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僕たちは  作者: 猫眼鏡
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【97話】かみさまの星座

*

 森の中。

 葉が風になびいて、ゆらゆらと揺れている。

 

聖雷「シユウ!おまたせ!」

シユウ「にゃー。」

 

 聖雷は大きなリュックを背負い、街の方から現れた。

 シユウは森の方へ案内する。

 

シユウ「にゃー。」

聖雷「こっち?」

シユウ「にゃ!」

 

 シユウに導かれ、森の中を進む。

 

聖雷「あ、そうだ。シユウ!」

 

 ポケットの中から取り出したのは、赤い小さなリボンだった。

 

聖雷「見てこれ。孤児園のみんながつくってくれたんだ。」

シユウ「?」

 

 シユウの首にリボンを巻き付け、優しく結びつける。

 

聖雷「にあってるよ!」

 

 シユウは嬉しそうにしていた。

 すると、前にマーリンが現れた。

 

マーリン「聖雷、シユウ。」

聖雷「マーリンさん!」

マーリン「やっと揃ったわね。」

 

 マーリンはさらに森の奥へ案内した。

 すると、小さな小屋のようなものが見えてきた。

 

聖雷「なあに?あれ。」

シユウ「にゃ!」


 近くまで行ってみると、それは。

 

マーリン「…ようこそ。私の宿へ。」

 

──────────────────────


 

*


 

マーリン「…今話したことが、私がかみさまになった理由よ。…信じられないでしょう?」


 5人は、マーリンの話をじっと聞いていた。

 

マーリン「正直、全部信じてもらえなくていいのよ。…ただ、知っておいてもらいたかっただけよ。」

 

 すると、5人は顔を合わせた。

 

小夜「かみさまって言うのは信じ難いけど…。この森を守っているのは分かった。」

マーリン「えぇ。」

緋月「森の中のこととか、よく知ってるもんね。」

 

 マーリンは少し笑顔を見せた。

 

マーリン「そうね…。」

 

 しかし、元気がないようにも見えた。

 

影楼「…俺らのこと、あんま信じていないようだな。」

マーリン「…ニンゲンに、このことを話したことが無かったから…。」

影楼「俺らが初めてってことか。」

 

 影楼がふと横を見ると、聖雷が突っ立っていた。

 聖雷は呆然としていた。

 

聖雷「……。」

胡蝶「聖雷、大丈夫か?」

聖雷「………うん。」

 

 マーリンは聖雷を見て悲しそうな顔をした。

 

マーリン「聖雷にも、真実はずっと話してなかったのよ。…ごめんね。」

聖雷「…。」

 

 すると、聖雷は口を開いた。

 

聖雷「マーリンさんは、本当にかみさまなの?」

マーリン「……そうよ。」

聖雷「…嘘じゃなかったんだ。」

マーリン「えぇ。」

 

 マーリンはシユウの方を一瞬だけ見たあと、5人に向かってまた話した。

 

マーリン「実はね、もう一つだけ隠していたことがあるの。」

5人「?」

マーリン「…。」

 

 マーリンはゆっくり話し始めた。

 

マーリン「…私の宿は、もうすぐ終わりを迎えるのよ。」

緋月「え…。」

 

 5人は驚き、固まっていた。

 

聖雷「それって…どういうこと。」

マーリン「少なくとも、もう来年には無くなるわ。」

緋月「どうして。」

マーリン「…私はね、もともと魔法が使える訳じゃないのよ。母から教わって、それで魔法を習得してこの宿をつくった。…でも、魔法を使うにあたっての副作用があるの。」

影楼「…なんだそれ。」

マーリン「魔法をある程度習得すると、不老不死になってしまうのよ。」

緋月「…不老不死?」

小夜「歳を取らないし、死なないってこと。」

緋月「え!?」

胡蝶「不死身ってことだ。」

聖雷「…!」

 

 聖雷はあることに気がついた。

 

聖雷「マーリンさん、昔から何も変わってない。僕が小さい時に初めて会った時からずっと。」

マーリン「そうよ。私は昔から姿が変わっていないでしょう?それに、猫が生きられる年数を遥かに超えているわ。」

影楼「…それはそれで、不便だろうなァ。」

マーリン「魔法を習得したあの日から、不老不死になった。でも、魔法を捨てるか、誰かに教えればどんどん魔法は弱まって、最終的には使えなくなっていくわ。…それで、私はここ最近でどんどん魔法の力が弱まっていってるのよ。」

 

 シユウはマーリンの目を見た。

 

マーリン「…シユウに、魔法を教えたから。」

5人「…。」

聖雷「シユウに…?」

マーリン「話したでしょう?シユウに、魔法を教えたって。」

緋月「…てことは、シユウっちもフジミってこと〜?」

マーリン「そうね。聖雷なら何となく気がついているでしょう?」

聖雷「…うん。」

マーリン「ただ、シユウには魔法をある程度までしか教えていないわ。だから、宿を守ったり隠したりすることはできない。…だから、宿を壊すしかないのよ。」

 

 沈黙。

 5人の中には、宿が無くなるということに対して様々な感情が入り乱れていた。

 

聖雷「…僕たち、どうなっちゃうんだろう…。」

緋月「…。」

影楼「しょうがねぇだろ、普通に暮らすしかねぇ。」

聖雷「でも僕…マーリンさんと、シユウと、みんなと一緒にいたいよ…。せっかくできた友達と別れたくない。」

胡蝶「聖雷…。」

 

 聖雷はとうとう泣き出してしまった。

 優しく肩を撫でる胡蝶。

 

緋月「俺っちたちも、宿が無くなったら悲しい…。」

小夜「うん…。」

マーリン「持って、3月までよ。」

聖雷「3月…?」

 

 3月。それは、小夜たちは中学を卒業する月だった。

 

マーリン「3月までは、なんとか持たせてみるわ。…だから、それまでに坊やたちは自分の居場所を見つけなさい。」

緋月「…。」

聖雷「そんなの…ここ以外にないよ…。」

 

 悲しみに暮れていると、シユウが5人の前に現れた。

 

シユウ「………宿のみんな。」

 

 シユウが言葉を使いだしたことに驚く。

 

聖雷「え…シユウ!?」


 シユウは、しっかりと5人を見つめ、真剣な表情で語った。

 

シユウ「……ずっと、隠していた。我からも、謝りたい。…ごめんなさい。」

 

 聖雷はシユウを抱きしめた。

 

聖雷「うぅ…。シユウ…僕も…ごめんなさい…。」


 聖雷とシユウが抱き合った。

 マーリンは、小夜たちに近寄り頭を撫でた。

 

マーリン「ごめんね。…言えなくて。」

小夜「……言ってくれて、ありがとうございます…。」

緋月「マーリンさん、辛かったんだね。」

マーリン「…分かってくれて嬉しいわ。」

 

 シユウはマーリンと顔を合わせた。

 

シユウ「我は、マーリンから魔法を教わった。だから、森を守るかみさまとなる。…だから、どうかマーリンを責めないでほしい。頼む。」

聖雷「…うん。責めないよ。」


 5人とシユウとマーリンは約束を交わした。

 

*

 

 

 やがて宿へ戻り、小夜や影楼が家に帰ると、宿の中は5人に取り残された。

 

 宿のリビング。

 

マーリン「ほら、そろそろお風呂入りなさい。」

緋月「あーーい。」

 

 リビングで寛いでいた緋月が、お風呂場に向かって歩き出す。

 テーブルの横には胡蝶が座っていた。

 膝の上にはシユウがいた。

 

胡蝶「…あいつも、疲れただろうな。」

マーリン「そうね。非現実的な話ばかりされた後だから、疲れて眠いはずよ。」

胡蝶「ああみえて、考えてるタイプだしな。」

シユウ「にゃん。」

 

 胡蝶はリビングの外への扉を見た。

 

胡蝶「そういえば、聖雷はどこへ行ったんだ。」

マーリン「うーん、お風呂上がってから見てないわね。部屋にいるのかしら。」

胡蝶「そっか。」

マーリン「見てくるわね。」

 

 マーリンはリビングを出ていった。

 

*

 

 ラウンジ。

 外を眺める聖雷。

 

マーリン「…聖雷、どうしたの。」

 

 聖雷は振り返った。

 

聖雷「マーリンさん。」

 

 聖雷は、マーリンを見ると笑顔になった。

 

聖雷「ねぇ、見て。あれ。」

 

 聖雷は空に指を指した。

 マーリンもつられて見てみる。

 

聖雷「あれは、はくちょう座。…覚えるかな、僕とシユウとマーリンさんで遊んだ夕方のこと。」

マーリン「…覚えてるわよ。」

聖雷「ほんと?嬉しいな。」

 

 空には大きなはくちょう座があった。

 

聖雷「何年ぶりかな、あんなに綺麗なはくちょう座が見えたのは。もしかしたら、あの時以来かもしれない。…なんてね。」

マーリン「でも、すごく綺麗だわ。」


 2人はしばらく夜空を見上げていた。

 

聖雷「ねぇ、マーリンさん。」

マーリン「なあに。」

聖雷「……マーリンさんも、かみさまなんだよね。」

マーリン「…そうよ。」

聖雷「かみさまが、猫に化けたんだね。だから、マーリンさんとは話ができるんだね。」

マーリン「え。」

 

 聖雷は星を眺めながらにっこりと笑うと、ベンチに置いてあった本を空に掲げた。

 

聖雷「かみさまの星座だね、マーリンさん!」

 

 聖雷が空に本を掲げた瞬間、はくちょう座が強く光出した。

 マーリンは、その光景をずっと見ていた。

 

 星の光を浴びながら、いつまでも純粋な聖雷の姿に、マーリンは心を癒されたのであった。

 

 3月。そこまでの道は、短く感じた。

 居場所を見つけ、マーリンが宿を壊す時にみんながそれぞれの道へすすめるように、努力していこうと誓ったのだった。

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