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05 がっこう!

「ああん! お前、何処中だよ」

「あ!? お前こそ何処中だ」


 俺の目の前では何処の中学校の出身か自己紹介が行われている。とても微笑ましいやり取りだ。


 そう、今日は、この湖桜高校(クラウン)の入学式だ。


 湖桜高校(クラウン)には保護者同伴の入学式なんて存在しない。親たちは入学式の前日に集まり説明を受けて……それだけで終わりだ。

 そして、俺たちはというと――とりあえず適当な教室に突っ込まれ入学式が始まるまで待機だ。


 だから、俺の目の前のような微笑ましい光景が起きる。


 この高校に来るような連中は、


 他で受け入れて貰えなかったヤツら、

 何処にも居場所がなかったようなヤツら、

 ここに力試しに来ているようなヤツら、


 そんなヤツらばかりだ。


 もちろん、ガラの悪そうなヤツらばかりじゃない。単純に勉強が出来ない頭の悪いヤツら――そんな連中は隅っこで小さくなっている。ここには大人しそうな連中も居る。


 俺もどちらかというとそちら側だ。親の用意したストレートなブレザーに身を包んでいる真面目君だ。


「あん?」

「ああん?」

 俺の目の前であんあん喚いている連中は、そんな俺には絡んでこない。住む世界が違うと思っているのか、雑魚に絡んでも仕方ないと思っているのか、とにかく俺の周辺は平和だ。


 このまま入学式が始まるのを待つだけだ。


「あ!?」

「ああ!?」

 口づけでも交わしそうな距離でにらみ合っている連中。そんな光景が至るところで始まっている。そろそろ拳が出るかな。自分が一番だと思っているような大馬鹿連中を一つの部屋に集めたら、こうなるよな。まぁ、こんな初っぱなから飛ばしているような連中は虚勢を張っているだけで、実際はたいしたことがないってのが殆どなんだけどな。


 そんな感じで微笑ましい光景を眺めていると見知った顔があることに気付いた。


 お?


 お、お、お?


 おお!?


雷人(らいと)じゃん」

 思わず声をかける。


 そいつの名前は上路雷人(じょうじらいと)。俺の知っている顔だ。


 知ってる顔があったら声をかけるよなぁ。特に、こう、周りが知らない顔ばかりで不安で、入学式という特別なイベントで緊張している時に知った顔があると頼もしくなるよな。


 思わず声をかけちゃうよな。


「あ? お前、誰だよ」

 雷人はこちらを睨み付けてくる。先ほどの連中と同じような(がん)の付け方だ。さすがは不良は違うなぁ。怖いなぁ。


「俺だよ、俺」

「ああ? だから、誰だよ」

 分かんないかなぁ。


 って、そうか。


 こいつは以前の俺しか知らないもんな。


「あ? 待てよ。お前、その声……」

 お? どうやら、気付いたようだ。


 以前と比べてかなり痩せたけど声は殆ど変わってないもんな。


「そう、俺だよ」

 俺だぜ。


「!」

 雷人の動きは早かった。俺が俺だと気付いた瞬間には、その右手が動いていた。


 腰の入った右のストレート。以前よりも鋭い一撃だ。


 随分と真面目にボクシングに打ち込んでいたようだ。あの時、俺が喰らった、囓った程度のフックとは違う、堂に入った一撃だ。


 不良のくせに頑張ってるなぁ。


 だが。


 そう、だが、だ。


 俺もあの時とは同じじゃないんだぜ。


 俺は飛んできた右ストレートを見る。そして、その手首を掴み、飛ぶ。飛び上がり、足を回し、腕を絡め取る。回した足をヤツの首にかけ、そのまま引き倒す。


「ぐおぉぉっ!」

 ヤツが情けない声で悲鳴を上げる。


 腕を決めているからな、痛いだろう。だが、これでも手加減したんだぜ。ホント、俺がもうちょっと力を入れて倒していたら、靱帯が大変なことになっていたんだぜ。


「離せ、離しやがれ!」

 俺がさ、怪我しないように気を使っていることに気付いて欲しいなぁ。


「まぁまぁ、数少ない顔見知りじゃないか。仲良くしようぜ」

「だ、誰が。このデブイチが、がががあぁぁひぃぃ」

 俺が腕を決めた足を軽く持ち上げると、ヤツは泣きそうな声で悲鳴を上げていた。

「今の俺はデブイチって呼ばれるほど太ってないと思うけどなぁ」

「痛ぇ、痛ぇ。分かったから、分かったから離せ、離せ!」

「離して欲しがっているヤツの態度じゃないよなぁ」


 まったくけんかっ早いヤツには困ったものだ。まぁ、いつまでもコイツの腕を決めているのも疲れるし離してやるか。

 地面を転がって、せっかくの新品のブレザーを汚すのも嫌だしな。


「他の二人はどうしたんだよ」

「いててて、それをお前が言うのかよ。お前のせえぇで、俺は!」

 雷人が俺を睨んでいる。


「なんだ、仲間外れにされたのか」

「あーんだと!?」


 もしかして、あの時、コンビニで俺に負けたのが原因か? それで見限られたのか?


 ザマァだな。


 俺をいじめていたんだからな。いんがおーほーってヤツだぜ。


「まぁ、仲良く入学式が始まるまで待とうぜ」

「こ、この。調子に乗りやがって……」

「のってねぇよ」

 思わず肩を竦める。


 さっきのやり取りも楽勝に見えたが、実際はそうでもない。俺は、やっと体を鍛え始めたところだ。この一年近く、脂肪を落とすための走り込みと柔軟しか行っていない。体は思った通りに動くようになったが、力が無い。筋肉が足りない! 正直、非力だ。

 さっきのだって、飛び上がった力と回転する力を足して何とかしただけだ。


 まぁ、力が足りない分は、俺の知識と経験、技術で何とかすれば良い。


 それだけだ。


 というわけで。


「雷人、同じ高校になったんだから、仲良くしようぜ」

 俺はニヤリと笑う。

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