制約①
さてこの現象。
どうしたものか……と、嘆息したってしょうがない。
結局テストは、全教科高水準でおさめることが出来た。
当たり前だ。
問題を知っているのだから。
もうここまできたのだから、俺がタイムスリップしてしまったというのは認めてしまおう。
大事なのは、それから。
偶然だったのか知らないが、俺が「戻れたら」などと願った瞬間にスリップした。
ただでさえ馬鹿馬鹿しいのに、こんなことを考えたくはないものではあるが。
それは、俺の願いに呼応したもななのか。
これを調べる必要があると思った。
しかしどういうわけか、7/14──スリップ後の13日以降、俺がどれだけ「戻りたい」と思ってもそれは不可能だった。
実に不可解である。
現在は8/6、夏休み真っ只中だ。
ただあろうことか、終業式の日、俺は学校のロッカーに課題のワークを忘れてしまい、さらにワックスがけによる立ち入り禁止のため取りに行くこともできなかった。
どの道ここまでロクなこともしてきてないしついでだ、と思い、これをタイムスリップ検証の材料にしようと、終業式の日、つまり7/24まで戻ろうと何度も試みた。
しかし不可能だった。
なんらかの理由づけが必要なのか、とも考え、「忘れ物をしたからあの日に戻りたい」と、強く何度も願った。
それでも、結果は察しの通り、というわけだ。
さてどうしようか、と考えていた、午前9時。
ブーッ。
俺の携帯が震え、いつも聞く着信音が流れた。
「メールか……?誰からだ」
俺は寝転がっていたベッドから出て、机の上に置いてある携帯を手に取る。
見ると、そのメールは悠介からだった。
『今日暇か?また駅前で遊ぼうぜ』
たった一文のお誘いメール。
だが部活にも入っていない俺は暇を持て余しており断る理由もないので、
気分転換にでも行ってみることにした。
……さすがに、俺がタイムスリップなんて言っても、信じてはくれないよな……?
俺は一度、悠介に意見を仰いでみようか、と考えすぐに否定した。
こんなの、人に話したって笑われるだけだ。
もちろん逆の立場でも然り──
「……ま、後でなんとかするか」
大事な場面でまたタイムスリップしてしまうのは困るが、何年も遡るわけでなければ同じ時間を過ごすだけだから造作ない。
とりあえず、チャリ飛ばして、いつもの駅前のファミレスで待ってるか。
俺は悠介に承諾のメールをし、家を後にした。
「お、海斗、早いな」
ファミレスで5分ほど待っていると、入り口から手を振ってこちらへやってくるシルエットが見えた。
もちろん悠介だ。
俺は軽く右手を挙げて挨拶に応えつつ、冗談混じりに言った。
「生憎今来たところだよ」
「なんだそれ、オレたちゃ恋人か?」
「なわけ」
「ははっ。ま、互いに暇人ってのは気が合うのかもな」
こんな他愛ない会話をしつつ、俺たちはコーヒを頼んだ。
最早これがいつものルーティーンになっている。
「んでどうするよ、今日。ここまで来たはいいが……」
俺は悠介に聞く。
あのメールには予定なんか書いてなかったし、そうでなくとも立てている、というようにも見えなかった、
「ああ、そうだ。それなんだが……」
悠介はカバンを開けて、中から1枚のビラを取り出す。
「これなんてどうだ!?」
そう、自信満々にビラを俺に見せてきた。
「ん、なんだこれ?」
「たぶんお前も喜ぶぜ……!」
そのビラは、艶やかな紫の背景に赤のポップ体で書かれたファンキーな見た目をしていた。
そして肝心な中身。
「……ん?メイドカフェ……?」
「へへ……っ。たまにはこういうところもどうだ、海斗?お?」
……。
興味がゼロか、と聞かれれば否定せざるを得ない。
だがしかし、行ってみたいかという問いにはイエスで答える自信はない。
「……えーと……」
「ん?どうなんだ、海斗?」
「って、実はこれお前が行きたいだけなんじゃ……」
「うげっ……ま、まあ二人いた方が楽しみやすいだろ……?」
「うーむ……」
……え、えと、一応俺も年頃の男子高校生ということにはなる。
だから、つまり、その……
「……ま、まあ、お前がそこまで言うのなら、……?」
俺は少し恥ずかしくて、視線を逸らし、やや熱くなった頰を指でかきながら答えた。
それに対する悠介の答えは。
「おっし決まり」
……そういうわけで。
俺たちは、まさかのメイドカフェへ行くことになった。
これは誰にも言えないな……