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腐った奴ら

作者: 星いちる


 独裁国家となったその国で、次から次へとでたらめな法案がまかり通っていた。

 なかでも国民たちを苦しめていたのが、次々にできる新しい税金だった。

 子どもが生まれれば出産税をとられ、人が死ねば死亡税がとられた。

 子どもが小学校に上がれば入学税がとられ、就職すれば就職税がとられた。

 結婚すれば結婚税をとられ、離婚すればこれまた離婚税がとられた。

 食品を含むすべての消費にかかる消費税は、いまや二十%になっていた。

 国民はそうやって税金をしぼりとられ、人々の収入の半分以上は税金でもっていかれた。

 そうして国民からしぼりとった金で、政治家たちは好き放題をした。

 強権国家の機嫌をとるために、武器や兵器や原子炉を買い込み、首相は自分の顔を売るためにその必要がない国にまで多額の国際援助をした。

 国家公務員の給与は国民の平均年収の四倍になった。怒った国民がデモをしようと、知らぬふりだった。

 政治家たちは税金で毎日毎食、贅沢なものを飲食した。買収されたメディアは、それを報道することはなかった。

 その上、国民の福祉予算は最低まで削られた。難病に苦しむ人々も高齢者も、見捨てられた。

 政治家たちはぶくぶくと肥え太り、国民たちはやせ細っていった。

 いまやこの国は史上最低最悪の国になった。国家権力は腐り切り、甘い汁を吸うだけ吸っていた。

 生活に困窮し、明日に絶望した人々は、自ら命を絶つしか術はなかった。一家心中が多発し、年間の自殺者数は百万人を超えた。

 そうして、その国の国民数は激減した。

 その国の人口が五千万人を切ったとき、政府はやっとことの重大さに気づいた。

 オートメーション化された社会は、ほとんどの仕事をAIが担っていたが、どうしても人間の労働力がいる現場がある。いまや、その労働力となる人間の数が絶対的に不足していた。

 地方都市は衰退どころか死滅し、残された少ないその国の人口は中央都市に集中していた。そして、中小企業のほとんどは廃業し、大企業だけがかろうじて残っていたが、やはり労働力が足りていなかった。

 あわてた政府は少子化対策に動き出した。しかし遅かった。

 希望をすっかり失ったその国の若者たちは子を作ろうとは思わなかった。この国に生まれてしまった絶望を、子に味わわせたくなかったのだ。

 政府は結婚税や出産税や入学税を撤廃し、子育て助成金を出しても、もはやまったく効果はなかった。出産率は、0.001%になった。

 政府は、躍起になった。子なし税、独身税を課し、若者たちになんとかして子を産ませようとした。しかし、やはり効果はまったくなかった。

 一度絶望してしまった人々の心を生き返らせることは不可能だった。

 日々、自殺者数は増えていった。その国の人口は五千万人から日々、減ってゆき、四千五百万人になり、四千万人になり、三千五百万人になり、三千万人を割り込んだ。

 国がほぼ壊滅状態だということに政府はやっと気づき、顔面蒼白になりながら政府の役人はすべての税を撤廃した。

 しかし、その国に蔓延する絶望感は消えなかった。さらに少しずつ少しずつ、櫛の歯が抜けるように人口は減っていった。

 そしてある日、異変が起こった。

 首相をはじめ、政府の要人たちが原因不明のウイルスに侵され、体じゅうが腐っていったのだ。

 それはある意味、自業自得の症状といえた。腐った心の持ち主の体が腐ってゆくのは当然の成り行きかも知れなかった。

「誰か助けてくれ!」

 政治家たちの悲痛な叫びが、人の絶えた街のなかで虚しく響き渡った。





(了)




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