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グラップルファンタジー  作者: 無為無策の雪ノ葉


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55 やぶるぜ!

 逃げる。


 事務所から外に出て足を踏み外しそうなボロボロの螺旋階段を滑るように降りていく。カオル先輩も俺の後に続く。

「たいっちゃん、ここら辺で二手に分かれようぜー」

「了解です」

 サイレンの音は近い。こちらを焦らせるようにわざと大きく鳴らしているのかもしれないな。


 カオル先輩と別れて逃げる。


 路地裏を適当に走り抜け、表通りに出る。よし、抜け出た。

「ちょっと良いかな」

 と、そこで呼び止められる。


 !


 やばい表通りに出たことで気が緩んだか!?


 それは警察官だった。何でここに警察官が? いやいや、サイレン鳴らして車で来たんじゃないのかよ。なんで普通に警察官が歩いているんだ。近所の交番の警察官が様子でも見に来たのか?


「あー、はい、なんでしょう。何かあったんですか?」

「ああ、知らないのか。拳銃の発砲音のようなものが聞こえたって通報があってね。今はそれで僕のような警察官が多く駆り出されているんだよ」

 周囲を見回す。


 よく見れば、あちこちに、路地裏への道を封鎖するように立っている警察官の姿が見えた。これから完全な包囲が作られるのだろう。


 なるほど。


 ……。


 って、おかしくないか?


 動きが早すぎる。


 いや、だってさ、通報があったと言っても、あくまで拳銃のような(・・・)だ。まだ拳銃かどうか分からない状態のはずだ。なのに、応援を呼んで封鎖?


 おかしいよな。


 よく考えればパトカーがサイレンを鳴らしていたのもおかしい。それはまだ早いはずだ。鳴らすなら犯人を追いかける時や急いでいる時だよな?


 まるで分かっていたかのような、知っていたかのようなタイミングだ。


「それは怖いですね。それじゃあ、そういうことで」

 疑問はあるが、ここは逃げるべき時だ。変に誤解されて絡まれるのも面倒だ。すたこらさっさと逃げるんだぜー。

「ちょっと待ちなさい」

 だが、呼び止められてしまう。


 俺はゆっくりと警察官の方へ振り返る。振り返る時に首がぎぎぎって感じで音がなっている気分だ。


「な、なんでしょう」

「君、頬を怪我しているじゃないか。どうしたんだい?」

 あ!


 あの頬傷が発砲した弾が頬を掠めた時の傷か。って、もしかして、俺、怪しまれているのか。


「あー、えーっと、かすり傷です。あのー、えーっと、言い出しにくいんですが、ちょっと、知り合いと喧嘩しまして、それで……」

「喧嘩か。喧嘩は良くないぞ。ちゃんと相手と仲直りするんだぞ」

「あ、はい。もうしっかり話し合いをして、その、話し合いが終わったんで大丈夫です」

 ちゃんとお話したからな! まぁ、聞き出せなかった情報はあるけど、そこそこ満足出来る話し合いだったよな!


「そうか。それならいいんだ。ところで……」

 まだあるのかよ。


「おい、どうした」

 そこに新しい声がかかる。今度は誰だよ!


 そこに現れたのは冴えない感じの中年のおっさんだった。


 その中年のおっさんを見た警察官が敬礼をする。

「あ、いえ、路地裏から現れた怪しい少年が居たので話を聞いていたところです」

「ほう」

 冴えないおっさんが俺の方へ歩いてくる。


 ……。


 って、やっぱり、俺、怪しまれていたのかよ。まぁ、封鎖予定の路地裏から出てくれば怪しまれるか。もう少し考えて行動するべきだったか!?


「えーっと、何でしょう」

 冴えないおっさんが俺のことをじろじろと見ている。


「コイツは例のヤツをやってないようだな。解放してやりな」

 そのおっさんの言葉に警察官が敬礼で返す。


 ……もしかして、このおっさん、刑事か? 何で刑事が出張ってくるんだ? 刑事がらみの事件だってことか?


「おい坊主。最近は若い連中の間で妙な薬が出回っている。間違っても手を出すんじゃないぞ」

「了解です!」

 俺は刑事と思われるおっさんに敬礼を返す。

「おう、面白い餓鬼だな。ほら、さっさと行きな」

 冴えないおっさんはニヤリと笑っていた。


 まぁ、とにかく解放されたようだ。


 このチャンスに、ささっと逃げてしまおう。


 しかし、薬か。例の薬のことだろうな。このおっさんは薬の出所を追っていたのか? つまり俺のライバルだな!


「十年以上追いかけてやっと掴んだ尻尾だ。逃がさないぞ」

 と、そこでおっさんのつぶやきが聞こえた。


 独り言か?


 ん?


 十年って、もう時効になってる事件じゃないのか? 良く分からないが、その事件が発砲騒ぎや薬に繋がるのか? でも、薬が出回りだしたのは最近だよな? 何のことだ?


 薬を追っていると思ったのは俺の勘違いか?


「ん? 坊主、まだ居たのか。ここは危ないぞ。早く帰りな」

 冴えないおっさんが手で俺を追い払う。


 って、俺はずっと居たっての。言われなくても帰るところだったんだからな。たく、俺の無駄に気配を消す能力が高すぎて、すぐに帰ったと思われたみたいだな。


 はぁ、この才能を利用して見つからないように路地裏から出れば良かったぜ。


 まぁ、とにかく、だ!


 カオル先輩と合流して、黒幕の情報を聞き出して、薬の出所を潰せば全て終わりだな。


 ……。


 なんつーか、餓鬼が扱える範囲を超えているな。話が大きくなりすぎだぜ。一介の平凡な高校生には荷が重いなぁ。


 出所を潰すって、どうやって潰すんだっての。普通に無理だろ。


 うん、重い。


 いやぁ、危険な、きな臭い話になったなぁ。


 ホント、これは大変だ。


 俺の口が自然とほころぶ。

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