47 どうじょ!
急いでサンドを口にかっ込み、冷たいコーヒーを飲む。げほっ、げほっ。ちょっと勿体ない食べ方だったな。って、言ってる場合か。
追いかける。
……。
いやぁ、しかし、こうガッツリ尾行をしていると、何をしているんだろうなって気分になってくるよな。何が悲しくて野郎を追いかけなきゃならないんだ。しかも、その途中で逢い引きまで見せられてさー。
俺は暇人なのかッ!?
……暇人か。うん、暇人だった。俺がやることと言ったらネットの海を泳ぐことか体を動かす訓練だけだったからさ。暇人だよなぁ。
そうそう、最近、俺の体にも筋肉がついてきたんだぜ。
俺の圧倒的な戦闘経験、喧嘩の知識、そして前世の記憶を取り戻してから頑張った柔軟運動によって得た思うように動く体。
そこに、ついに筋肉が加わる。
筋肉は至高。筋肉こそが世界の真実。
筋肉を信じる者は救われる。
筋肉神!
とまぁ、それくらい筋肉は重要だ。確かに筋肉のつけ方を間違えれば体の動きを阻害し、ただの見せるためだけのゴミになってしまう。そう、筋肉は、ただそこにあれば良いというものじゃない! って、いやまぁ、でも、ゴミは言い過ぎか。そういった見せる筋肉ってのも需要があるだろうからな。
話を戻そう。
筋肉――何処にどう筋肉がついていくか、これが重要だ。それが筋力へと繋がっていく。
俺の筋肉は戦いによって――戦う動作によって生まれた自然の天然物だ。
……筋肉。
世の中には筋肉否定派の連中も存在している。良くある『柔よく剛を制する』ってヤツだ。その信奉者たちだな。
柔よく剛を制する――言葉のイメージが先行して、ひ弱なヤツでも技を極めれば筋肉馬鹿を倒せる、技の方が凄いみたいに思っているヤツは多いんじゃあないだろうか。
確かに、俺も、それはかっこいいと思う。憧れるぜ。弱そうに見えて実は強いとか、馬鹿でかい相手を技で圧倒するとか格好いいよな。
分かる。分かるさ。
でもさ、それってどうなんだ?
わざわざ自分を弱いままにしておくって無駄じゃないか? 筋肉をつけ、筋力を得て、さらに技も極める。どう考えても、そっちの方が強いだろ。
俺はそう考える。
見栄よりも実だな。
「おーい、たいっちゃん、聞いてる?」
「あ、え、はい。大丈夫です」
「また誰かと合流したみたいだよ」
危ない、危ない、ちょっと思考の海に小旅行していたぜ。
で、合流か。
俺は物陰に隠れたまま雷人の方を見る。その雷人が会っているのは――例のドレッドヘアーだった。
「カオル先輩……」
「どうにも偶然会ったみたいだよね。友達なのかなー」
俺は思わずカオル先輩の方を見る。
「いやいや、友達じゃないでしょ。雷人に友達なんていませんよ。あいつはすっごく、寂しいヤツなんですよ」
「そ、そうなのかー」
そうなんです。
雷人が手を振ってドレッドヘアーと別れ、建物の中へと入っていく。どうも雷人の目的はその建物だったようだ。
……。
物陰から雷人が入っていた建物を見る。
何だ、ここ。
「タイガードージョー?」
「何だ、たいっちゃん知らないの?」
「知らない」
俺が知らないというとカオル先輩は丁寧に教えてくれた。
どうも、あの新田先輩の――あー、カオル先輩の名字も新田だから紛らわしいな。カオル先輩の兄貴の方の師匠、白兎。こいつが金のため、適当に教えたヤツが開いた道場が、ここらしい。
いやいや、結構、大きな道場だぞ。
「もしかして白兎って金持ちなのか」
「ぜんぜん。自由に浮浪している人って感じらしいよー」
あー、そうですか。だから、金に困って俺の技を売ったのか。いや、まぁ、もう、俺の技ではなく、白兎のオリジナルって言っても良いような技なんだろうけどさー。
でも、何だかなぁ。
で、その適当に教えられた方が大きな道場を開いているのかよ。
ホント、何だかなぁ。
世知辛いなぁ。
ホント、世の中って世知辛い。
「で、たいっちゃん。タイガードージョーの中まで追いかける?」
カオル先輩は楽しそうな顔で笑っている。それは、アレだね。道場破りをするんだよね、って顔だよな。
……。
しねぇよ。
というか、だ。
タイガーって何だよ。タイガーって! 水筒か!?
いや、俺の前世の名前が虎一だったよな。だから、タイガーなのか。違うよな? 違うよな?
「あー、いや、雷人の馬鹿はもうどうでも良いです」
そうだ。
もう、雷人の役目は終わりだ。
目的を果たした。果たしたのだッ!
俺の目的は薬をばらまいた男、竹原を追い詰めること。そして、俺はその手がかりを得た。
ドレッドヘアー君。
お前のことだ。
ここから生きて帰れると思うなよ!




