【100話】最後の体育祭
ついに、体育祭当日。
朝の通学路。
緋月「おはよう。」
小夜が歩いていると、緋月に声をかけられた。
小夜「おはよ。」
緋月「ついに今日だね。」
小夜「うん。」
2人とも、いつもよりも元気だった。
緋月「みてみて。」
緋月はバッグのチャックを開けて、中の袋を開けて見せた。
小夜「なにこれ!」
緋月「木の実パイ。マーリンさんが作ってくれたんだ。小夜っちも一緒に食べよ!」
小夜「ありがと。後でお礼言わないと。」
緋月「うん!お昼休みでね。」
2人は歩き続けて、学校に着いた。
校門の前でふと立ち止まる緋月。
緋月「…この体育祭が、最後になるのか。」
小夜「そうだね。」
緋月「精一杯頑張らないとね。…小夜っち。」
小夜「ん?」
緋月「……友達になってくれて、ありがとう。」
小夜「え。」
緋月は小夜に最高の笑顔を見せた。
緋月「…俺っち、小夜っちと仲良くなるまで学校なんて行きたくないって思ってた。小夜っちも、学校にあまり来てなかったから、このまま一緒に不登校でいいやって思ってた。…でも、2人なら怖くないって言って学校行ってみて、クラスメイトが俺っちのことを許してくれて。それではじめて分かったんだ。小夜っちのおかげで、俺っちは強くなれたんだって。」
小夜「…。」
緋月「ごめんね。いっぱい話しちゃった。」
小夜「いいよ。」
緋月「…でもね、小夜っちは本当に俺っちを変えてくれたんだ。」
小夜「…俺だって、そうだよ。」
緋月「え。」
小夜「ひっきーのような人が現れなければ、つまらない学校生活だった。」
緋月「うー。小夜っち、俺っちのことは面白いって言ってくれるもんね。」
小夜「うん。」
すると、学校のチャイムが鳴った。
緋月「あ、あと5分で朝礼だよ。行かなきゃ。」
小夜「そうだね。」
2人は学校へ入ると、下駄箱で靴を履き替え、教室に向かった。
*
生徒「宣誓、我々選手一同は、スポーツマンシップに則り、正々堂々と全力を出し切って戦う事を誓います。」
体育祭が始まった。
開会式で選手宣誓をすると、生徒たちは拍手をした。
小夜たちにとって、中学校生活最後の体育祭が始まったのだ。
校庭は、グラウンドの周りに沿って生徒たちの椅子が並べられ、入場門と退場門が設置されていた。
緋月たちは入場門の近くの席に座って競技を見ていた。
緋月「小夜っち、あの選手速いよ!」
グラウンドでは、100メートル走が行われていた。緋月が指を指す。
小夜「そうだね、リレー選かな?」
緋月「多分そうだと思う。1年生なのに速いなー。」
小夜「…ねぇ、ひっきー。さっきの話。」
緋月「ん?ああ。」
小夜「なんか、これから離れ離れになるみたいな感じだったから、びっくりしちゃった。」
緋月「そんなことないよ。多分…。」
小夜「多分?」
緋月「…。」
緋月は少し考えてから話した。
緋月「…卒業したらさ、俺っちたち、どうなるんだろう。」
小夜「…さぁね。」
緋月「俺っちも小夜っちは高校に行って、マーリンさんは魔法が使えなくなって、聖雷とシユウは…」
小夜「…。」
2人は黙ってしまった。
外は競技が行われており、ワイワイと盛り上がっていた。
緋月「……胡蝶たちは、もう会えなくなるのかな。」
小夜「ねぇ、ひっきー。」
緋月「なに?」
小夜「…会えなくても、友だちでしょ。だったら、今はそんなこと考えないの。最後の体育祭なんだから、まずはそれを全力でやらないと。」
緋月「……ごめんね、小夜っち。」
小夜「それに。」
小夜は校舎の隣の柵の方を指さした。
緋月「え。」
小夜「気づいてなかったでしょ?」
柵の外には、間から覗く影楼の姿が見えた。
緋月は驚いていた。
緋月「かげろっち!」
影楼には緋月たちのことが気がついていないみたいだった。
緋月「いつからいたの?」
小夜「さぁね。でも、影楼も見てくれているんだよ。頑張らなきゃでしょ。」
緋月「…そうだね!」
緋月は元気を取り戻したようだった。
それを見て安心する小夜。
2人は再び競技を見た。
*
体育祭が始まり、午前の部の競技が終わった。
緋月たちは、100m走、大縄跳びなどに出場していた。そして、給食を食べた後。
緋月「小夜っち。早く。」
小夜「なぁに?」
緋月「教室入って。お話があるんだって。」
トイレを済ませた小夜は、緋月に誘われて急いで教室へ戻った。
昼休みに、クラスでの集まりがあったのだ。
全員が教室に入ると、担任は話し出した。
担任「体育委員から話があるそうだ。じゃあ、よろしく。」
体育委員2人が教壇に上がる。
(男子生徒1、女子生徒1)
男子生徒1「みんな、ムカデ競走のことだけど。」
女子生徒1「練習通り、それぞれの作戦で行くよ。」
生徒が返事をした。
男子生徒1「そこでひとつ、約束して欲しいことがある。」
女子生徒1「絶対に失敗しても責めないこと。体育委員からのお願いです。」
生徒たちは拍手をした。
体育委員が教壇から降りると、担任がまた話し出した。
担任「午後の種目は、1年、2年、3年の学年種目とリレーのみだ。最後のトリになるのは…分かっているだろうが、3年だ。決して力を緩めることがないように、頼むぞ!先生も応援してる。」
生徒たちは元気よく返事をした。
すると、1人の生徒がある提案をした。
女子生徒2「ねぇ、円陣組もう?」
女子生徒3「いいね!」
男子生徒2「みんな、肩を組め!」
3-A全員が肩を組みあった。
もちろん、緋月と小夜も入っていた。
女子生徒1「A組、絶対優勝するぞー!!」
生徒たち「「「「おーーー!!!!!!!!」」」」
覚悟を決めた生徒たち。
ムカデ競走まであと2時間。
お昼休みをしっかりととると、午後の部への準備をした。
*
午後の部が始まってから2時間後。
ついにこの時がやってきた。
女子生徒1「みんな、並んで。」
体育委員の指示でムカデの順番で並ぶ。
男子の列、女子の列の順で並び、入場門で待機するA組。
女子生徒2「緊張するね。」
女子生徒3「うん…絶対勝とうね。」
女子の列の先頭の方で待機する小夜。
すると、すぐ後ろの人に話しかけられた。
女子生徒4「茉莉衣さん。」
小夜「…なに?」
女子生徒4「がんばろうね。」
女子生徒4は手の平を小夜に向けた。
小夜は一瞬困惑した。
女子生徒4「うふふ、ハイタッチだよ、ハイタッチ。」
小夜「……うん!」
2人はハイタッチをした。
小夜は、初めてクラスメイトに許してもらえたような感じがした。
しばらくすると、アナウンスがかかった。
放送《次の競技は、3学年による学年種目、ムカデ競走です。選手たちは、入場してください。》
陽気な音楽が鳴り始め、3年生はグラウンドに一斉に走り出す。
男子と女子は分かれ、女子はスタート地点に着いた。
放送《3年生は、スタート地点に着いたらムカデの準備をしてください。》
放送の指示でムカデの足を準備した。
女子生徒1「みんな、つけて。」
足をつけ、先頭を基準にして走る準備をする。
女子生徒1「いい?みんな。焦らずに、ゆっくり。声を出して。」
女子生徒たちは返事をした。
全てのクラスの足がつけ終わると、本部の方から笛がなった。
放送《いちについて。》
全員に緊張が走る。
放送《よーい。》
パンッという大きな音が鳴る。
ムカデ競走の始まりの合図だった。
A組の女子たちは合図と同時にスタートしていた。
女子生徒「せーーーーーの!!!」




