33 しんぶん!
特攻服野郎は特攻服のまま授業を受けていた。そのままの格好かよ! おいおい、何で誰もおかしいって思わないんだ。せめて教師は注意するべきだろう。
いや、そもそも何で、この特攻服野郎は真面目に授業を受けているんだ。馬鹿なのか? いや、真面目なのか?
もう、これ、分からないな。
そして、放課後。俺は動くことにする。
まずはA組の教室の前に移動する。そして、人を探す。探しているのは江波だ。
あー、A組には女子がいるんだなぁ。何でC組には居ないんだよ。おかしくね? そんなことを思いながら探す。
……。
と、居たな。江波はすぐに見つかる。
「おーい、江波ー」
相変わらずのちびっ子だ。何でこんな喧嘩反対って感じの弱そうでガリ勉君ぽい容姿なのに湖桜高校に入ったのだろうか。まぁ、見た目はこれでも湖桜高校に入るくらいだからお馬鹿なんだろうなぁ。
「あ、有馬君。どうしたの?」
こちらへと駆け寄ってくる江波を見ながら、そんな失礼なことを考えていた。
「あー、えーっと江波に聞きたいことがあったんだよ」
「へー、何?」
ひょろっとした江波は首を傾げている。中学生にしか見えないな。
「あー、いや、簡単なことだけど、図書館の場所を知らないか? 出来れば古い新聞が保管されているような、さ」
「え?」
江波が目を大きく見開き、驚きの顔でこちらを見ている。
「えって、何だよ」
「お、驚いて……」
「はぁ、で、場所は分かるのかよ」
「いや、図書館の場所は分かるけど、何で図書館に向かうの? いや、それよりも良く図書館って単語を知っていたよね」
江波はそんなことを言っている。江波からの俺の評価が凄く低い気がする。図書館を知ってることで驚かれるとか、とてもとても馬鹿にされちゃあいないかい。
「驚くようなことか?」
「驚くよ! だって、ここ、馬鹿高で有名な湖桜高校だよ! 図書館に通うなんてありえないよ!」
江波がここを湖桜高校って呼んでいる。江波もかなり湖桜高校に染まったよなぁ。うんうん。
って、そうじゃない。
「あー、えーっと、勉強しに行くワケじゃなくて、涼みに、だよ。最近、暑くなってきたろ? ついでに昔の新聞でも読みたいなぁってさ」
「あー、良かった。そっかー、心配したよ」
おいおい、そこは心配するところなのかよ。どんだけ湖桜高校が馬鹿だと思ってるんだよ。いや、確かに馬鹿だけどさ。
「はいはい。それで場所は?」
「古い新聞が読みたいんだよね? もしかして、あの四コマ? 今、面白いもんね。昔のが読みたくなるのも分かるよー。でも、それなら単行本がおすすめだよ。あ、でも、単行本に収録されなかった、政治問題にギリギリまで突っ込んだあの回が、それだと新聞版の方がおすすめかなぁ。単行本だと描き直しされている部分も……」
「あー、えーっと、長くなる?」
突然、語り出した江波の言葉を無理矢理止める。
「あ、ごめんね。古い新聞を探しているのなら、あの図書館がおすすめかな」
「ふむふむ」
「場所は、ここから電車で……」
江波から道を聞く。近くはない。ここからだと二駅先だ。だが、情報を集めるためなら仕方ない。
「分かった。ありがとう」
「うん。今度、感想を聞かせてよ」
感想? 何の感想だ? って、さっき言っていた四コマか。
……。
ま、それも目を通しておくか。
俺は図書館を目指し、歩く。そう歩く。江波は電車で二駅と言っていたが、俺は歩く。少しでもお金を節約したいし、これもトレーニングだからな。
にしても、暑い。
選挙カーが走り待ってうるさいし、暑いし、ちょっとくらいは電車で楽しても良かったんじゃあなかろうかって気分になってくる。
そして、図書館に到着する。
ガラス張りのおしゃれな図書館だ。かなり大きい。いやー、これ、中、暑いんじゃないか?
……。
中は……涼しかった。寒いくらいだった。エアコンがガンガン効いているなぁ。涼むのには最高の場所だ。うん、税金の正しい使い方だな。
さて、と。
まずはどうする?
無料のパソコンコーナーもあるな。だが、インターネットで調べられるような情報は今更必要ない。当時の新聞を、記事を見よう。
俺は受付のところで座っているお姉さんに新聞がある場所を聞いてみることにした。
「すいません、古い新聞がある場所って何処ですか?」
「え!?」
受付のお姉さんが驚いた顔で俺を見ている。何だ?
「えーっと、何かありましたか?」
「いや、あの、ごめんなさい。普段見かけない学校の制服を見たから、つい……」
……。
このお姉さんは俺のブレザーを見て驚いた、と。どんだけ湖桜高校は馬鹿だって思われてるんだよ。湖桜高校でも図書館に通うヤツや勉強するヤツだっているだろうに、おかしくねぇか? 居るよな?
……。
俺の容姿か? 容姿が悪いのか? そんないかにも馬鹿です、みたいな顔はしていないつもりなんだけどなぁ。
「それで、その場所は?」
「ちょっと、この子を案内してきます。っと、案内するね」
お姉さんが案内してくれるようだ。わざわざ案内してくれるなんて親切だな。この人が受付から抜けても大丈夫なんて、大きな図書館だけあって働いている人の数が多いんだなぁ。
「君が探しているのは古い新聞だったよね。ここには二十年も前の新聞からあるんだよ。普通は二年で破棄が基本なんだけど、ローカル新聞でも五年ね。保存していても電子化……電子化って分かる? パソコンに取り込むんだけど、ここは普通に紙の状態で保管しているの。貴重なものだから貸し出しは出来ないけど、閲覧は自由だから」
お姉さんの案内で新聞が保管されている部屋へ。
そこには無数のバインダーが並んでいた。背表紙には新聞の名前と年数が記載されている。
……。
分かっていたけど凄い数だ。あるのは地元のローカル新聞ばかり、か。まぁ、数が数だもんな。全国版の新聞まで保管するのは大変か。
だが、逆にローカル新聞の方が詳しい情報が載っているかもしれない。
俺は案内してくれたお姉さんにお礼を言い、少し大きめのバインダーを取る。まずは二十年前からだ。
中にはクリアファイルに入った新聞が挟んである。
あれは何月何日だったかな?
とりあえず適当に探していこう。




