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グラップルファンタジー  作者: 無為無策の雪ノ葉


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31/66

29 いんねん!

 拳を前に出し、構える。


「!」

 洗ったが鬼のような形相のまま飛んでくる。そう飛んできた。


 蹴りが飛ぶ。


「!」

 飛んできた蹴りに合わせて、こちらの蹴り足を合わせる。蹴りと蹴りがぶつかる。俺はそのまま軸を回し、蹴り上げる。


「!?」

 だがその足が掴まれる。相手の動きが速い。俺はとっさに伏せるように体を回す。


「!」

 体を回した上からお構いなく関節を極めようとしてくる。そのまま背筋を使い跳ね返す。


 両手を地面に突いて転がるように飛び距離を取る。


 拳、蹴り――打撃は危険だ。掴まれるのは不味い。


「!」

 洗ったが腰を低く落とし、こちらへと突っ込んでくる。俺は跳び箱を跳び越えるように洗ったの背に手をつけ乗り越える。だが、乗り越えようとした足を掴まれる。

 そのまま地面へと投げられ叩きつけられる。とっさに受け身を取るが衝撃を殺しきれない。

 そして、転がったこちらへ洗ったが馬乗りに――迫る拳。

「!!」

 とっさに弾く。


 マウントを取られたッ!!


 次の拳が迫る。弾く。殴られる。弾く。殴り返すが抑えこまれ、殴られる。防ぐ。不味い、不味い、不味くないか!?


「!!」

 次々と拳が飛んでくる。捌ききれない。防ぐ。防いだ上から拳が叩きつけられる。


 俺は足を持ち上げヤツの腰を浮かせる。そのまま足をねじ込み体を反らす。浮いた隙間から這い出る。


 こちらが抜け出さないようにヤツの手が伸びる。とっさにその手を掴み極める。だが、相手はその極めたはずの手をさらに突き出す。抜ける。極めたはずが極まっていない。逆にこちらを掴もうともう片方の手が伸びる。

「!」

 蹴り上げる。


 逃げる。


 距離を取る。


 転がるように飛び、そのまま飛び起きる。ヤツへと向き直る。


「先輩、散々殴ってくれましたね」

 鼻の片方を押さえ鼻血を飛ばす。はぁ、散々、好き放題に殴られたぜ。


「!」

 洗ったは動かずこちらを睨んでいる。


「はぁ」

 俺は大きくため息のように息を吐き出す。殴っても掴まれたら終わり、か。ならよー、掴まれるより早く殴れば良いよな。


 俺は腕に巻いていたパワーリストを外す。


「いいのか」

 洗ったは睨むような目のままこちらを見ている。俺はにらみ返す。

「何が?」

「それ、重りだろう? 軽くなって良いのか?」

 軽くなって良いか、だと? 良いに決まってる。決まってるんだよ。


 殴る。


 俺の拳が、こちらの腕を取ろうとしたヤツの手を抜ける。


 パシン。


 ヤツの顔に拳が当たる。早くなっている。俺の拳は確実に早くなっている。負荷がなくなったことで早くなっている。


 パシン。

 パシン。


 次々と拳が当たる。ヤツは俺の拳を掴むことが出来ない。


 当たる。

 当たる。


 ヤツが動く。


 こちらの拳を受けながら――喰らいながら殴りかかってくる。


 お構いなしかよッ! 不味いッ!


 拳が迫る。

 ヤツが狙っているのは俺の顎だ。俺は顎を引き、ヒットポイントをずらす。だが、まともに喰らう――喰らってしまう。


 俺の体が後ろに下がる。それだけの威力を持った一撃だった。


 ふぅ。

 俺は息を大きく吐き出し殴りかかる。


 パシン。


 ヤツの顔に拳がヒットする。だが、それだけだ。ヤツは俺の一撃を受け止め、それを無視し拳を突き出す。


 うごっ。


 ヤツの拳が俺の腹にめり込む。体が浮く。


 よろよろと後退する――してしまう。


「これで分かっただろう?」

「な、何がだ?」

「拳が軽いんだよねー」

 ヤツは――洗ったは元の調子に戻っている。


「もう終わりだよ」

「終わり?」

 ヤツはふざけたことを言っている。


「説明しないと駄目?」

 こちらを見て微笑んでいる。

「俺はまだ立っているのに随分と余裕だな」

「そりゃあねー。もう饅頭君の底が見えたからさー」

 ヤツは腕を首の後ろで組み口笛でも吹きそうな様子だ。


「へー。それは是非教えて欲しいね。俺の底を、さッ!」

 殴りかかる。その拳を途中で止め、足を動かす。蹴り上げる。拳はフェイントだ。その拳を見ているヤツには、この蹴りは避けられないはずだ。死角からの蹴り。


 ……。


 だが、俺の蹴りはヤツの手によって止められていた。


 なんだ、と!?


 死角からだぞ。見えていなかったはずだぞ。


「これが限界だよねー」

「そうかよッ!」

 俺は蹴り足を引こうとする。だが、動かない。掴まれている。そして、そのまま持ち上げられる。


「お、っとっとっと」

「おーっと、ゴメンねー」

 ヤツが俺の足を放す。


「饅頭君、君さ、まず、非力だよね」

「非力で悪かったな」

 まだ筋肉は鍛えているところだからな。俺の成長度はすぺさるなんだぜ。


「遠野虎一の技を知っているようだけどさー。練度が足りないよね。知ってるだけで自分のものになっていないんだからさ。狙いが見え見えだよ」

 駄目だしされる。


 おいおい、俺が駄目だしされているぞ。


「その重しを捨てたのは失敗だよね。重しで非力をカバーしてたのに、それを外してどうするのさー」

「その分、早くなったろーが」

「少しくらい早くなって、それが何? 痛くも痒くもないよ」

 洗ったは肩を竦めている。


「はいはい、そーですねー」

 教師かよ。先生かよ、コイツは。


「技の練度が足りないよね。それでは遠野虎一の後継者とは呼べないね」

 誰も呼んでくれなんて頼んでいないってぇの。


「そうかい、そうかい」

「背の高さはそこまで差がなくてもさ、腕の長さは違うからね。こっちの方が長い……その意味、分かるよね。筋肉の量も違う。技の練度もぜんぜん、もう結果は見えてるよね」

 見えてねぇよ。


 俺は大きくため息を吐き出し、後頭部を掻く。


「先輩、すごーく考えているんですねー」

「馬鹿にしてる?」

 してる。


 俺は腹の辺りで拳を交差させ大きく息を吸い込む。


 良いぜ。


 俺はここに喧嘩をするつもりでやって来た。


 だがッ!


 ここからはステージを一段階上げる。


 こっからは喧嘩じゃねぇ。


 本気を出すぜ。

 すでに本気だったが、ここからは本気の本気だぜッ!

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