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俺が何度も時空を超えて、恋を成就させる話。  作者: 呼ばれた魚
第1章 邂逅編
1/6

プロローグ【気づいたら昨日に戻っていた件】

とにかく失敗した。


特に、2時間目の数学Ⅱ。

三角関数の復習を怠ったがために、今回の出来は散々だった。


得点率がえぐいほど低いのは、採点結果を待たないでもわかる。


今回の三角関数に関しては、少し学校配布の問題集を解き直せば6割は簡単に取れる問題。

帰り道、俺は非常に後悔していた。


「はぁ……」


思わず、ため息が出る。

何せ文系の俺は数学が大の苦手で、1年の頃に赤点も取りかける失態を犯してしまったほど。


「なんだ、そんなに出来悪かったのかよー?」


隣にいる俺の友達、九条(くじょう)悠介(ゆうすけ)が、へへっ、と笑って俺に問いかける。


「ああ、まぁな……。赤点とまではいかないかもしれないけど、補修はほぼ確定したかも」


俺たちの通う、新木(あらき)高校はこの地域の中ではトップの偏差値を誇っている。そのためプライドからか、成績不振の者には凄まじい課題を課す。

ただせいぜい、そのトップ偏差値というのは地域レベルであり、やはり"自称進学校"の域は出ない。


「うわー、それは酷いわー。さすがのオレでも、そこまではいかんよ」


ちなみに悠介は理系。もちろん理数系の科目は得意だが、英語が不得手。


「英語か?」

「そう。文法問題はだいぶ滑ったけど、ある程度文脈で予測できる長文なら、って感じ」

「なるほどなー。……まぁ、俺も、逆に数学以外はなんとかなりそうだけどさ……」


しかし、これは良くない。

うちの母親に関しては、軽く放任主義を謳っているところもあり、例えどんな成績をとっても、それは俺の結果として受け止めさせて何も言わない。さすがに俺は、一度赤点でも取ろうものなら危機感は持てるような真面目さは持っているから、そこについては有難く思っている。


問題は、父親の方。


「まー確かに、お前んとこの親父さん、補修なんて聞いたらなー……」


悠介が苦笑いする。

それもそうだ。

俺の親父は銀行の支店長を務めており、非常に経歴や勉学などを重んじる性格だ。

ゆえに、俺の成績に関しても目ざとくチェックしており、1年の低迷期には『お前には自覚が足らん!罰として1日5時間勉強だ!』などと言って、時間のある土日はともかく、平日にまで俺の部屋に乗り込み監視をするような人だ。


だから、今回の出来を知ったら──


「……あーあ、昨日の俺は何をやってたんだ。ずーっと指数関数なんか勉強して……」

「まーあるよな、そういうこと。昨日の自分に忠告したくなるような」

「そうそう。……マジで今回のテスト、30分三角関数勉強するだけで点数上がるようなモンだったんだぜ?」

「うっわそれは萎えるな」

「だろ?」


悠介も言ったが、本当にこういう時、昨日に戻ってやり直したくなる。

こんなラノベじみた能力が、俺にもあればな──。

と、その時だった。







ぐにゃり。






急に、視界が歪む。

まるで、ピントの合わないメガネを掛けたみたいに。


「ど、どうした、海斗(かいと)!?」


悠介の、俺を呼ぶ声がする。


「あ、れ……?」


体に力が入らない。

自然と体が倒れていく。

しかし俺には抗う術はなく、視界がだんだん黒に染まるのを見ながら、そのまま道路に倒れこんだ。


「~~!~~~!!」


真っ黒になった視界の向こうで悠介が何か叫んでいるが、もはや聞き取ることはできない。


だんだん他の感覚も薄れていくなか、俺は意識を失った。





◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




ゴン。


俺の頭が一度、鈍い音を立てた。


「って……」


俺が痛みを覚え、頭を左手で押さえる。

そうだ、俺はテスト後の帰り道、奇妙な感覚に襲われて、道端で──


慌てて飛び起き、周囲を見渡す。


「え……」


そこには、信じられない景色が広がっていた。


俺の机。

俺のベッド。

俺の本棚。


ここはどう考えても、俺の部屋そのものであった。


「な、何が……!?」


俺が帰り道で倒れた出来事、あれは夢などではない。

ではなぜここに──!?


俺は、悠介が運んできたのでは、と推測し、すぐにそんなわけがないと首を振った。

目の前で人が倒れたら普通、すぐ救急車を呼ぶ。

胸骨圧迫やら何やら他の対応はあるにせよ、気絶したまま俺をここまで運んできたとは思えない。それは傷病者の手当てとしてはありえない行為だからな。


では、一体、この状況は?


部屋のど真ん中で目覚めた俺に、できること。


……とりあえず、時間を確認しないとな……。

テストが終わって帰路についたのが、大体12時半ぐらい。

それから何時間経ったものだろうか──と、俺は机の上に充電してあった携帯を手に取る。


──ん?

俺はここでも、違和感を覚えた。

この携帯、電源が切ってある。

俺の机の上にある以上俺のもので間違いない。

では、なぜ電源が切ってあるのだろうか。


テストが終わり下校となってから、俺は教室で携帯の電源を入れてポケットに入れたはず。

何なら、そもそも充電してあるのがおかしい。

俺は部屋のど真ん中で倒れてたっていうのに、携帯は電源オフの状態で充電……?


いや、それなら、もしかして。


「……やっぱり」


俺のカバンが、机の横に立てかけてある。

中身は、()()()()()()()()()、テスト課題。


ブー。


俺の携帯の起動が終わり、軽いバイブの後に待ち受け画面が表示されている。

そこに映されたのは。


『7月13日 水曜日 午後8時36分』


「……なんなんだこれは」


テストを受けたのは、7月14日。

つまりは、()()()()()()()()()()()、ということになる。


「……」


にわかには信じがたい。

しかし現実に、これがひとつの事象として起こっている以上は、信じないわけにはいかない。


俺は、もう一度、倒れる前の状況を整理してみる。

帰り道。

テストの出来に落ち込む俺。

そんな俺を慰めつつ笑う悠介。

昨日に戻れたら、なんて話をする俺たち。

そして最後に、そんな能力があればなどと考えた俺。


まさか……?

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