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08 せんぱい!

 しかし、七人か。


 数が多いな。今の俺が真面目にやり合うにはキツい人数かもしれない。数が多いってのは、それだけで大きな力になる。


 こいつらが真っ先に木刀で、あの代表君を過剰なくらいぶちのめしたのも、こちらを恐怖で動けなくするためだ。こちらの方が人数は多い。その数の多さという利点を恐怖で塗りつぶす。効果は覿面だ。殆どのヤツが怯え、震えている。


 意外に先輩方は賢い。いや、ずる賢いと言うべきか。


 俺はどうする? どうすれば良い?


 俺一人が逃げる? 何処から?


 入り口か?


 その場合は七人の先輩たちの中から鍵を持っているヤツを探し当てて奪わないと駄目だ。


 じゃあ、ガラス窓から逃げる?


 ガラス窓は高い位置にあり、そこまで駆け上がるのが大変そうだ。ガラス窓を割って外に出ようにも、その窓ガラスは網入りガラスで――難しい。


 この状況を打破する一番簡単な方法は、俺たちの方が数が多いってことを思い出させることだ。数が多いってのは、それだけで大きな力になる。


 だけど、まぁ、とにかく、だ。俺がやることは一つだよな。


 この二年の先輩方がやろうとしていることはさぁ、ちょっと違うよな。


 不良でも突っ張りでも無い。


「ただの(わる)だ」

 騙して、監禁して、金を奪う? そう、こいつらはやっちゃあ駄目なことの中でも、そのレベルを超えているぜ。

「おい、そこの何か言ったか?」

 俺の言葉を聞いた金髪野郎がこちらを睨んでくる。


 だから、俺は前に出る。俺のやることは決まっている。やるべきことは決まっていた。

「先輩、ちょっと、これはやり過ぎじゃあないですかねぇ」

「あーん? それはよぉー。この転がっているヤツと同じ目にあいてぇーってことだよなぁー」


 ま、こうなるよな。

「あ、有馬君……」

 俺の後ろには江波が居た。俺の背中に隠れているようだ。他の連中と居るよりも俺と一緒に居た方が安全だと思ったのかな。


「江波、ちょっと下がっててくれ」

「あ、うん」

 不安そうな顔の江波が集団の中へと戻って行く。


「さて、と。それじゃあ先輩やりましょうか」

 俺はそう言ってブレザーの袖をまくる。


 そして、そこにあるものを外す。


 ドサリという大きな音。

「先輩、こいつは、一つ十キロですよ」

 そう、パワーリストだ。筋肉を付けるために身につけ始めたものだ。んで、まぁ、このパワーリストだが、ホントは二キロなんだよなぁ。十キロの重さのパワーリストを探したけど売ってなかったんだよね。十キロクラスになると特注になるのだろうか。


 俺のパワーリストに気を取られ、先輩連中が、迷い、動きが止まっている。


「そんなのはよぉー、はったりだ!」

 金髪野郎が叫ぶ。


 んじゃ、行きますかッ!


 金髪野郎を目指し、拳を構え飛び込む。

「!!」

 金髪野郎がとっさに腕を構え、上半身を守る。


 そう来るのは分かっていたぜッ! 腕のパワーリストを外したんだから、殴りかかってくると思うだろう? 違うんだよなぁ。


 金髪野郎の足を蹴る。

「ぐぉ!!」

 金髪野郎が足を押さえ転がる。


 今、俺は足に一つ四キロのパワーアンクルを巻いている。これが、今の俺でも教室で雷人を蹴り倒すことが出来た理由だ。蹴りの威力を上げるための重しだ。


「この野郎!」

 とんがり頭が木刀をこちらへと振り下ろしてくる。それを足のすねで受ける。


 何かが弾けるような音。

「砕けた音だぜ!」

 とんがり頭が嬉しそうに叫ぶ。いや、違うね。それは俺が足に巻き付けたパワーアンクルで防いだ音だ。


 俺はそのまままわる。跳び、木刀を防いだ足を軸として周り、回し蹴りをとんがり頭にぶち当てる。

「ごぽっ!」

 とんがり頭はその一撃で頭を抑え、倒れ込む。


 これで二人。


 すぐにガタイの良いおっさんのような先輩が殴りかかってくる。俺はその手を掴み、おっさんのような先輩の懐に入り、背負い、投げる。


 投げる。背負い投げだ。ガタイの良いおっさんが背中から地面に叩きつけられる。


 だが、あまり効いていないのか、おっさんのような先輩はすぐに起き上がってくる。

「そんな軽いのが……」

 だから、おっさんのような先輩が口を開いたタイミングを見計らい、その腹に踵を落とす。

「ごぽぅ!」

 おっさんのような先輩が口から色々と吐き出しながら転げ回る。腹筋ってぇのはさ、どんなに鍛えても、呼吸とかのタイミングに一撃を貰うとさ、それを防ぐことは出来ないんだぜ。これで一つ賢くなったな。


 これで三人。


「先輩、もう残り四人ですが、まだやりますかねー?」

「こ、この野郎、調子に乗りやがってっ!」

 だから、呼びかける。


「おーい、みんな、どう思う?」

 新入生の皆さんに呼びかける。


「え?」

「あ、ああ?」

「僕たち?」

 その顔に先ほどまでの怯えは無い。


「先輩、俺たち帰りますんで、鍵を貸して貰えますか?」

 俺は外したパワーリストを拾い、残った四人の先輩に呼びかける。


「くそがっ」

「先輩?」

 俺がちょっと殴るような振りをすると、先輩たちは怯えたように構えをとった。


「鍵は?」

「こ、これだ」

 先輩から鍵を受け取る。


「お、おい、返すのかよ」

「人が足りねえよ」

「一年がよぉ、覚えてろよ。今、お前は俺たちを敵に回したんだからよぉ!」

「くそがっ」

 先輩方は、何か色々と喋っている。負け犬の遠吠えというヤツだ。


「さ、帰ろうぜ」

 先輩から受け取った鍵を使い、入り口を開ける。そのまま、その鍵を先輩の方へと投げ返す。


「う、うん」

 江波が最初に、その後にぞろぞろと新入生たちが続く。倒れた代表君に肩を貸しているヤツもいる。良いヤツだなぁ。


「でも、驚いたよ。有馬君、強いんだね。喧嘩なれしているんだね」

 江波が俺の後をついてくる。

「いんや、ギリギリさ。はったりが上手くいっただけで、全員で一斉に襲いかかられたら危なかったもしれないさ」

 そう、俺はまだまだ弱い。


 筋肉が足りないよなぁ。

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