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グラップルファンタジー  作者: 無為無策の雪ノ葉


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49 かちこみ!

 ドレッドヘアー君の案内で繁華街へと戻る。

「ねーねー、何処に行くつもりなの?」

 カオル先輩がドレッドヘアー君に絡んでいる。この人、ホント、自由だよな。

「なぁ、おい。コイツ、どうにかしてくれよ」

 そのドレッドヘアー君は俺に絡んでくる。ホント、馴れ馴れしいヤツだな。


 繁華街を抜け裏通りに入る。どんどんヤバそうな場所へと歩いて行く。待ち受けているのは罠か――いや、敵の真っ只中に飛び込むのだから、罠もクソも無いか。


 でもさ、こうやってドレッドへアー君の案内でヤバいと分かっている場所へ突っ込もうとしているとさ、入学した頃の金髪先輩のことを思い出すな。もう随分と昔のことみたいだぜ。ホント、あの先輩、ろくでもない先輩だったよなぁ。


「ここだ」

 それは路地裏にある小汚いビルに取り付けられた剥き出しの螺旋階段だった。錆び付いていて崩れそうな怖さがある。

「ここ?」

「ああ。この二階の事務所に、今、竹原さんはいる」

「事務所って、何の事務所なのかなー」

 カオル先輩はドレッドヘアー君に絡んでいる。確かに、それは気になるな。気になるよな。が、答えは聞かなくても分かる。多分、何処かの組のフロント企業だろうな。企業とは名ばかりの一室を借りただけの小さな事務所で悪さをしている連中の住処だろう。


 薬のことから考えても江波の組とは繋がってなさそうなのが救いか。ここでさらに江波と揉めるのは面倒だからなぁ。


 ギシギシと音が鳴る鉄骨の階段を上っていく。

「お、おい。俺はここまでだ。これ以上は殺される」

「んだよー。情けないことを言うなよ。プロの格闘家でも逃げ出すような道場で習ってるんだろ。最後まで案内しろよー」

「ば、馬鹿言うなよ。習ってるって言っても俺なんて雑用の下っ端だじぇ」

 そんなことだろうと思ったぜ。このドレッドへアー君、すっごい雑魚だったもんな。そりゃまぁ、格闘の心得の無い素人よりはやるだろうけどさ。筋肉、凄いしな。でも、それだけだもんなぁ。

「案内しないと、今、俺が殺すんだじぇ」

「ま、真似するんじゃねえよ。と、とにかくこれ以上は無理だ。案内したんだから、もう良いだろうが」

「そう言って逃げようとしているんじゃ無いのか?」

「うっせ。お前に痛めつけられようが殺されるよりはマシだ」

 ドレッドヘアー君は鉄骨の手すりにすがりつき、震えている。


「仕方ないなぁ。ちゃっちゃっちゃらー」

 俺は効果音を口ずさみながらポケットに手を突っ込む。


「じゃじゃーん」

 そしてポケットから取り出したのは――

「お、おい、何だよ、それ!」

「見たら分かるじゃん」

「たいっちゃん、なんでそんなの持ち歩いてるんだよー」

 カオル先輩が腹を抱えて笑っている。


 俺が取り出したのは――手錠だ。


 百円プラス税で購入した玩具の手錠。

「竹原との戦いで役に立つかと思って用意していたんだけどさ。今、使うぜ」

「お、おい、止めろ」

 ドレッドヘアー君の腕に手錠をかけ、階段の手すりと結ぶ。

「これでもう逃げられない」

「な、鍵を寄こせ!」

 俺は手にしていた鍵を投げ捨てる。ドレッドヘアー君が悲しい顔でこちらを見る。まぁ、アレだ。玩具の手錠だからな、力を入れたら壊れるよ。特にドレッドヘアー君みたいな力自慢なら何とかなるだろう。だが、すぐに壊すのは難しいだろう。五分? 十分? まぁ、それくらいはかかるだろうな。それだけの時間が稼げれば充分だ。


「じゃあ、先輩、ちょっと突っ込んできますんで。先輩は待っててください」

「たいっちゃんー、ここまで来て駄目だよー」

 カオル先輩は一緒に来るつもりのようだ。

「いやいや、先輩。本当に危ないですって。どう考えても、その筋の方々の事務所ですよ。場合によっては拳銃(ちゃか)が出てくるかも知れないっすよー」

「んー。まぁ、多分、大丈夫だよ」

 カオル先輩は楽しそうに笑っている。拳銃が出るかもって状況で笑えるとか、俺、この人の余裕が怖えぇよ。


 階段を上がり、事務所への扉を開ける。


 そこは確かに事務所だった。


 事務机が手前に三つ。奥に一つ。壁側に来客用なのか向かい合ったソファが二つ。


 事務机には茶色のサングラスをつけた厳つい男が一人座っている。そして、来客用のソファに頬に傷のある男と――竹原だ。ロングコートの竹原が座っている。


 商談中だというのは本当らしい。でも、机が四つなのに竹原を除いて二人だけ?


「あ? 餓鬼が!」

 事務机に座っていたサングラスが俺たちに気付き威圧するように叫ぶ。

「んだ、カチコミか!」

 ソファの頬傷がサングラスの言葉に反応している。サングラスは俺たちを無視ししてすぐにそちらの方へと振り返る。

「あー、いや、餓鬼が迷い込んだようで」

「あ? すぐに追い返せ。それとも竹原、お前の仲間か、あ?」

 頬傷の言葉を聞いて竹原が俺たちの方へと振り返る。相変わらずのじゃらじゃらと小うるさい鎖が巻き付いたロングコート姿だ。


「アラタ……?」

 その竹原の顔が驚きに――そして嘲りに変わる。

「今更、何の用ですか?」

 まるで狐のように細い目が、さらに細くなっている。今日はサングラスをしていないようだな。


「カオル先輩、知り合いだったのか?」

「んー、一応。でもさー、多分、兄貴と間違えているよ」

 あー、アラタって呼んでいたもんな。


 ま、いいさ。


「そこの竹原先輩に頼まれて、この商談をぶち壊しに来ました!」

「んだと!」

「おい、竹原、お前どういうつもりだ」


 とりあえず前回のお返しをしてやるぜ!

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