【99話】頭脳と情熱
*
体育の時間。
体育の先生「よし、じゃあ今日も体育祭の練習していくぞー。」
生徒たちは返事をすると、男女各々のグループで集まった。
校庭の隅で話す2人。
緋月「…小夜っち。」
小夜「うん。分かってる。」
緋月「俺っちたち、必死に考えて来たよね。」
小夜「そうだね。」
緋月「…はじめてだよ。こんなに学校とかクラスのことで考えたの。」
小夜「俺たちにしては珍しいかもしれないね。」
緋月「でも、最後だし、がんばろうね。そうすれば、もういじめられないよ。退屈しないよ。」
小夜「…うん!!」
2人は練習場所に分かれた。
A組女子。
女子生徒1「じゃあ、今日は何度も練習しよう!」
女子生徒2「みんなー、足つけて!」
女子生徒たちがムカデの足をつけ始めた。
小夜は勇気を出して話しかけた。
小夜「…あの!!」
小夜にびっくりする女子生徒たち。
女子生徒3「……茉莉衣さん…?どうしたの…?」
小夜「作戦を、練ってきたの。ちょっと聞いて欲しくて……。」
女子生徒4「作戦?」
小夜の話を聞こうと何人かの女子生徒は寄ってきた。
小夜「…お願い。聞いて欲しい。」
小夜はポケットから1枚のメモを取りだした。
女子生徒5「なにそれ。作戦?」
女子生徒6「見せて〜。」
小夜はメモを持ち、読みながら話し始めた。
小夜「ムカデ競走のコツとして、考えたことがあるの。…まずは、ルールのおさらい。ムカデ競走の始めは女子のムカデから。女子も男子も、足をつけた状態からスタートよ。先頭の人はタスキをかけ、80メートル先のへ進んでいく。最後尾の人が白線に入ったら審判の人にタスキを預けて、男子の先頭の人へ渡す。それから男子のムカデのスタートよ。」
女子生徒たちは、頷いていた。
小夜「ここからが、作戦。最初は配列についてよ。まず、クラスメイトを5つに分割するの。“体格がいい人”と“身長が低い人”と“声が大きい人”と“運動神経ができる人”と“その他”に。」
女子生徒5「その他…?」
小夜「まず、体格がいい人は先頭に、運動ができる人は最後尾に配置。先頭は身長が低い方が体勢が崩れにくいから、やりやすいわ。」
小夜は淡々とメモを見ながら話した。
女子生徒たちの目は、だんだんと変わってきていた。
小夜「次に、声が大きい人を先頭の後ろと最後尾の前と真ん中に1人づつ配置。声を届きやすくするためよ。…特に最後尾の前の人は1番声が大きい人がいいわ。」
女子生徒7「体育委員がいいかな?」
女子生徒1「声は出し慣れてるからね!」
小夜「そして、今指定した人たち以外の身長が低い人とその他の人はなるべく交互に配置。」
女子生徒5「どうして交互なの?」
小夜「転んだ時に頭同士の接触を避けるためよ。…これは、安全を考えてね。」
女子生徒2「なるほど…!」
女子生徒は小夜の作戦に興味を持ち始め、だんだんと寄ってきた。
小夜「次に、足紐。これは、間隔をあけすぎずかといって広げすぎず。ベストなのは地面につかないくらいに弛むくらいよ。」
すると、女子生徒1.2.3は足紐を付けてみた。
女子生徒2「このくらい?」
小夜「ええ。」
女子生徒1「そうね!」
小夜「次は基本の体勢から。前の人の肩に手をかけるのはあまりオススメしない。腰のあたりをつかむのがベストよ。でも、手に力をいれてしまうと前の人が非常に走りづらくなる。あくまでもつかまる程度で決して力を横にも縦にもかけないことが大事よ。」
小夜が話している横で実際に組んでみたり試してみる女子生徒たち。
小夜「次は走り方。先頭の人は普通に走るイメージでやるの。ペースメーカーになるから、全体のスピードが決まる。」
女子生徒1「先頭の人が重要なんだね!」
女子生徒7「なるほどねー。」
小夜「声掛けは、先頭の人が掛け声をかけると後ろの人が聞こえないの。だから、最後尾の人が「せーのっ!」でかい声で言うこと。」
女子生徒4「運動部の見せ所だね!」
小夜「競走となると、スタートダッシュが肝心。練習では最初の一歩のタイミングを練習すること。追い越しよりも最初から前に出ることを考えるのよ。」
女子生徒3「なかなか追い越せないもんね。」
小夜「練習では、最初はロープを使わずに走ってみること。次に片足だけロープ、慣れたら両足ロープ。徐々に走れるようになっていくの。」
女子生徒1「いい考えだね、最初からいきなり走れないもんね。」
小夜はメモを閉じた。
小夜「俺からは以上だ。…この作戦が全ていい訳では無いが、参考程度に。」
女子生徒たちは、拍手をした。
小夜「…え。」
女子生徒2「すごい!」
女子生徒5「さすが!!」
女子生徒4「ありがとう!」
女子生徒から小夜への賞賛。
女子生徒1「茉莉衣さんがこんなにいい作戦を練ってくるとは思わなかったよ。本当に、ありがとう。」
小夜は思ったよりも女子生徒たちが聞いてくれていたので、嬉しかった。笑みが零れた。
小夜「…こちらこそ、聞いてくれて、ありがとう。」
女子生徒1「そのメモ、見せてくれる?」
小夜はメモを女子生徒1に渡した。
女子生徒1「よし、これに従って練習してみましょう!」
女子生徒たちは練習をし始めた。
*
A組男子。
男子生徒1「練習するぞー。」
男子生徒2「それでさー、昨日、彼女と寿司食いに行ったんだよねー。」
男子生徒3「マジか!俺も連れて行ってくれよ。」
男子生徒2「やなこった。」
男子生徒4「帰りてぇー。」
男子生徒5「あはははは!!!もっとやれよ!」
男子生徒6「やめろよ〜。」
男子生徒たちが騒ぎ立てる。
男子生徒1「みんなー?」
男子生徒1の声はかき消された。
緋月「…うるさ。これじゃ練習できないっつーの。」
男子生徒1「みんなーー!!!!!」
男子生徒1の声で静まる。
男子生徒1「練習しようよ、遊んでないで。」
男子生徒3「えー、まだ列決まってないじゃん。」
男子生徒4「結局どうなったの?」
男子生徒5「まだ決まってないでしょ。」
責めるように言い立てる男子生徒たち。
男子生徒1「決まってないけど…。」
男子生徒2「じゃあ早く決めろよ。体育委員の仕事だろ。」
体育委員に列決めを押し付け、騒ぐ男子生徒。
緋月は勇気を振り絞る。
緋月「…ねぇ、練習しよう。色々試してみようよ。」
緋月の言葉に再び静かになる。
男子生徒2「藤本?…お前何熱くなってんだよ。」
緋月「最後の体育祭だしさ、列も皆で決めよう?」
男子生徒4「あいつ、そんなこと言う人だったっけ。」
男子生徒5「しらね。」
緋月「とにかく、体育委員の言うこと聞いてあげようよ。…俺っちたちが協力してあげようよ。」
緋月の言葉が男子生徒たちの心に刺さる。
男子生徒6「…一理あるかもしれない。」
男子生徒6は緋月に立ち向かった。
男子生徒7「藤本くんが、こうやって言ってくれるんだったら、それを無駄にするわけにいかないな。」
緋月を信頼の眼差しで見る男子生徒。
緋月「…ほんと?」
男子生徒8「緋月、くんだっけ。文化祭の時もそうだけど、結構真面目なんだよね、彼は。だから、ここは皆で協力しない?」
男子生徒たちは少し変わり始めた。
緋月「…それだったら俺っち、みんなを一緒に引っ張るよ。」
男子生徒1と一緒に緋月はムカデの足を用意し始める。
男子生徒1「ありがとう。藤本。」
ムカデの足をつけ始める男子生徒たち。ふざけていた人たちもだんだんと練習に参加し始めた。
体育の時間は、お互いがムカデの練習に精を出した。
作戦を試す女子たち、がむしゃらに練習する男子たち。
今までにないような熱の入りようだった。
そして、体育祭の練習は幕を閉じた。
緋月「…小夜っち。」
小夜「うん、うまくいったよ。」
緋月「よーし!体育祭がんばるぞー!!!」




