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グラップルファンタジー  作者: 無為無策の雪ノ葉


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43 くろれき!

 学生服の少年が木刀を構える。


 いや、ホント、誰だよ。


「どちらさんで?」

 とりあえず話しかけてみる。

「お前たち悪を裁くものだ」

 少年の言葉は驚きに満ちあふれるものだった!


 って、いやいや、悪って何だよ、悪って。それに裁く? 裁くだと!


「裁くのは俺だ!」

 そうだ。そこは訂正しなければならない。

「思い上がった悪に身の程を教えるのも使命か……」

 だが木刀を持った学生服の少年は俺を無視してそんなことを言っている。


「使命って何だよ! 使命って! 酔ってるのかよ! 自分に酔ってるのか! 言ってて恥ずかしくないのか!」

「う、うるさい。悪のくせに!」

 学生服の少年が顔を真っ赤にして叫ぶ。これには反応するのか。どうやら現実に戻ってきたようだ。


「それにさ、今時、黒の学ランって暑くないのかよ!」

「う、うるさい! 学校指定だから仕方ないだろ! それにお前らの仲間にもコートを着た暑そうなのがいるじゃないか!」

 あ、学校指定なんだ。最近は随分と暑くなってきてるのに、それはちょっとかわいそうだなぁ。


 ……。


 あー、それと、こんな暑いのにロングコートを着ている馬鹿は俺の仲間じゃありません。敵です。いやいや、そうだよ。ここに集まっている連中は、全部、敵じゃん! 何で仲間みたいな扱いになってるんだよ!


 俺なんてジャージ姿、普通の格好、何処からどう見ても一般人じゃん!


「あの制服、市内の進学校の制服だぜ」

 何故かドレッドヘアーが教えてくれる。

「へー、そうなんだ。大変だなぁ」

 だから、暑くても仕方なく着ているのかぁ。

「お前たち、馬鹿にして、もう許さないぞ! 裁く!」

 学生服の少年が動く――って、ドレッドヘアーが普通に話しかけてくるから、完全に俺も仲間だと思われているじゃないか!


 学生服の少年が木刀を振り上げ、そのまま俺の方へと踏み込む。早いッ!


 って、まずは俺かよ! 確かに俺が一番近いけどさ。


 俺は振り下ろされた木刀をギリギリで躱す。動きが速くて躱すのがやっとだ。クソッ、この学ラン、言動はおかしいのに意外とやるぞ。


「な! 躱しただと!」

 学生服の少年が動く。躱されたと判断するや、すぐに後方へと飛び、こちらとの距離を取っていた。判断が早い! これでは反撃できない――って、反撃して良いのか? いや、まずは大人しくなって貰おう。この学ランは俺を敵認定しているみたいだし、まずは話を聞いて貰う体勢を作るところからだな。


 俺は後方へと飛び退いた学生服の少年へ間合いを詰めるように踏み込む。学生服の少年がとっさに体勢を整え木刀を振り下ろす。相手の素早い全力の一撃。


 だがッ!


 見えているんだよッ!


 俺は木刀を躱し、そのまま間合いを詰める。飛び退き、体勢を立て直してすぐだ――今なら、この学ランは、逃げることが! 避けることが出来ないはずだッ!


 俺はそのまま拳を握り――


 !!


 俺は振り抜こうとした手を止め、とっさに両手を交差させる。


 学生服の少年が振り下ろしたはずの木刀が軌道を変える。下から上に。んだとッ!?


 全力の振り下ろしだったよな?


 どんな馬鹿力だったら、全力で振り下ろした一撃の軌道を変えて振り上げることが出来るんだッ!


 コイツっ!


 交差した両手に衝撃が走る。


 痛ぇッ! 凄く痛い!


 当たり前だ。硬い木刀の一撃だぞ。痛いに決まっている。


 だが。


 だが、だ。


 木刀で助かった。これが真剣だったら俺は切られていた。そこだけは助かった。


「防いだ、だと!」

 学生服の少年が驚いている。こっちの方が驚いたよッ!


 俺はそのまま学生服の少年を蹴る。だが、その蹴りが木刀によって打ち払われる。


 がッ!


 引き戻し――動きが早ぇぇ。こいつ、木刀を手足みたいに動かしやがる。


「な! 数を減らすために一番弱そうなところから狙ったのに! 下っ端でもこの強さだと言うのか!」

「誰が下っ端だッ! 誰が!」

「ここが踏ん張りどころ! 背水の陣だ! 奥の手を使う! 頼むッ!」

 学生服の少年が叫ぶ。頼むって何をだ? 勘弁してくれってことか?


 だが、それは違っていた。


「優ちゃん、これ!」

 謎の声とともに学生服の少年の奥から何かが飛んでくる。それは木刀だった。仲間が居ただと!? 座席に隠れていて姿は見えないが、仲間で間違いないはずだ。


 学生服の少年が空いていた手に新しい木刀を握る。


 ……二刀流。


 手数が二倍になって有利になると考えるヤツもいるが、それは違う。両手で持つのと片手で持つのでは力の入り方が変わってくる。どうしても一撃は弱くなる。そして、人は二つのことを同時に判断して動かせるほど器用に出来ていない。出来て、せいぜいが片方を盾代わりに使うくらいだろう。

 二本もって二倍だから強い。そんなのは素人考えだ。


 ……。


 いや、待て。


 この学ラン、全力で振り下ろした一撃の軌道を無理矢理変えるみたいな無茶をやったよな? 外見からそうは見えないが、そんなことが可能なほどの馬鹿力だってことか?


 まさか、二本の木刀を普通に操ることが出来るのか?


「これが本気。お前たち悪を滅ぼす力だ! 一瞬で終わらせる!」


 いや、よく考えろ。それなら、だ。何故、最初から二刀流じゃなかったんだ? これはコイツにとってかなり負担がかかる戦い方だから、だろう。


 とりあえず、だ。


「お店の中で暴れるのが正義かよ。お店に迷惑がかからないように大人しくして貰うぜ」

 これだな。


「え?」

 俺の言葉を聞いた学生服の少年は、ちょっと驚いた顔をしていた。


 ん?


「た、確かに。ここでは迷惑がかかる。外に出よう」


 学生服の少年が構えを解き、階段の方へと歩いて行く。


 あら? 意外と素直だ。


 よし、決着は外で、だな。


 俺は学生服の少年の後を追う。


 そして、そのまま路地裏に。


「ここなら迷惑がかからない! 悪を倒してやる!」

「ああ。ここなら……って、ちょっと待て、ちょっと待て!」


 違う、だろ!


 俺は慌ててハンバーガーショップの方へと戻る。学生服の少年が何かを叫んでいるが、無視だ、無視。


 ……。


 やられた。


 そこには誰もいなかった。


 居なくなっていた。


 ハンバーガーショップの二階を占拠していた連中の姿が消えていた。

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