36 てつはう!
「俺は、俺は倒れねぇ! この! シャークレイドの特攻服をよぉ! 地面につけるワケにはいかねぇんだよ!」
特攻服野郎が叫んでいる。まだまだ元気だ。って、いやいや、お前、最初に倒れてたじゃん。お前の特攻服、すでに地に着いているよ!
……。
ま、まぁ、この特攻服野郎が正面の注意を引いている間に校舎の裏へまわろう。
そろりそろりと人だかりを抜け、校舎裏へ回る。よし、このまま校舎内へ入るぞ。ま、俺は賢いので、これくらい当然だな。
って、ん?
校舎の裏口にはすでに先客がいた。渡り廊下の壁に隠れた雷人、何処かで見かけた覚えのある用心棒ぽいガタイの良いセンパイ、寝転がっているヤツら……。
あー、うん。みんな考えることは一緒だったかぁ。
そして、裏口の前に立っている生徒――そいつが叫ぶ。
「お前ら馬鹿な不良の考えるコトなんてお見通しなんだよ! 誘導されたとも気付かなかっただろ、バーカ」
最近、暑くなってきたというのにブレザーの上から白衣を着込んだ野郎だ。そして、コイツ、肩からアサルトライフルをぶら下げていた。いやいや、まさか本物じゃないよな?
もしかして、この寝転んでいるヤツらはこの白衣の馬鹿にやられたのか?
俺は壁に隠れた雷人のもとへ走る。
「はぁい、上路ぃ!」
「あ? 何、のんきなことを言ってやがる」
「んだよ、で、雷人、どうなってんの?」
「みれば分かるだろ。あの頭のおかしいのが邪魔して中に入れねぇ」
うん。確かに頭がおかしいな。こんな暑いのに白衣なんて馬鹿じゃん。
「どうした、どうした。馬鹿は隠れているだけか!」
白衣の馬鹿がこちらを挑発している。やっすい挑発だなぁ。
「んがーっ! 馬鹿にするな!」
だが、それに反応した馬鹿がいた。用心棒ぽいガタイの良いセンパイ君だ。あー、確か二年の……誰だったかな、まぁ、誰でもいいや。
そのセンパイが白衣野郎を目掛けて突っ込む。
「ひひひひ、バーカ」
白衣が頭の上にのせていたゴーグルをおろし、アサルトライフルを構え――そして引き金を引く。トルルルルという小気味よい電動音が響く。電動ガンか。そりゃまぁ、本物じゃあないよな。
ガタイの良いセンパイが丸太のような両腕を顔の前へと、まるでカーテンのように構え、守り、突っ込む。
「そんなもんで防げるかよ、バーカ」
センパイの丸太のカーテンの上にBB弾が雨あられと降り注ぐ。防がれてもお構いなしだ。
センパイの足が止まる。
「あが、あが」
顔と体を守っていた腕がだらんと垂れ下がる。そこにさらにBB弾がたたき込まれる。
センパイが倒れる。おいおい、なかなかの威力じゃないか。普通の電動ガンじゃないよな? もしかして改造しているのか?
「おーい、そこの隠れているヤツ。弾切れを狙ってるんだろ? 馬鹿のくせにこざかしいよなー。でも、無駄だよ。コイツのマガジンは三百発! しかも予備のマガジンはまだまだあるからさー。ひひひ、思い知ったかバーカ。お前ら喧嘩自慢もこの程度なんだよ!」
白衣が得意気に笑っている。
はー、やれやれだぜ。
「おーい、そこのー。エアガンは人に向けて撃つなって説明書に書いてあるだろ。読まなかったのかよ」
「ひひ、ひ? あ? 誰だ? 今、言ったのは誰だ!」
誰? 俺だよ、俺。
「人に向けて撃って、目にでも入ったら危ないだろーが」
「誰だ! そんなことを言っていたらサバゲーなんて出来ないだろ。これだから不良の馬鹿は!」
馬鹿馬鹿うるさい白衣野郎だ。湖桜高校に通っている時点で同じ馬鹿だって分からないのかねぇ。
たく、さ。こっちはサバイバルゲームをやる装備じゃないのに酷くないか? せめて、ゴーグルだけでも欲しいよな。
「それなら、こっちにゴーグルくらい貸してくれよ」
「馬鹿が! 誰が不良野郎に貸すか! お前らに貸しても返ってこない!」
白衣野郎が叫んでいる。
となると、ここは確実な方法をとるべきだな。
「よし、雷人。お前が先行しろ。俺はその後ろを行くからさ。これで確実に突破出来るぜ」
「んだと!? ふざけんな! お前が盾になれ」
「あー、番長さんよー、ここは男気見せようや」
「ざけんな!」
雷人が俺の提案を蹴る。うーん、確実な方法なのになぁ。
仕方ない。
「んだよ、雷人、情けねぇなぁ。じゃあ、俺が先行するから後に続けよ」
俺は動く。
「あ、おい。クソ、バカイチがよぉ!」
駆ける。
「あ、ひ? また馬鹿な不良が出てきた。血祭りだ」
俺はヤツの手元を――銃口を見る。どれだけ改造してあるって言っても、所詮、電動ガンだ。実銃じゃあない。
銃口から射線を確認し、当たらないように走る。銃口で射角は分かるからな。こんな適当に狙っているような素人に当たる俺じゃあない。
線を――ラインを、避ける。
見てれば大丈夫なんだよ!
パチン。
っと、ちょっとブレザーの袖口を掠めたが、問題無い。
「え? あ? はや、早い」
俺は白衣野郎の元まで一気に詰め寄る。そして、そのまま白衣野郎が手に持っているアサルトライフルを蹴り上げる。
その蹴り足を白衣野郎の首元まで伸ばし、そこで止める。
「はい。おしまいだーぜー」
白衣野郎が驚いた顔のまま後ずさりし、そのまま尻餅をつく。まぁ、道具に頼っているヤツだから、こんなもんだよな。
「あ、あ、ひ、あ」
「その危険なものは回収させてもらいますよ」
俺は白衣野郎から電動式のアサルトライフルを没収するため、肩紐を外させる。そして、その電動ガンを受け取る。
!
と、その電動ガンを渡そうとした白衣野郎の白衣の袖の下から小さな銃が飛び出す。え?
白衣野郎が小さな銃の引き金を引く。
「バーカ。油断したな。バーカ、所詮、不良なんてこんな……、こんな……、え?」
俺はとっさに左の手のひらをかざし、弾を受けていた。痛ぇ、痛ぇぞ、こんちきしょー。
くそ、BB弾で良かったぜ。これが本物だったら、実弾だったらやられていた。油断しすぎた。いや、だって、普通の高校生が隠し武器を持つとか思わないじゃないか。
「えーっと、分かってるんだよな?」
「いや、あの、ちょっとした出来心というか……」
「うるせぇ、眠ってろ」
白衣野郎に拳を叩き落とす。
あー、くそ。やられた。左手が痺れる。
「おい、バカイチ。お前……」
雷人がやってくる。
はぁ、ホントになぁ。
「雷人、お前も番長なら、この程度で立ち止まるなよ。こんなん、玩具じゃないか」
「くっ、俺は!」
雷人は何か言おうとした言葉を飲み込み、唇を噛みしめている。
「あー、とにかく校舎の中に入ろうぜ。それから表に回って、連中をとっ捕まえて、それで終わりだ。この程度、湖桜高校なら良くあることだろ?」
「よくはねぇよ」
ま、ちゃちゃっと片付けようぜ。




