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グラップルファンタジー  作者: 無為無策の雪ノ葉


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31 とっこう!

『ニッタ、ニッタヤスヒコをお願いします。あなたの町を良くするのは、この私! ニッタヤスヒコの新しい力と活力です!』

 選挙カーが騒がしい声で放送を垂れ流しながら俺の横を走り抜けていく。


 選挙、か。あまり興味が無いから何の選挙か分からないが、忙しいことだ。つーか、そんな時期なんだな。


『あなたの町のニッタヤスヒコです! どうぞ、よろしくお願いします』


 ……。


 ヤスヒコ、か。何だろうな。昔を――前世を思い出す名前だ。安彦……そう、ヤスだ。


 ……ヤス、か。


 前世で俺をトラックでひき殺し――俺の命を奪った張本人だ。そして、俺が目をかけていた、俺の舎弟だ。何故、その安彦(ヤス)が俺を狙ったのか? 分からない。


 前世の俺。前世のこと。


 俺は、そこから逃げていた。目を逸らしていた。安彦(ヤス)があれからどうなったのか、俺の知り合いはどうなったのか――俺は考えないようにしていた。


 俺は真実を、結果を知るのが怖かったのかもしれない。


 あれは全て前世の出来事だ。生まれ変わった、今の俺には関係の無いことだ。だから、考えないようにしていた。


 だが、前世の俺を知っているヤツが現れた。後継者を名乗るヤツも現れた。


 これは逃げるなってコトなのかもしれないなぁ。


 はぁ。


 今更だなぁ。


 大きなため息しか出てこない。まぁ、ちょっと落ち着いたら考えよう。調べよう。結末を知っておくのも悪くないかもしれない。


 俺はそんなことを考えながら、そのまま学校へと向かう。そして、教室へ。


 ……ん?


 俺の席に誰かが座っている。俺が色々と頼み込んで、それこそ物理的なお願いまで行って、やっと交換して貰った一番後ろの席に誰かが座っている。誰だよ。


 しかもそいつの格好がおかしい。


 特攻服だ。何だか良く分からない漢字が書かれた刺繍入りの特攻服だ。何処の族か知らないが特攻服姿で学校に来るとかおかしいだろ。


「おーい」

 俺はとりあえず特攻服野郎に声をかけてみる。この特攻服野郎、机の上に足をのっけて随分と偉そうだ。

「あ?」

 特攻服野郎がこちらに気付き、首の後ろに手を組んだまま振り返る。


「あんだ? 何の用だ?」

 特攻服野郎は俺を睨んでいる。はぁ、何者だよ。

「誰だよ」

「あ? 俺を知らないのかよ。最強チーム、シャークレイドの特攻隊、その一番槍の俺をよ!」

 最強チームとか、一番槍とか、コイツはいつの時代に生きているんだよ。

「シラネ」

「んだと。知らないのかよ。くそ、事故って入院している間に出遅れたぜ。俺より有名になっているヤツがいるって聞いたしよー! この学校を速攻制覇して伝説になるつもりだったのに、隊長に合わす顔がねぇぜ」

 何だ、コイツ。


「あー、そのー、悪いけどさ、そこ、俺の席だから退()いてくんない?」

「あ? ああ。そういうことかよ。俺は後ろの席がお気に入りだからよ。変わっといてくれ」

 特攻服野郎は俺の机の上に足をのせ、鼻歌でも歌いそうな様子でくつろいでいる。俺の席から退けてくれる様子は無い。

 こ、この野郎。その席は、俺が苦労して変わって貰った場所だぞ。んだよ。狙うなら他を狙いやがれ。そう、例えば窓際の一番後ろとか、な!


 その窓際の一番後ろの席を見る。そこには、まだ誰もいない。あいつ、遅刻か? それとも、またサボりか?


 とにかく力尽くで退かすか。俺は拳を握りポキポキと関節を鳴らす。さあて、お仕置きだぜ。


 と、そこで廊下の方が騒がしくなる。


 ん?


 気になって廊下に出てみれば、そこに居たのは雷人だった。噂をすればなんとやらだな。


 雷人は他の一年に囲まれている。何だ? 何が起こっているんだ?


「上路さん、聞きましたよ。ついに三年のトップを倒したとか」

「番長を倒すとか、さすが上路さんっす!」


 ……。


 あー、うん。そっかー。


「だから、説明しているだろうがよ! 俺はアラタさんを倒してねぇ。倒したのは俺じゃねぇ!」

「またまた謙遜しないでくださいよ!」

「そうっすよ、上路さんじゃなかったら、誰が出来るんですか!」

「伝説のはじまりっすよ!」

「すっげ、すっげ」


 おー、おー、雷人のヤツ、すげぇ人気だな。


「!」

 と、その雷人と目が合う。


 あ、まずッ!


「おい! クソイチ!」

 面倒に巻き込まれる前に逃げるか!?


「クソイチ、こらッ! 逃げんな!」

 雷人が叫ぶ。

「あーんだよ。雷人ばんちょうー、何の用っすかー」

「おい、コラっ! お前もあそこに居ただろうが、コイツらに説明してやれよ。コイツら、俺の話を信じねぇんだよ」

 雷人が困ったような顔で俺を見ている。本当に困っているようだ。何だ、俺の手柄を奪わないのか。


 ちっ、しゃーねーなー。


「おい、聞け!」

 俺が叫ぶと雷人の取り巻きたちがこちらへと振り返る。その目は胡散臭いものでも見るかのように冷たい。何だろう、すげぇ、馬鹿にされてるような視線を感じるんだが……。


「あ? 何だ?」

「上路さんの知り合いだからってデカい顔すんなよな」

 取り巻き(アフォ)(バカ)が俺を睨んでくる。はぁ、何、その態度。どっちが上か体に教え込んだ方が良いのか? 早いのか?


「ニッタを倒したのは、そこの雷人じゃねぇ。この俺だ! 俺様だぜ!」

 俺の宣言に場がシーンと静まりかえる。


 どうやら驚いて声も出ないようだな。


 ……。


 そして、その沈黙が笑いによって破られる。


「あ? マジかよ」

「はーははは! 笑わせるぜ」

「つーか、ニッタって誰だよ。そんなしらねぇヤツを倒して偉そうにするなよな」

 こ、コイツら……。


 ニッタが三年のトップだって知らないのか?


 俺は雷人の方を見る。雷人は大きなため息を吐き出しながら肩を竦めていた。


 おい、コラ、お前の取り巻きだろうが。ちゃんと教育しやがれ。なめられてるんじゃあないか? くそ、俺を知らないとか、コイツらA組の連中か? コイツら全員倒して力関係を分からせた方が良いのか!?


「おい」

 と、その俺の背後から声がかかる。


 俺は振り返る。そこに立っていたのはさっきの特攻服野郎だった。


「お前が番長をやったヤツか」

「おう」

 俺は頷く。分かってくれるか。ちゃーんと俺の実力を見ているヤツもいるってコトだな。特攻服を着ているくらいだからな、俺の秘められた力が分かるくらい喧嘩なれしているのだろう。


 うんうん。


「そう、俺が……」

「ちょっと退けてくれ」

 特攻服野郎が俺を押しのけて雷人の方へ進む。


 ん?


「お前が噂の一年かよ。俺が伝説を作るはずだったのによぉ! クソが。いや、まだだ。俺がお前を倒して証明してやるぜ」


 ん?


「んだと!?」

「はっ、群れるような雑魚か!?」

 特攻服野郎と雷人がにらみ合っている。


 んん?


「いいぜ、俺が一人で相手してやる」

 雷人が拳を握り、構える。


 んんん?


「へ、ボクサーかよ」

 特攻服野郎が馬鹿にしたような笑みを浮かべている。


 んんんん?


「変な格好をした時代遅れ野郎が」

 雷人がステップを刻む。


 んんんんん?


 二人の喧嘩が始まる。


 いやいや、ちょっと待て、ちょっと待て。さっきの流れで何で雷人と特攻服野郎がやり始めるんだ?


 何で、俺が無視されてるんだ?


 おかしくない?

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