいかしら?」

緋月「…。」

母「借金も全額返してもらうからね。あんたを世話したのは私なんだから。」

緋月「…。」

母「あなたにはもっと稼いでもらわないと困るわ。美味しいワインが飲めなくなっちゃう。」

 

 緋月はとうとう黙ってしまった。

 そして、しばらくすると担任の先生が戻ってきた。

 

担任「お待たせ致しました。どうぞ、おかけになってください。」

 

 担任の先生が母と緋月を席に案内する。

 

母「(座りながら)先生、いつもうちの子がお世話になっております。」

担任「いえいえ、藤本は非常に頑張っていますよ。な?」

緋月「……。」

 

 緋月は、ずっと暗い顔をしていた。

 

母「…まぁ、応援はしてますよ。で、先生。今日は進路の面談ですわよね?」

担任「はい。お母さんもご存知の通り、受験に関する面談です。…なにか、お母さん自身が困ったことはありますか?」

母「…先生、この子の高校受験はなしにしてもらいたいんです。」

 

 母の言葉に驚く緋月と担任。

 

緋月「え!」

担任「どうかされましたか。」

母「中学を卒業してからすぐに社会に出させてやりたいんです。この子は高校に行きたいって何度も言っていたとは思いますが…。」

担任「それは、どうしてですか。」

母「うちが母子家庭なもので…社会にすぐに出られるようにしてあげたいんです。」

緋月「…ちょっと待って!」

母「ごめんね…緋月。」

 

 母は、哀れんだ目で緋月を見た。

 緋月には分かっていた。これが…母の演技だということを。

 

担任「お母さんのおっしゃってることは分かりました。確かに、社会に出てみることも1つの手かもしれませんね。」

緋月「……。」

母「だから、すぐに職を探してもらうんです。緋月ならきっとできるわ。」

緋月「…俺っちは…。」

母「高校に行きたい気持ちは分かる。でも、全ては緋月のためなのよ。だから、ね?」

 

 母は緋月のことを期待するように見つめた。

 

担任「…しかし、藤本はもう本気で受験へ向けての準備を始めています。勉強も最近熱心にやっているし、高校への書類も書いていますが…」

母「私から、この子に説得します。」

担任「分かりました。藤本、1度お母さんと話し合ってみて欲しい。」

母「勿論です。」

緋月「…。」

担任「高校は、義務教育ではありませんから、金銭的な面でも問題になってきますから、よく相談なさって下さい。」


 母は、ニコニコと笑っていた。

 

担任「では、他に何かあるかな?」

母「結構です。今日はありがとうございました。」

担任「こちらこそ、お忙しいところありがとうございました。」

 

 そういうと、母に連れられて緋月は教室を出た。

 先生にお辞儀をする母。

 緋月は、したくなかった。


*

 

 

 帰り道。

 母が無言で歩いている後ろにとぼとぼと歩く緋月。

 

 街の中を歩く親子たちは手を繋いだり、並んで歩いていた。

 その中、緋月たちは距離をとっていた。

 

 そして、家の近くのあまり人気のない道を通った時。

 

母「…………緋月。」

 

 今まで黙っていた母が立ち止まり、緋月の方を向いた。

 

緋月「…なに。」

母「……よくも、やってくれたわね。」

緋月「…え。」

 

 母は、鬼の形相で緋月に怒鳴りつけた。

 

母「何勝手に高校に行こうとしてるのよ!こっちは毎日仕事が忙しいって言うのにあんただけ呑気に遊んで…。」

 

 緋月は恐怖で震えていた。

 

母「……絶対、高校は行かせないからね。あんたは死ぬまで私のために働き続けるのよ!!!」

 

 母は緋月の腕を強く引っ張り、家へ帰ろうとした。

 

緋月「痛い…!」

母「あんたが全部悪いんだからね。」

 

 すると、緋月は腕を振り払った。

 

母「…なんなのよ。」

緋月「……や、…めて。」

 

 涙ながらに抵抗する緋月。

 

母「…あんた、私の息子じゃないの?」

緋月「…………。」

母「小さい頃から散々言ってるわよね、反抗する子は私の息子じゃないって。」

緋月「でも…!俺は!!!!」

母「うるさい!!!!!」

 

 母は手を大きく振りかざした。

 緋月は頭を抑えて必死に自分を守った。

 

緋月「…っ!!!!」

 

 パンッという音が辺りに響いた。

 

 目を開けると、緋月の前には見慣れた紫髪ロングの男が立っていた。

 

緋月「…!!」

 

 母の腕を掴み、前に立ちはだかる人物。

 胡蝶だった。

 

緋月「胡蝶………?」

母「な、なんなの!?」

 

 母の腕を振り払うと、胡蝶は母を睨みつけた。

 

胡蝶「俺は緋月の友達だ。友達に手を出す奴は誰であろうと許さない。」

母「はぁ!?あんた、何様なのよ!」

胡蝶「今、貴様は手を出そうとした。それを許さないと言っているんだ。」

母「じ、自分の息子なのに何が悪いのよ!」


 すると、緋月の後ろから声が聞こえた。

 

影楼「自分の子供だったら、大切にするんじゃねぇのか?母親さんよォ。」

緋月「かげろ、っち…。」

母「…これは、教育なのよ。教育!!」

聖雷「教育だったら暴力ふるっていいなんて、どこで習ったんですか?」

 

 母に敵対するように立つ胡蝶と影楼と聖雷。

 その後ろで緋月を介抱する小夜。

 

母「なによ…。文句あんのかよ!!」

 

 母は胡蝶たちを警戒していた。

 

胡蝶「俺らは貴方をどうするつもりもない。ただ、緋月を守りたいだけだ。」

母「あんたたちに、何が守れるの。…私はずっと、この子の面倒を見てきたのよ。」

影楼「育児放棄してるのにか?」

母「してないわよ!!あなたたちに何がわかるのよ!」

聖雷「とにかく、あなたがやっていることは虐待行為ですよ。犯罪です。警察に捕まる前に、改めて見てはどうですか。」

 

 すると、母は顔をしかめた。

 

母「…っ!!勝手にしなさい!!!」

 

 母は胡蝶たちをもう一度思い切り睨むと、走って逃げて行った。


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