表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
グラップルファンタジー  作者: 無為無策の雪ノ葉


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

26/66

24 しっかく!

「くくく、たいっちゃん、マジかよー」

「マジっすよ」

 俺は笑う。目の前のカオル先輩も笑っている。


 笑いながら拳が飛んでくる。


 早いッ!


 俺はとっさに腕を上げ、それを防ごうとする。すると、その拳が目の前で止まった。


「おーい、たいっちゃん、それは卑怯じゃんかよー」

 ん?


 俺はとっさに上げていた腕を見る。そして、その手に持っているものを見る。


 ……。


 CD。


 あ、借りたCDを持ったままだった。


 これかぁ。これだな。


「ああ、すいません。つい、うっかり」

 とりあえずCDは雷人の机の上にでも置いて、と。それにしても、素早い一撃だったな。とっさに腕を動かしたけどさ、逆に言えば、そんな反射のような動きでしか対応出来なかったってコトだからなぁ。キレた時の動きもそうだったけど、この先輩、恐ろしく早い。


 瞬発力がパネェ先輩だぜ。チャラい感じなのに油断ならない先輩だ。


 にしても、だ。


「先輩、いきなり殴りかかってくるとか卑怯ですよ。暴力、反対っすよ」

「あー、悪い、悪い。ちゃんと断ってから殴るよ。ってことでー、次な。殴るよー」

 言葉の後に拳が飛んでくる。


 早いッ!


 だから、早いってぇの!


 そこで俺は気付く。拳が早い理由――それは腕の力だけで殴っているからだ。腰を使っていない、技術もクソも無い、ただ振り回しているかのような一撃。


 俺はとっさに腕を上げ受ける――いや、受け止めきれない。


 重いッ!


 腰も入っていないような腕の力だけのへなちょこな拳が何でこんなに重いんだッ!


 俺はとっさに手首を捻り、回し、拳を受け流す。


「おっとっとっと、やるねー、たいっちゃん」

「やるねーじゃないっすよ」

 カオル先輩はまだ本気じゃないようだ。俺を試しているって感じか?


 あー、クソッ!


 このカオル先輩は天才肌なのだろう。技術ではなく、感覚だけで、資質だけで何とかなってしまう――俺が一番苦手とするタイプだ。


 うん、前世で苦戦した、本当に厄介なタイプだ。だが、だ。


 苦戦した。

 苦手だった。

 厄介だった。


 でもなぁ、負けたことはないんだよ。


 だから、今の俺も――勝つッ!


 俺は拳を軽く握り、腰を沈める。ここからは俺も本気だ。


「おーっと、たいっちゃん、負け負け。まーけー。兄貴のところに案内するよ。放課後で良いよな?」

 カオル先輩が肩を竦める。


 ん?


 って、ん?


 んん?


「いやいや、なんすか、それ」

「ぐえー、負けた、んごー」

 肩を竦めていたカオル先輩がそれを止め、首に手を当て、苦しそうな演技をし始めた。何、この人。


 はぁ、まぁ、放課後に案内してくれるなら、良いか。ちょっと釈然としないけど、まぁ、カオル先輩に勝つことが目的じゃない。俺の目的はアラタってヤツに会って懲らしめることだ。何考えてんだ、ってな。


「あー、放課後っすね。りょうか……」

「ちょっと待ってください」

 俺が話を終えようとしたところに待ったがかかる。その声の主は――雷人だった。


 さっきまでフリーズしていた雷人だ。


「あ、何?」

 カオル先輩が面倒そうな声で反応する。

「先輩、コイツを四面楚歌の集会に連れていくつもりすか!」

 雷人が俺を指差している。人に指を差したら駄目なんだぜ。

「だぁれが、コイツだ」

 俺は雷人に人差し指を突き刺し、そのままぐりぐりと押さえつける。

「うぜぇんだよ。クソイチが。俺は今、先輩と話しているんだから、黙ってろ」

 俺の指が払いのけられる。何だと。この、雷人の分際で! 黙っていろよ。


「先輩、どうなんですか!」

 雷人が俺を無視してカオル先輩に話しかけている。

「あー、なんとか君さー」

「上路です」

「あー、じょじょじ君」

「上路です!」

「あー、まぁ、いいや。なぁ、お前はさー、四面楚歌の行動を決められるほど、指示が出せるほど偉いの? 知らなかったなー」

「そ、それは……いや、それでも、です。俺は反対です」


 カオル先輩が俺の方を見る。

「なぁ、たいっちゃん。たいっちゃんとどういう関係?」

 カオル先輩が内緒話をするような格好で雷人を指差している。

「あー、中学の時に俺をいじめてたヤツですよ。それが原因で引き籠もったくらいいじめられました」

「お、おい、今、それを、先輩の前で……」

 雷人がちょっと慌てている。


 ほーほー、いじめをやっていたことがバレたくない、と。今はダサいことだったと思っているんだな。それならさー、最初からやるんじゃねえよ。

 コイツ、本当に馬鹿だなぁ。


「たいっちゃん、それって……」


 と、そこでホームルームの開始を告げるチャイムが鳴る。


「っと、まー、興味はあるけどさー。教室に戻るよ」

 カオル先輩が面倒そうに手を振る。

「じゃあ、先輩、放課後に」

「おうさー」

 カオル先輩は教室を去って行った。


「おい、こら。クソイチ。お前、先輩の前で何してくれてんだ、てめぇ」

「雷人、ホームルームが始まるぜ。早く席に着けよ」

「おい、こら」


 鬱陶しいなぁ、雷人はさー。


 はぁ、めんどくせ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ