名無しの男
エドウィン視点です。
主人公は出てきません。
赤銅色の髪。
鋼色の瞳。
顔に傷のある男。
塔の少女から「探し人の特徴」を聞いたとき、エドウィン・カルダスは思った。
(それは、どこにでもいる傭兵だろう)
せめて、名前が分かれば良いのだが、名前を知らないときた。
だいたい、顔に傷のあるような男に
「あ、すみません。ナナシと呼ばれた経験はあります?」
なんて話しかけようものなら、余計な争いを引き起こすのは必然である。
頼みの綱は「呪いで舌が切られた」という点だけだ。
オキトン方面の諜報部隊にそのような風習があると聞いたことがあるので、そちらの方も調べる必要がある。
(これは、時間のかかる任務になりそうだ)
エドウィンは塔から飛び去りながら、闇夜のうちに嘆息した。
事の発端は、少女に話した通りだ。
十年ぶりに、母から手紙が来たのである。
11歳で現赤龍騎士団長に見いだされ、そのまま引き抜かれた。エドウィン自身は憧れの騎士になれると喜び勇んだものだが、母は大反対した。
「亡くなったお父様の意思を継いで、医師になるのでしょう?
それでも、騎士になるというのでしたら、頂点を取るまで家には上げません。手紙も一切出しませんからね!」
母は宣言通り、手紙の一通も寄こさなかった。
その母が、自分に手紙を書いたのである。
重病か!?と焦ったが、内容的には息子を案じる母親以外の何物でもない。
怪しすぎる。
エドウィンは母の暗号を読み解くと、すぐに騎士団長のもとへ奔った。
事務方へ強引に休暇を要請し、母を助けに行くほど愚かではない。騎士団長は、エドウィンの母子関係を知っている。事情を説明すれば、すぐに許可が下りるはずである。
ところが、団長は首を横に振ったのだ。
「な、なぜですか!? 母が助けを求めているというのに、ここで仕事をしていろと?」
「問題はそこではない」
団長はそう言うと、扉を閉めろと目で合図を出す。
エドウィンは指示に従い、部屋の扉を閉めた。これで、この部屋に刻まれた盗聴防止の術式が起動する。
「ここ数週間、第五神殿のシーザー神殿長と連絡がとれない。すべて、副神殿長が代理で神殿の業務を執り行っている」
「ブルータスの仕業ですね」
エドウィンは母の手紙を握った。
「副神殿長が神殿長を殺害し、それを隠匿している。でしたら、話が速い。すぐに捜査すれば……」
「待て。話には続きがある」
団長はテーブルに両肘をつき、顔の前で指を組んだ。
「副神殿長は名を改めた。
マルクス・バドワイザー。神殿長の代理ということで、気持ちを一新するとのことらしい」
「名を改めることは多々ありますが、このタイミングとは……どういった了見なのでしょう?」
「……妙な話がある」
団長は他に聞く者がいないにもかかわらず、ほとんど囁くほどに声を落とした。
「ブルータスが名を改める前夜、第五神殿から緊急の一報が入った。
『大事が起きた。至急、第一神殿の神殿長に取り次いで欲しい』
これに返答をしようとした際、ブルータスが現れて、
『第五神殿の長が急な病に伏せてしまったことを報告しようと思ったのですが、すみません。気が動転していました。このような夜更けに申し訳ありません』
と、謝罪したとの記録があった」
「ブルータスの殺人を内部の誰かがリークしようとしたのでは?」
エドウィンが応えると、団長は首を横に振った。
「私がAに殺された。お前はAが犯人だと、大将軍に伝えに行く際、取り次ぎの者に何と説明する?」
「もちろん、団長が殺害されたと」
ここで、おかしいことに気付いた。
「シーザーが殺された」「反乱が起きた」ではなく、「大事が起きた」と内容をぼかしている。神殿長に直接伝えなければならない大事があったのだ。
「この事件、闇が深い。それでも、関わるか?」
「はい。母の命がかかっています。それに、真実から目を背けるのは破道です」
「……では、お前もこの捜査に関わってもらおう。
15年間、行方知らずだった聖女様の捜索に」
「……と、送りだされたけど、あの子が聖女か」
エドウィンは空を飛びながら、捜査資料を読み返した。
公にはしていないが、15年前、聖女の取り換えに関与した者は、すでに捕縛されている。
当時の次期神殿長候補だ。
『聖女様を見た途端、この子をわしの手で育てたいと思ったのだ。
わしの宝として、わしが一生、部屋に閉じ込めて養うと』
と、ふざけた供述している。
歪んだ愛情にもほどがあるが、問題はその後だ。
当時、世界各国から首脳陣が聖女の誕生を祝いに来ていた。
聖女誕生の祝福にあやかろうと、赤子や幼子を連れてくる者もいた。その際、神殿長候補が聖女を囲っていると知った者が、己の娘を入れ替えたのである。
因果応報というやつだ。
これが発覚したのは、3年前。
神殿長候補が病に倒れ、死に瀕した際、その娘に打ち明けたのだ。
『お前が本当の聖女なのだ』
と。
娘は仰天した。
家から一歩も出してもらえなかったが、神殿長候補の養子として、蝶よ花よと育てられた。彼女は
『すぐにでも、わたくしが聖女だと公表するべきです。ここから出してくださいませ』
と養父に進言し、秘密裏に神殿へ連れて来られたが、まったくの別人だったというわけである。
ここから、新たな捜査が始まった。
事件当日、神殿長候補に接触する可能性があった幼女連れの要人を洗い出す作業である。
そうして洗い出された候補国が、ビッフェル王国だ。
叩けば埃の出る国にもかかわらず、不自然なほど絶妙に隠し通していた。他国に進出する商人たちも奇跡のように金を稼いでいる。
国力が小さいのに、似た者同士の隣国との戦では全戦連勝の快進撃だ。
おまけに、末姫は幼少期以降、「身体が弱い」と奥に籠り、誰もその姿を見たことがない。
怪しい以外のなにものでもない。
むしろ、ここまで好条件がそろっているのに、なぜ目につかなかったのか?と疑うまでだ。
その国に、例のブルータスが接触し始めた。
これは、犯罪臭しかしない。
だが、証拠がないと踏み込むことができない。
他国の中枢の調査はもちろん、第五神殿の調査には手続きや根回しがいる。下手に根回しをする間に、逃がされたり証拠を隠されたりしたら、元も子もない。
「確固とした証拠を手に入れること。
これが、俺の任務ということですよね」
一番楽な方法は、あのいかにも聖女な娘を証言台に連れて行くことが手っ取り早い。
しかしながら、過去二例も「聖女違いでした」が続いている。それに、無理やり連れだした結果、ブルータスたちが逃走し、二次被害を引き起こす危険性があった。
「それに、あの子しか証言してくれそうな人がいないからな。
神殿の職員に下手な探りを入れられないし……下手に機嫌を損ねるより、ありふれた名無しさんを探してみますか」
エドウィンは事の詳細をまとめた文をしたためると、適当な街へと降りて行った。
聖女の探し人は、ありふれた男だ。
傭兵ばかり集まる酒場へ行き、外見の特徴を叫べば二、三人振り返る。
当然、「名無し」探しは上手くいかず、一月が経過しようとしていた。
こうなってくると「用件を伝えてきました」と偽りの報告をしたい気持ちだが、虚偽報告は騎士の名折れだ。
エドウィンは、今日もレーマス帝国とビッフェル王国の国境の街を歩いていた。
旅人のようにフードを羽織り、すれ違う人々にそれとなく視線を奔らせていく。いまも赤銅色の髪の男を見つけたが、顔に傷はなく、蒼い瞳だった。
完全なる人違いも、今日で何人目だろうか。
エドウィンは、嘆息した。
「……昔話にあったっけ。興味のない求婚者に無理難題を押し付けて追い返す。
まさか、あれじゃないだろうな? 俺を厄介払いしたかったとか?」
自分で呟いてみて、違うと否定する。
少女は嬉しそうだった。
その人を思い出すこと自体が、心が弾むらしく、特に、眼の色を例えるとき、さっさと次へ促してしまわなければ、延々と例え続ける勢いがあった。
「だいたい、最後のあれは…………ん?」
瞬間、視界の端で仄かに暖かそうな紫色が通り過ぎるのが見えた。
珍しい色だったので、つい少しばかり顔を後ろに傾け、すれ違った人物に視線を向ける。くたびれた旅装束に身を包んだ青年だった。髪は赤銅色で、薄らとした紫ではない。
「気のせいか………っ!?」
エドウィンは前に向き直りかけ、慌てて振り返る。
赤銅色の髪の男だ。
油断していたわけではなかったのに、気が付かなかった。エドウィンは男の顔を確認するため、声をかけることにした。
ところが、男は足早に歩き去ってしまう。
「おい、待て。待ってくれ! 君に聞きたいことがある」
エドウィンは彼の背を追いかけた。
人ごみの中を小走りで追いかけると、みるみる間に彼との距離が縮まった。男自身、歩みを緩めたのか、背中が近づいてくる。そこで少し息を抜いた瞬間、他の人の波に乗られてしまった。今度は気を抜かないと決めて、彼の後ろを猟犬のように徹底的に追いかける。
そのうちに、少しばかり服の内側が蒸してきた。
北国とはいえ、すでに季節は夏に差しかかっている。身分を隠すためのフードが微かに重く、心なしか暑苦しく思えた。
(……おかしい)
じんわりと額が湿ってきたことを感じ、舌打ちをする。
自分は世界屈指の大国の精鋭部隊員だ。たかが人を追いかける程度で汗など出るはずがない。
(いや……そうか、歩調か)
エドウィンはしばし考えた後、唇を噛みしめた。
あの男の歩く速度は一定ではない。遅くなったかと思えば早くなり、その逆もしかりだ。速度に加え、歩く方向や進む道まで意図的に変えている。意識してやる方は呼吸を保ちながら動くことができるが、後を追う側からすれば急な変化に対応するのが遅れ、合わせようとするのも一苦労だ。
それを繰り返しすることで、少しでも疲弊することを狙っている。
その隙に逃げ出すつもりなのか。
それとも、どこまでついてくることができるのか、品定めをしているのか。
(そっちがその気なら、こっちにも考えがある)
エドウィンは男に視線を向けたまま、手近な路地へ入り込んだ。
建物の隙間にある路地だ。人の気配はなく、誰かが通る気配もない。エドウィンは路地の壁に身を隠しながら、男に視線を向け続ける。
男は歩みを緩めた。
当然、エドウィンが身を隠したことに気付いているはずだ。
それも、いかにも打ってつけな狭い路地に。
鉢植えや空き瓶が転がっていたが、ちょっとした戦闘が行えるほどの狭さはあった。
(さあ、誘いに乗ってこい)
肝の小さい男なら、逃げ出さない。
突然、自分を追ってこなくなった相手に不安を抱き、他にも仲間がいるのではないかと様子を確認しに来る。
おそらく……あの男は肝は小さくない。
そのまま気にすることなく、追手の存在だけを確認し、宿へ戻ることだって考えられる。なにせ、一度、こちらが隠れてしまえば、この路地から出て追いかけるのは少々面倒だ。距離が開いただけに留まらず、人の流れに再度乗るのもコツがいる。
しかしながら、彼なら分かるはずだ。
これが、挑発だと。
よって、彼が反転し、俯きながらこちらへ向かってきたときは、かかった! と思った。
顔は陰になって見えないので、別人かもしれないが、別人だとしても、このような怪しい人物を野放しにしておくわけにはいかない。
エドウィンは男に目を向けながら、そろそろと後退しつつ、壁で手元を隠した。袖のうちから魔術式の刻まれた札を用意し、右の人差し指と中指の間に白墨を挟み込んだ。
「……ったく。鬱陶しいな。さっきから何の用だ?」
男が路地に踏み込んできた。
粗雑な前髪の隙間から、鋼色の瞳が鋭利な刃物のように光る。瞬間、エドウィンは大型犬を連想した。貴族が愛好する床に寝そべる毛並みの上等な犬ではなく、しなやかで俊敏に動き出す猟犬に近い。
(いや、猟犬ではないな。あれは、一匹狼だ)
意外にも血色が良く、健康的に見えるが、その在り様は三日間、食事をお預けにされた野生の狼だ。
「不快に思われたようで、申し訳ない。実は、ある御方の依頼で人探しをしていてね」
肌がぴりぴりとするような感覚が、さあっと全身に広がる。
背筋を逆立てるような殺気を隠そうともしていない。彼が少しばかり顔を上げてくれたので、傷が見えた。
目元と頬にかけて奔る十文字の傷。
他にも額や反対の頬にも深く特徴的な傷はあったが、概ねの人相は一致した。
違うのは一点、話せることのみである。
「君は、ナナシと呼ばれたことがあるかい?」
エドウィンは右掌を袖に隠しながら、口元に人の良さそうな笑みを張り付けた。
「あ、ごめん。失礼だよね。分かってる。俺も名無しなんて呼ばれたら、気分が悪くなる。だけど、君みたいな容姿で、名無しと呼ばれた男を探しているんだ」
男は答えない。
黙したまま凝視されるので、自分の目に穴が空くのではないかと思うほどだ。男の警戒心は依然として高いが、名無しと呼ばれたことに怒っている様子ではない。
「ある御方、ねぇ。
そいつ、かなり偉い立場なんじゃないか?」
「あ、ああ、そうそう。高貴な立場の御方だ」
(やっぱり、当たりか?)
エドウィンは、はやる気持ちを抑えながら、つい、一歩前に踏み出した。
じゃりっと地面の砂が音を鳴らした、その刹那。
男が消えた。
否、消えたのではない。急速に屈んだのだ。腰を深く落とし、地面を蹴り上げる。男の跳躍は砂を巻き上げた。それだけ威力が強く、疾風を孕んだ矢のように迫ってくる。
「舐めるな!」
エドウィンは半歩左に跳び、近くの鉢植えから添え木を引き抜いた。半歩横にそれた程度で、男は拳を振る手を止めない。まともに喰らえば、エドウィンの腹を撃ち抜く速度だ。
よって、エドウィンは右手に隠し持った白墨で素早く添え木に術式を刻む。そして、男の右拳が自身の身体に到達する前に、添え木で弾き返した。ただの添え木が男の右袖を切り裂き、わずかに赤い血が舞う。
「っ、式使いか!」
「そっ。さてと、君がそのつもりなら……俺だって、受けて立つよ」
ナナシ候補は、あまりにも好戦的。
とてもではないが、落ち着いて話しも聞いてくれそうにない。エドウィンは右手に挟んでいた防音の術式を四方に飛ばした。その間にも男は迫ってくる。男は拳のままだったので、ほうっと感心する。
エドウィンの武器は添え木だが、硬化の術式のおかげで、ちょっとした剣と大差ない。
拳一本で戦うには不向きだが、それでも向かってくるのは、よほどの自信家だ。
「ふんっ!」
エドウィンは、男めがけて切り込みにかかる。ところが、男の方が僅かに速い。瞬きすらできないほどの速度で足を回転させるように身体を滑らせ、エドウィンの背後に回り込んでくる。その気配を察知したので、エドウィンは振り返ることなく、軽快に地を蹴った。エドウィンの身体が空へ浮かんでから半歩遅れ、男の蹴りが宙を掻くのが見えた。
(これで終わらせる!)
エドウィンは空で体勢を整える。
男も地面を踏み込み、奥歯を噛みしめたのが分かった。エドウィンは男が跳躍体勢を整えたことを視認すると、添え木を握り直した。
(来い!)
男が跳躍する。
砂埃を撒きあがらせながら、拳が眼前に迫ってくる。エドウィンは添え木を構えたまま、飛行の術式を小指程度に起動させる。岩をも砕きそうな拳の一撃を、エドウィンは身体を捻らせながら回避した。拳は添え木にすら当たることもなく、何もない空に向かって突き出される形になってしまう。
あとは、男の下に潜り込み、拘束すれば終了だ。
「もらったっ!」
エドウィンは反転し、攻勢へ出ようとした瞬間、自分の失策を悟る。
「悪ぃな。俺がもらった」
男も反転していた。
振り向きざまに右拳を鞭のようにし鳴らせ、エドウィンの側頭部に打ち付けてくる。側頭部……特に耳の裏は急所だ。当たると一撃で昏倒してしまう。咄嗟に顔を背け、急所直撃は避けたが、そのまま路地に叩きつけられてしまった。
「―—ッ、くぅ、効いた」
それでも、衝撃は殺しきれなかった。
世界に銀砂が舞い、頭が割れたかと思った。そうこう思っている間に、男が圧し掛かり、足を拘束して来た。そのまま、右手も拘束しようとしてきたので、
「……往生際が悪い奴だな」
近づいてきた右手に隠し持っていた「停止の術式」の札を張り付ける。
策を編み出す時間稼ぎでしかないが、男は退屈そうに一瞥すると、空いてる左手をひらひらと揺らした。
「だが、気づいてんだろ?
あんたの左手には、札はない。右手は俺を止めるので必至だ。式を描く暇もない」
この勝負、俺の勝ちだ。
口端を持ち上げた笑顔は、言葉よりも饒舌に宣言している。
「さてと、それで? あんたは、誰から俺を殺して来いと頼まれた?」
「……?」
「死なない程度で連れてこいか?
どっちにしろ、お断りだ。あんたの依頼主が探してる娘の居場所は、四肢を切り落とされても吐かねえよ。んじゃ、これから眠らせてやるから、そのことを依頼主によろし―――」
「ま、待て待て待て!? そんな物騒な依頼は受けてないって!!」
エドウィンが全身全霊を込めた叫びをぶつけると、男は虚を突かれたような顔になった。左拳は矢のように放たれる寸前で固まっている。
エドウィンはその隙を逃さんとばかりの勢いで、依頼人のことを伝えた。
「黒髪の女の子に頼まれたんだ!
命の恩人のナナシさんの無事を確かめて欲しい、ってさ!」
「女?」
男の眉間の皺が深くなる。
疑るように獰猛な目を細めているが、喰いついてくれた。エドウィンは少女の説明を始めた。
「名前は教えてもらえなかったけど、君のことを案じていた。レーマス帝国の第五神殿に行った時に出会ってね、ナナシという男が無事かどうか確かめて来て欲しいと」
「……目の色は?」
「青だ。冬の空よりも澄んだ青色」
「飯は?」
「飯……?」
「その女が作る飯の味は?」
苛立つような言葉をぶつけられ、エドウィンは正直に答えた。
「知らない。彼女と話したのは、一時間にも満たなかった。食事をご馳走になる光栄な時間はなかったし、そもそも、あの子は料理ができるのか?」
「……できるが、できないな」
男はエドウィンの上から退いた。
エドウィンが慎重に立ち上がると、男の顔から好戦的な色が拭い去れていた。まだ肌を刺すような緊張感を漂わせてはいたが、鋼色の瞳は倦怠感を帯び、斜め左下を向いている。
「その……悪かった。勘違いしたらしい」
「いや、俺こそ最初に自己紹介をするべきだった。
改めて。俺はエドウィン・カルダス。赤龍騎士団の……」
ここで、捻じれるような音が路地に木霊した。
どこからとも、誰から発した音とは言わない。
男たちは互いに黙り込み、しばし顔を見合わせた後、ほとんど同時に、このようなことを呟いた。
「夕飯、一緒に行かないか?」
「これから食事、どうです?」
エドウィンを本作に登場させた理由
ナナシのバトルシーンを聖女以外の視点で書きたかった!
以上!
次回、21日0時頃 更新予定です




