35 はんこう!
次の日、湖桜高校に着くと謎の人だかりが出来ていた。生徒の山だ。
「うーん、どったの?」
とりあえず生徒の一人を掴まえて聞いてみる。
「あ?」
「誰だよ」
話しかけただけで睨まれた。さすが湖桜高校の生徒、話にならないぜ!
生徒の群れを掻き分け前に出る。そこにあったのは山積みの机だった。玄関の前にバリケードのように机が積み上げられていた。その机の山を遠目に、距離を取って人だかりが出来ている。近づくのを恐れているかのようだ。
「なぁ、これなんだ?」
とりあえず聞いてみる。
「あ?」
「知らねぇよ」
「知るかよ」
話しかけただけで睨まれた。さすがは湖桜高校だぜ。お話にならないぜ!
で、本当に何だろう、これ。
このままだと校舎に入れないんだが。コイツらも見てないで片付けろよな。
仕方ない。
動かすか。
俺は積み上げられた机の方へと向かう。すると、その俺の肩が掴まれた。
「おい!」
俺の肩を掴んだのは、さっき知らねぇと言っていたヤツだ。
「何だよ」
「あ? 親切で止めたんだよ。何で、俺らが遠巻きに見ているかわかんねぇのかよ」
ん? てっきり馬鹿だからかと思ったが、違うのか。
「んだよ、コレ!」
と、そんなやり取りをしている俺たちの横で馬鹿声を上げて叫んでいる馬鹿がいた。
えーっと、雷人の馬鹿と絡んでいた特攻服の馬鹿じゃないか。俺の席を乗っ取ろうとしたことは忘れないからな。俺が、俺の席を手に入れるためにどれだけ苦労したのか知らないだろう? もう許さないからな。
「んだよ、誰も動かねぇのかよ。ちっ、仕方ねぇ。ならよぉ! この俺、シャークレイドの一番槍、倉吉兼次が行くぜ!」
特攻服の馬鹿がバリケードのように積み上げられた机に突っ込む。
「馬鹿だ」
「馬鹿かよ!」
うん、馬鹿だな。
馬鹿は考え無しに突っ込むよなぁ。で、何が起こるんだ?
次の瞬間、その特攻服野郎を目掛けて机が飛んできた。
へ?
え?
「が、ふ」
特攻服野郎に飛んできた机が直撃する。倒れる。おいおい、マジかよ。死んだな。
「んだ、こらぁ!」
机が直撃した特攻服野郎が血を流しながら立ち上がる。
「根性なめんな! 効くかよ、ボケがよぉ!」
ボケって何だよ。いやいや、根性で何とかなるものじゃないだろ。死ぬぞ。
その特攻服野郎を目掛けて次の机が飛んでくる。特攻服野郎はとっさに両手で体を守る。
「が、ふざけんな! 殺す気かよ!」
机の直撃を受けてよろめきながら叫んでいる。まだまだ元気だなぁ。しかし、これは危ない。
つーか、机を投げるとかどんだけ怪力なんだよ。つーか、これは何なんだ? 誰が、こんな数の机を集めたんだ? まぁ、机の数に限りはあるだろうから、この特攻服野郎みたいな馬鹿が何人か突っ込めば突破出来るだろうな。けど、だけどなぁ。
と、俺がそんなことを考えていると机バリケードの山の間から一人の生徒が現れた。手には拡声器を持っている。
ん?
『我々は!』
よく見れば机の向こう側に何人か生徒の姿が見えるな。
『お前たち不良を駆逐する!』
拡声器を持って叫んでいる、あの生徒、見覚えがあるな。三年の眼鏡先輩じゃないか。何だか薬でも極めてそうな目で叫んでいるけど、大丈夫か?
いや、真面目に大丈夫か? これ警察沙汰になるような大事だろ? 退学じゃあ済まないぞ。
この机の山。別に昨日が休みだったワケでもないのに、これだけ集めるなんて頑張ったな。全学級の机をかき集めたんじゃないか? 夜の間に黙々と頑張っていたんだろうけどさ、訳の分からない頑張りだよなぁ。
つーか、よく宿直の教師に見つからなかったな。
って、そうだよ。教師は何をやってるんだよ。放置か?
……。
よく見ればバリケードの向こう側に教師の姿があった。
……。
教師もそっち側かよ。
ばっかじゃねえの。この学校、馬鹿じゃねえの。いや、まぁ、湖桜高校らしいって言えばらしいけどさ。
しかし、これはやり過ぎだろ。
まだ早朝で、ここが湖桜高校だから良いけどさ。そのうち騒ぎを聞きつけた人によって大騒ぎになるぞ。
……なるか?
何だか湖桜高校のいつものことだとスルーされそうな気がする。湖桜高校だからなぁ。
しかし、眼鏡先輩は何がやりたいのかねぇ。不良を駆逐するって、目的が分からないな。
『僕たちは、お前たち不良に虐げられるだけの存在じゃない!』
うん、言ってることが無茶苦茶だ。
酔っ払いでも、もう少しマシなことを喋るぞ。
しゃーねーなー。
裏から回り込もう。別に正面玄関にこだわる必要はないからな。湖桜高校の生徒は馬鹿だから正面から何とかしないとって思い込んでいるようだが、俺は違うぜ。
普通に裏から入れば良いじゃん。
最悪、窓をたたき割って入っても良い。まぁ、さすがにそれは弁償させられそうだから、最後の手段だけどさ。
しかしまぁ、この湖桜高校は俺を飽きさせない学校だよ、ホント。




