【92話】山のヌシ
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シユウに誘導されて斜面を登る5人。
シユウ「にゃー。」
聖雷「シユウ…待って…。」
聖雷は一生懸命シユウについて行くが、バテてしまった。
影楼「おめぇら、体力ねぇな…。」
5人の中で1番先頭で楽々と登る影楼。
他の4人はゆっくり登ってきていた。
緋月「かげろっち、さっすが…。」
胡蝶「まだ登るのか…?」
山の上を見上げる4人。
小夜「どうやら、頂上みたいだね。」
頂上を目指して5人は登り続けた。
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すると、マーリンは手を口に当てながら笑った。
マーリン「ふふ、あなたたち、面白いわ。」
檸檬「え?」
マーリン「私の事、ちょっとも疑わないんだもの。面白いわ。」
3人は黙った。
檸檬「…だって、科学で解明できないくらいの力が観測されたら、化け物がいたっておかしくないからね…。」
マーリン「それもそうね。」
マリー「今あたしたちが一瞬で殺されたりしてもおかしくないわ。」
マーリン「殺すことはしないわ。」
マリー「それも嘘かもしれない。この化け物の言うことだもん。」
マリーはマーリンに会ってからずっと警戒をしていた。
檸檬「でも、悪い猫じゃなさそう…。」
すると、マーリンはゆっくり話し始めた。
マーリン「私の名前はマーリンよ。森のヌシをやってるわ。」
ローズ「マーリン…さん。」
マーリン「…この森は、私が守っているのよ。外部の人間から、手を出されないために。」
研究員たちは、真面目に話を聞いていた。
マーリン「…あなたたちが森の研究をしているとき、建物のようなものをビデオに収めたでしょう。そこに映っていたのは、私がつくった宿よ。」
檸檬「宿?」
マーリン「えぇ。」
ローズ「ですが、この森にそれらしいものは見当たらない。」
マーリン「そうね。宿は、私が隠しているのよ。私の魔法で。」
研究員「魔法…?」
突然、近くの草むらで音がする。
檸檬「何!?」
すると、草むらからシユウが飛び出した。
固まる3人。
檸檬「…もしかして…シユウちゃん?」
ローズ「え?知ってるのか。」
檸檬「聖雷の猫。」
シユウ「にゃー。」
すると、また草むらが揺れる音。
今度は足音だった。
マリー「あ!」
草むらから出てきたのは、5人の少年少女たち。
影楼たちだった。
聖雷「あ!」
檸檬「聖雷?」
聖雷「…兄ちゃん。」
影楼「マーリンさんもいんじゃねぇか。」
緋月「うわぁ、なんかいっぱいいる。」
小夜「…。」
すると、マーリンが研究員に向かって言った。
マーリン「この子たちは、私の宿の住人よ。簡単に言うと、この森を一緒に守ってくれる人たちね。」
檸檬「え…聖雷が。」
マリー「茉莉衣さん…?(小夜を見て)」
小夜「…はい。お久しぶりです、小鮒さん。」
聖雷はマーリンたちの空気から、何の話をしたかを察した。
聖雷「…マーリンさん、話したの?3人に。」
マーリン「ええ。もう、バレるのも時間の問題でしょう。」
4人はよく分からない様子であった。
聖雷「そっか…。」
すると、またマーリンは話し始めた。
マーリン「ごめんね、話の途中だったわね。続けるわ。」
5人と研究員は静かに話を聞き始めた。
マーリン「魔法というのは、信じ難いことかもしれないけど、私自信が持ってるものなのよ。私の魔法は、この森の中にいる“人”や“物”などを外部の人間から見えないように隠すことが出来るのよ。」
檸檬「隠す?」
マーリン「えぇ。でも、坊やがビデオを確認した時に一瞬だけ建物が映ったように、私の魔法も解けることがあるの。あれは、魔法が手違いで解けた瞬間よ。」
すると、マリーはカバンの中にあった資料を取り出し、マーリンに見せた。
マリー「これでしょ。宿というのは。」
その資料は、ビデオに映った建物の写真だった。
マーリン「そうね。」
檸檬「…本当にあるんだ、この森に。」
すると、聖雷が研究員たちの前に出る。
聖雷「僕たちは、この森で暮らしているんだ。兄ちゃんには言ってなかったけど、宿でマーリンさんと、胡蝶と、ひっきーたちと一緒に住んでいるんだ。森を守りながら。」
檸檬「…。」
研究員たちは顔を合わせ、少し小声で話した。
ローズ「…どうやら、この子たちの言うことも、マーリンさんが言うことも、本当のようね。疑って悪かったわ。」
マーリン「いいえ。疑わない方がおかしいわ。」
ローズ「…これから、この森について研究することはやめる。私、理事長が約束するわ。」
ローズは頭を下げた。マリーと檸檬も頭を下げた。
マーリン「ありがとう。約束してくれて。…最後に、いいかしら。」
ローズ「はい。」
マーリン「私の宿の住人はね、居場所のない子が多いの。だから、森で暮らしているのよ。森で暮らしている時はすごく生き生きしていて、幸せなはずよ。…だから、どうか邪魔をしないであげて。」
緋月「マーリンさん…。」
研究員たちは、深く頷いた。
ローズ「わかりました。」
そして、研究員たちは帰る準備を始めた。
それを優しい瞳で見つめるマーリン。
聖雷「兄ちゃん…。」
檸檬「聖雷。」
聖雷「兄ちゃん…今まで嘘ついてて…ごめんなさい。」
すると、聖雷の頭を撫でた。
檸檬「いいんだよ。お前が、楽しく暮らせてるなら。」
聖雷「うん…。」
檸檬はマーリンに近づいた。
檸檬「マーリンさん。」
マーリン「?」
檸檬「聖雷のことを、よろしくお願いいたします。」
檸檬は頭を下げた。
マーリン「ふふ、分かったわ。」
研究員たちはマーリンにもう一度だけお礼を言うと、去っていった。
沈黙が続く。
緋月「…行っちゃったね。」
再び沈黙が続く。
影楼「…なぁ。マーリンさん。」
マーリンが影楼の方を向く。
影楼「ずっと聞いてこなかったんだがよォ、マーリンさんは何者なんだ?」
マーリンへ全員の視線が集まる。
マーリン「…。」
胡蝶「ちゃんと聞いたことは無かったな。…この機会に、話してはくれないだろうか。」
マーリンは少し考えたあと、ゆっくり頷いた。
マーリン「分かったわ。…話してあげるわ。私のこと。」
*
山を降り、森の中を歩く研究員たち。
会話はなく、ただ歩き続けているだけだった。
3人「…。」
すると、ローズが話し始めた。
ローズ「レモン、マリー。」
檸檬「はい。」
マリー「どうしたんですか、理事長。」
ローズ「2人とも、マーリンさんの話信じるか?」
檸檬「え。」
沈黙。
マリー「…真剣に伝えて来たことは分かったけど…信じ難いかな。」
ローズ「やっぱりな。レモンは。」
檸檬「嘘か本当かは分からないけど…聖雷たちやマーリンさんを、守りたいとは思った。」
ローズ「そうね…。」
檸檬「…あと。」
2人「?」
檸檬「この森の研究は、もう打ち切りにできませんか。」
ローズ「…。」
ローズは少し考えたあと、こう言った。
ローズ「…そうね。マーリンさんや、あの子たちを守るためにも。」
マリー「理事長…。」
ローズは2人の顔をしっかりと見た。
ローズ「また、新しい研究を始めましょう。上の者には私が報告しておくから。」
マリー・檸檬「はい!」
3人は手を合わせて笑った。
こうして、研究員たちはこの森の研究を終わることになった。




