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グラップルファンタジー  作者: 無為無策の雪ノ葉


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44/66

yarouze!

「バンド、やろーぜー」

 カオルが皆に呼びかける。だが、皆は冷めた顔でカオルを一瞥し、そのまま楽器の手入れに戻る。


「あれ? あれー?」

「もうやってる」

 ギターをいじっていたのっぽが答える。

「いつでも万全」

 ドラムの調整をしていた小太りが答える。


「いや、そこさー、もうちょっとリアクションしてくれてもー」

「こっちのチューニングは終わった」

「常に万全」

 のっぽと小太りの反応は鈍い。


「でもさ、栗田も長成もさー、四面楚歌を抜けて良かったの?」

「構わない。もともと音楽のためにやっていたことだ。あちらはオマケでしかない」

 のっぽの栗田が髪を掻き上げる。

「ない」

 小太りの長成が返事代わりにドラムを叩く。


 二人の反応を見たカオルが頷き、笑う。


「目指せ、めじゃーでびゅーだぜー」

 カオルがベースを鳴らし、歌う。


 カオルたちの演奏が広がる。いつもの練習だ。


 だが、その途中でカオルの歌が止まる。


「うーん、やっぱさー、もう一人必要じゃないかなー」

「不要だ」

「そう?」

 二人の反応は鈍い。


「いや、ベースもボーカルも一人でやるのはキツいって。頭がまわんなくなるよ」

「それは鍛錬が足りないだけだ」

「そう」

 二人の反応は鈍い。


「もう、アテはあるんだよー」

「また馬鹿なことを始めるのか。お前の思いつきはどれも突飛すぎる」

「そうそう」

 二人の反応は鈍い。


 それでもカオルは動く。


 後日、そのアテとやらを皆の前に連れてくる。


「じゃじゃーん。登場です」

「また馬鹿を始めたのか」

「準備中」

 二人の反応は鈍い。


 そして、現れたのは……。


「えーっと、カオル先輩、用って何でしょうか。俺、これでも忙しいんですよ」

 何処にでもいるような冴えないヤツだった。カオルと同じブレザーを着ている。どうもカオルと同じ湖桜高校(クラウン)の生徒のようだ。


「たいっちゃんです」

「誰だ。その輝きを感じることが出来ない一般人は」

「輝かない」

 二人の反応は鈍い。


「えー。たいっちゃんは同じ音楽の趣味を持った同士だからねー」

「いや、あのー、カオル先輩、話が読めないんですが……」

 たいっちゃんと呼ばれた一般人Aは混乱している。


「声は普通だ。歌には期待できそうにない。ベースをやらせるのか?」

「そーそー。たいっちゃんにはベースをやってもらうんだよ。こう見えてもたいっちゃんは器用だからね。多分、すぐにものになるぜー」

 そのカオルの言葉を聞いたたいっちゃんはニヤリと不敵に笑う、笑っている。

「なるほどー。理解したぜ。それなら俺に任せな!」

 何だか調子の良いことを言い始めている!


「ほい、たいっちゃん、これがベース。扱ったことは?」

「あるんだなー、これが。昔にさ、海外に武者修行してた時に、ちょっと教えて貰ったことがあるからね。任せてくれよ」

 ベースを受け取り、指を這わす。その姿は様になっている!


「へー、たいっちゃん海外に行ったことがあるんだ」

「いや、ないけど」


 その場で転けそうになったカオルが何とか踏ん張り、耐え、小さく苦笑しながらピックを投げ渡す。


 たいっちゃんはピックを受け取り、弦を弾く。何だか殴りたくなるくらいの得意気な顔だ。


「ほう。少しは期待できそうだ」

「そう?」

 二人はたいっちゃんを見守っている。


 そして、たいっちゃんがピックを持ち、指を動かす。


 ……。


 ……。


 ……。


「あ、あれ?」

 音が外れている。


 ベースの調子が悪い訳じゃない。指が追いついていない。動かし方を知っているのに、それを再現出来ないような、そんなもどかしい動きをしている。


「いや、俺、指弾きの方が得意だから、それでかなー」

 たいっちゃんは困っている。


 ギターを持ったのっぽの栗田がたいっちゃんのもとまで歩き、その肩に手をのせる。

「せめて後一年は練習してから参加してくれ」

「不完全」

 のっぽと小太りは苦笑している。


 カオルも困ったような顔をしている。

「あー、うん。即戦力は難しいよね。うん、もしかしたらと思ったけど、そう上手くいかないよねー。変な癖が付いているみたいだし、直すとなると難しいかなー」

「いや、え? 嘘だろ……。ここから、俺のバンド編が始まるんじゃないのか? いやいや、これは間違いだって」

「おい、何か言い始めたぞ」

「病気?」

「あー、これが、たいっちゃんだから。はー、しかし、そうそう上手くはいかないかー。仕方ないよね」

 カオルは肩を竦めている。


「お、俺の超絶テクがあぁぁぁ!」

 たいっちゃんは叫んでいた。


 彼は外見からは想像出来ないほどの個性を持っているようだ!

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