【過去編】聖雷と影楼の出会い(1)
とある日。
今年で10歳の影楼は小屋の周りで作業をしていた。
影楼「くっそぉぉぉ…硬ぇ………!」
大きなスコップを持ち、地面に突き刺し、土をおこそうとする。土が硬く、影楼は苦戦していた。
影楼「ぬわぁぁ!!!」
ようやく土が掘り返される。
その勢いで土が思い切り顔面にかかった。
影楼「うわぁ!!」
顔にかかった土を払うと、影楼は座り込んでしまった。
影楼「もう…なんでこんなに地面が硬ぇんだ。雨でも降ったんか?」
影楼は地面を少し触ってみた。別に濡れていなかった。
影楼「もともと人が住むところじゃねぇしな。…やるか。」
影楼が立ち上がり、土おこしを再開した。
土おこしをするのには理由があった。
影楼は、マーリンからサバイバルの知識や技術を教わっていた。
その時、小屋の近くに木の実のなる木を植えてみることになった。
そして、マーリンからの宿題として小屋の周りの土おこしをすることになった。
影楼「くそぉ…!」
森で暮らし始めた影楼は、子供であっても筋力がかなりあった。
しかし、土が思ったよりも固かったので苦戦していた。
*
影楼がしばらく土おこしをすると、やがてふかふかの土になってきた。
影楼「はぁ…はぁ…。」
長い時間作業をしていたので、かなり疲れていた。
影楼「…でも、これで…!」
影楼は土を触ってみた。
影楼「お、これなら行けそうだな。」
スコップを地面に刺し、手を離すと地面に思いっきり座った。
影楼「これで苗を植えられるな。マーリンさんのところ行かねぇと。」
マーリンから、土おこしをしたら苗を一緒に植えてみるということを言われたので、マーリンを呼びに行こうと決めた。
影楼は小屋をあとにした。
森の中を歩き、大樹のもとへ走った。
*
大樹の前。
影楼はただ1人、森の中に佇んでいた。
影楼「おーい、マーリンさん!」
大樹の前で影楼がマーリンを呼んだ。
しかし、返事はなかった。
影楼「いねぇのか?」
サバイバルのことを教わるときに、大樹の前がいつもの待ち合わせ場所だった。
そこへ行けばだいたいマーリンがいるので、影楼も何かあるとすぐに森を駆けていった。
大樹の周りを1周したが、マーリンの姿はなかった。
影楼「…いつもはいるのに。…あ!」
影楼は何かを思い出した。
影楼「…宿、かな?」
マーリンの宿。
それは、マーリンがつくった宿だった。
マーリンは影楼に宿のことを話していたが、来たことは無かった。
影楼「行ってみよう…かな。」
影楼は思い出しながら宿へ向かった。
*
宿の前。
松明が燃えている。
影楼「(これが、マーリンさんの宿か。いるかな?)」
小さい建物のような宿。看板には「マーリンの宿」と書いてあった。
宿という雰囲気は全くなく、殺風景だった。
影楼「(…入っても、怒られないよね…?)」
影楼は宿の中に恐る恐る中に入ってみた。
そっと扉を開けた。
影楼「……?いないのか…?」
中へはいると、宿のフロアが見えた。真ん中には台座があった。
おそらく、マーリンの椅子だろう。
見回す限り、人気はなかった。
影楼「……。」
中に入り、フロアの中を探索する影楼。
台座の後ろには、両端にドアがあった。
奥は倉庫のようだった。
影楼「…あそこに、いるかな。」
右側のドアのドアノブに手をかけた。
その時。
?「…誰!?」
フロアに響く誰かの声。
影楼は驚き、ドアノブを離す。
声が聞こえる方へ振り向いた。
影楼「…?」
入口の方に立っていたのは、少年だった。
影楼「…え。」
少年「……あの。」
お互いに警戒しながら様子を伺う。
少年と影楼は距離をとったまま探り合いをする。
少年「…マーリンさん?」
影楼「いや……。」
少年「まさか…ドロボー!?」
すると、少年の後ろから猫のような生物が出てきた。猫はこちらを警戒している。
影楼「…ちがう、泥棒じゃない!」
少年「じゃあ…まいご?」
すると、少年はゆっくりと影楼の方に近づいてきた。
少年「この森でまいごになっちゃったんだね。もう大丈夫だよ。…ぼくが街まで」
影楼「ご、ごめんなさい!!!!」
影楼は全速力で走り、宿を飛び出した。
少年「あ、まって!」
少年と猫が追いかけるも、途中からは着いてこなくなった。




