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07 かんげい!

 壇上では、めがねをかけたひょろ長い先輩が一生懸命に何かを喋っている。俺は欠伸をかみ殺しながら、それを聞き流す。正直、退屈だ。

 周りの連中は真面目にパイプ椅子に座って話を聞いている。まぁ、入学式で暴れでもしたら、良くて停学、最悪、退学だろう。いくら、頭が悪くて底辺でも、そんなことをする馬鹿はいない。


 いない。


 ……昔はいたんだけどなぁ。初日から暴れて退学になるような馬鹿が、さ。


「ね、ねぇ」

 そんなことを思い出し、感慨にふけっていると俺の隣に座っている奴が小さな声で話しかけてきた。

「ん?」

「ぼ、僕は江波……、江波守(えばまもる)。君は?」

 隣の席のヤツを見る。随分と大人しそうなヤツだ。そして、かなり背が低い。今の俺は『160』を越えるくらいだが、それよりも背が低い。ま、まぁ、俺は成長期だから、後、十か二十くらいは伸びるはずだ。それに、だ。この年齢で百六十センチ程度の背丈なら、そこまでちっさくはない――無いはずだ。あのおっさんの背が高すぎるだけだよな。うん、きっとそうだ。


 と、とと。自己紹介か。


「俺は、とお……有馬太一(ありまたいち)だよ」

「有馬君かぁ。よろしく」

 とりあえず挨拶は返すことにする。

「ああ、よろしく」

「ここってさ、ガラの悪そうな連中が多かったからさ、有馬君みたいな普通の人がいてホッとしてるよー」

「あ、ども」

 江波は教室で雷人を相手にしていた俺の姿を見ていないのだろうか。もしかすると他の教室にいたのだろうか。うーん、あの時、教室に、この江波が居たかどうか分からないなぁ。この江波、存在感が薄い。薄い顔をしている。いわゆるモブ顔だ。

 にしても、普通、普通かぁ。俺、そんな弱そうに見えるのか。引き籠もった結果なのだろうか。その経験が体からオーラとしてにじみ出ているのだろうか。まぁ、まだ、背はそこそこで、筋肉を付けていないような状態だもんな。


 これから、これから。


「でさ、武装したテロリストでも攻めてきたら面白いのにね。この体育館を占拠してさ」

 江波はそんなことを言っている。大人しそうなヤツだと思ったが、訂正だ。こいつもこの湖桜高校(クラウン)に入るようなヤツだ。頭が悪くてヤバいヤツのようだ。

 武装したテロリストなんかがやって来たらヤバいぞ。人数や武装にもよるが今の俺では対処できるか分からない。そういうヤツらは人殺しをなんとも思っていない場合が多いからなぁ。俺も覚悟を決めないと駄目だ。殺す覚悟を持っているヤツには、こちらも殺しの覚悟が必要になる。


 いくら俺でも、この年で殺しの覚悟なんて決めたくない。


 そんなことを考え、話しているうちに入学式は終わった。この場で解散、説明も無し、だ。いや、説明はしていたのかもしれない。俺が聞き流していただけの可能性はある。

 まぁ、前日の説明会を受けた親から聞け、ということかもしれないな。


「有馬君、この後、二年の先輩が歓迎会を開いてくれるらしいけど、一緒にいかない?」

 何処からそんな情報を得たのか江波が誘ってくる。


 歓迎会?


 ふ、うーん。


 どうしようかな。


 そこで見知った顔を見つける。だから、俺は手を振り、声をかける。

「おー、雷人! これから歓迎会があるそうだけど参加するかー!」

「あーん?」

 雷人がこちらへ振り返り、そのまま睨み付けてくる。

「で、どうよ。参加するか?」

「あ、だからよぉ、お前はよぉ!」

 雷人は答えない。『はい』か『いいえ』かを答えることが出来ないくらい頭が悪いのだろう。


「ひっ、有馬君、この怖そうな人、誰?」

 俺の隣では小さな江波が怯えていた。

「あー、雷人だよ。上路雷人(じょうじらいと)。中学の時に俺をいじめていたヤツだよ。そのおかげで俺は引き籠もったくらいだからなぁ」

 江波は良く分からないという表情で俺と雷人を見比べている。


「クソがっ」

 雷人は舌打ちし、とても汚い言葉で俺を罵り呪詛の言葉を吐き出しているが、まぁ、それはどうでも良い。

「で、雷人。どうするんだ?」

「行かねぇよ。つーかよぉ、俺を誘うんじゃねえよ」

 雷人はズボンのポケットに手を突っ込み肩をいからせながら去って行く。うーん、突っ張ってるなぁ。


 さて、俺はどうしようかな。


 まぁ、せっかくの歓迎会だ。行ってみるか。


 俺は江波と二人で着替えもせずブレザーのまま歓迎会の会場に向かう。意外にも会場は学校の外だ。


 そして、そこにあったのは、少し広めの貸し倉庫だった。高校生が借りるにしては大きすぎる気がする。少し、嫌な予感がする。

「江波、ここなの?」

「えーっと、学校で貰ったパンフレットだと、ここだよ」

 ここで間違いないようだ。


 貸し倉庫の中に入ると、俺たちと同じように、ここへやって来た新入生たちの姿があった。野郎ばかりではなく、女子の姿もある。二、三十人くらいは集まっているのだろうか。皆、ここであっているのだろうかと不安そうな顔でキョロキョロと周囲を見回していた。


 歓迎と言うには何も無い。


 俺たちを集めただけのような場所だ。


 集めた?


 と、そこで倉庫の入り口から二年生と思われる連中が入ってきた。そいつらが倉庫の入り口を閉め、鍵をかける。


 出入り口は……その一か所だけか。後は窓くらいだな。


「よーこそ、よーこそ、ひよこちゃん」

 先輩連中の一人、金髪野郎がニヤニヤと笑いながら俺たちの方へと歩いてくる。

「せ、先輩、歓迎会ってことですけど……」

 新入生側を代表して不安そうな顔だが、責任感の強そうなヤツが金髪野郎に話しかけている。

「あー、おう。ひよこちゃんたちの歓迎会だぜ。ちゃーんと、これから歓迎をするぜ」

 金髪野郎の言葉に代表君がホッとしたような顔になる。


 だが、すぐにその表情が変わった。


「だからよぉ、会費、一万だ」

 金髪野郎がそんなことを言っている。

「先輩、それは……」

「あー? 俺たちがわざわざひよこちゃんたちの歓迎会を開くんだぜ? お前たちに配ったチラシにも金がかかってるの。一万くらい安いもんだよなぁ。今、持ってないヤツは後でもいいぞ。その代わり住所、連絡先は貰うけどな」

 チラシ代かぁ。確かにそうだよなぁ。この金髪、言っていることは無茶苦茶だけど、そこはしっかりしているんだな。何だかほっこりするなぁ。


「先輩、ふざけないでください。そんなお金が……」

 代表君が金髪野郎に詰め寄ろうとする。だが、その顔面に金髪野郎の後ろに控えていたヤツが隠し持っていた木刀が炸裂した。その木刀を持ったとんがり野郎が、そのまま代表君を蹴り倒す。


 血が弧を描く。


 代表君が血の溢れた鼻を押さえ転げ回っている。


「おいおい、顔面は不味い」

 金髪野郎はニヤニヤと笑っている。

「しゃーねぇよ。入学式で浮かれて階段で転けるような不注意だからよぉ」

 木刀を持ったとんがり野郎がそんなことを言っている。


 そこで新入生側から悲鳴があがる。皆、怯えている。


 そう、怯えていた。


 ……。


 数はこちらの方が多いのに、な。


 うーん、どーにも、新入生でも弱そうな連中を集めたみたいだ。俺はパンフレットを貰っていなかった。雷人もだろう。配るヤツを選んでいたんだろうな。こいつら、賢いなぁ。


「あ、有馬君。どうしよう。ぼ、僕、一万円なんて持ってないよ……」

 江波は怯えた顔で俺を見ている。


 さて、どうするかな。


 リーダーらしき金髪野郎が一人。木刀を持ったとんがり野郎が一人。武器を隠し持っていそうなヤツが三人。用心棒ぽいガタイの良いのが二人。二年の先輩は全部で七人か。ラッキーセブンで七人にしているのかな。


 ありそうだー。

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