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片腕の盾使い、騎士を志す  作者: ニシノヤショーゴ
ニアからの依頼編
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借りは早めに返すに限る

 茂みの奥からやって来たジークにヨシュアは「助かりました」と素直にお礼を言った。ジークは片手を上げてそれに応える。「少年には色々と借りがあったからね。早めに返しておこうと思って」


 ジークの言う「借り」とは先月のこと。ヨシュアを二週間にわたって振り回したことを指していた。もちろんヨシュアはあの時のことを「貸し」だとは思っていないし、むしろあの出来事がきっかけで傭兵としての仕事も増え、日々充実の生活を送っていた。お礼を言うなら自分の方だとヨシュアは思っているぐらいだ。



 ジークの奥からまた二人、別の人間が現れた。

 一人はルフレ。先ほど何か見えない力(恐らくはマジックワイヤーだろう)に引っ張られるような形で消えていった男である。

 もう一人はエルデ。自らを「ジークエンデ親衛隊」と名乗る程の無類のジーク好きな女性で、ジークが組む四人パーティの内の一人である。長い銀色の髪に褐色の肌、少しばかり露出の多めな服装に、無邪気な笑みを浮かべた二十代後半(三十代では無い)の女性だ。今しがたルフレを逃がしたのもエルデなのだろう。



「久しぶりね、ヨシュア君!」


「はい、エルデさんもお元気そうで」



 にこっと、白い歯を見せてエルデは笑った。つられてヨシュアも自然と笑みをこぼす。


 エルデと初めて会ったのは先月のこと。二週間の依頼のすべてこなした翌日にジークから紹介された。

 ジークがヨシュアを誘う理由として、ミストは当初「いつも一緒にいるパーティメンバー三人がジークさんに愛想を尽かせて逃げてしまった」と語っていた。けれど、それはあくまでも口実で、本当は仲間割れなどしていなかったらしい。そしてジークがヨシュアを連れ回している間に起きた厄介な依頼は、すべてエルデ達が引き受けてくれていたそうだ。


 そういった経緯もあり、エルデはずっとジークを慕っているし、ジークに認められたヨシュアのことを気に掛けてくれている。一度だけだが依頼も一緒にこなした仲だ。



「ジークさん。来てもらった所悪いのですが、もう一つ行かなきゃいけないところがあって」


「なんだい? 遠慮せずに言うといい」


「俺たちをここ数日間泊めてくれた恩人の家が狙われています。ロイが向かったのですが、一人だと心配です。今から向かおうと思うので、ジークさんにこの場を任せてもいいですか?」



 ヨシュアがそう言うと、ジークは「任せたまえ」と胸を叩く。こういう時のジークは本当に頼もしい。 ヨシュアは「ニアのことも頼みますね」と言い残し、アミーテの家に向かって走り出そうとした。

 だが、その時だった。爆風によって気絶していたかに見えたエンデュランスが立ち上がったのだ。


 エンデュランスは言った。「その必要は無いよ」



「どういう意味だ?」


「こちらの負けってことさ。あなたが言った通り、ロイという男も強かったよ」


「…… 信じてもいいのか?」



 「あなたは信じていないのですか?」とエンデュランスは口元に少しばかり笑みを浮かべる。「首を絞めたみたいです。意外と頭が良いのですね、彼も」


 どうやらロイは打撃も斬撃も効かないザウィードに対し、首を絞めることで対応したらしい。恐らくはマジックワイヤーで首を絞めたのだろう。前回の戦いを見る限りザウィードは<魔法無効化ディスペル>を使えないので、マジックワイヤーを無力化出来ない。力で引きちぎることが出来ないのなら、ザウィードは絞め落とされるしかなかったようだ。



「確かに薬で肉体は強化できても、首を絞められることには弱いままだ。やっぱり酸素は必要ですからね」



 エンデュランスはさも感心したかのように言った。弱々しいながら相変わらず笑みを浮かべているものの、もう怖さは感じなかった。身に纏う白衣は焼け焦げ、顔もやつれている。髪も乱れている。目は窪み落ち込んでいる。ただ瞳の奥の輝きだけは失われていない。

 


 そんなことより、とエンデュランスはジークの方を向いた。「どうしてあなたが此処にいるのですか?」



「いけなかったかい?」


「そりゃそうでしょう。ここはオルリベスの領土ですよ? マーセナルの傭兵が出る幕では無いはずです」


「そうかもね。けどね、ボクたちはオルリベスから要請を受けて此処にいるんだ。文句を言われる筋合いは無いよ」



 エンデュランスは首を傾げた。そんな訳が無いだろうと言いたげに。

 だが、何か思い当たることがあったのだろう。くくくっ、と彼は笑った。「そういうことか」



「そういうことだよ。ボクらはオルリベスの傭兵であるヨシュアから要請を受けたんだ」


「ルール違反ギリギリですね」


「いいんだよ。ギリギリだろうが一線を超えていようが、オルリベスのリーダーであるキミを押さえられたのなら、ボクたちの勝ちさ」



 オルリベスは鎖国的で何者も受け付けない。何か問題が起こってもマーセナルまで依頼が届くことは有り得ない。もしオルリベスの街の人間の誰かがマーセナルに依頼を出せば、ギルド<金色の鬣>からの報復が待っている。そんな愚かなことをする人間はいない。だからエンデュランスは最初首を傾げたのだ。


 けれど、今回は違う。ジークエンデに依頼を出したのはヨシュアである。当然ヨシュアは報復を恐れていないのだ。



 ジークはヨシュアに、これから起こる面倒事は自分に任せろと言った。ロイを待ち、馬車に乗って先にマーセナルに帰ることを進めたのだ。その代わりと言って、ルフレをそちらに連れて行って欲しいとジークは言う。ヨシュアはそれに「もちろんです」と答えた。



 ようやく、ルフレはエンデュランスたちから解放された。だがその目は伏したまま。色々と気まずくてニアと顔が合わせられないみたいだ。ニアもニアで戸惑っているのか、父親に話しかけようとしない。長い間離れ離れだった二人の溝は、そう簡単には埋まらないのだろう。


 けれどヨシュアはそれでもいいと思った。これから二人には話し合う時間がたっぷりとある。今後の事はマーセナルに帰ってからで十分なはずだ。今は一先ず全員の無事を喜びたいとヨシュアは思った。

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