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片腕の盾使い、騎士を志す  作者: ニシノヤショーゴ
ニアからの依頼編
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恐れることは何も無い

 気に入らないな、とエンデュランスは言った。自分との戦いの最中によそ見をするなと言いたいらしい。



「先ほどから防戦一方だったあなたに、ニアを助けている余裕など無いと思うのですがねぇ!!」



 繰り出される左右の拳。左のジャブを盾で受け止めつつ、右フックを身を屈めるようにして躱すと、すぐ目の前には膝蹴りが迫っていた。それでも、見えている攻撃なら防ぐことはそんなに難しい事じゃない。ヨシュアは常に馬車を背にしながら、エンデュランスの攻撃を巧みに捌いていく。



「これも防ぎますかっ! それなら!」



 ヨシュアは三本の<魔封じの光剣(シールズ・エッジ)>を使い切っていた。既に二本はエンデュランスに躱されるか、あるいは<魔法無効化ディスペル>によって掻き消されてしまった。最後の一本もニアを助けるために使用してしまった。つまりは、薬によって肉体を極限まで強化したエンデュランスに唯一対抗できる手段を失ってしまっていたのだ。


 エンデュランスはヨシュアに何の恐れも抱いていないのだろう。己の欲望に従うかの如く、ただひたすらに激しく攻め立ててくる。初めて出会った時に感じた聡明な印象とは真逆の、ケダモノのような姿に戸惑いを感じずにはいられなかった。



「弱い女を助けるために自分が窮地に陥るとは、何とも哀れですね!」


「<魔封じの光剣(シールズ・エッジ)>は皆を守るために編み出した技だ。勝手に哀れだと決めつけるな!」


「なるほど、そうでしたか! 片腕では限界だと感じた訳ですか! 確かに盾だけのあなたなど、何一つ怖くありませんからねぇ!」



 ────怖くない、か


 敵にプレッシャーを与える事、確かにそれも一つの狙いだ。

 けれどヨシュアにとってこの技は「多対一」を想定したものであり、ヨシュア一人で多くの敵を足止めすることが最大の目的だ。「ニアを守れたこと」はヨシュアにとって最も望ましいことだった。だからエンデュランスに何を言われようと、ヨシュアは何もイラつく事が無かった。


 それにヨシュアは、もうエンデュランスに対して恐れを抱いていなかった。エンデュランスがヨシュアを恐れていないのと同じように、ヨシュアも相手を怖いと感じていなかったのだ。なぜなら、力押ししか能の無い相手には負ける気がしないからだ。



 またも襲い掛かる左ジャブ、右ストレート、左フックのコンビネーション…… と見せかけてからの右のミドルキック。大丈夫、これも見えている攻撃だ。続けざまの右のローキックも余裕をもって躱せている。どうせ次は跳び込みながらの左ストレートなんだろ。…… ほら、やっぱりな!


(なんだ。拍子抜けだな)


 肉体強化という面では、薬の効果は絶大だった。けれども、薬がもたらす高揚感は思考力を大きく低下させるらしい。エンデュランスは力任せの単調な攻撃を繰り返すだけ。最初の突撃時に薬品の入った小瓶を投げつけた時のような工夫はもう見られなかった。ヨシュアが恐れていた「変則的な攻撃」はまるで見られないのだ。


 そんなヨシュアの考えに気付いていないのか、エンデュランスはあたかも自分が主導権を握っているかのように言う。



「ほらほら、どうしましたか!? お得意の<魔封じの光剣(シールズ・エッジ)>はもう終わりですか!?」



 ヨシュアは黙っていた。すると気を良くしたエンデュランスが続けて言う。



「出せないんですよね? こうして攻められ続けられると余裕が無いのか、魔法を発動できないんですよね!?」



 これでも少しは考えていたのか、とヨシュアは思った。これまでの戦いを観察していたエンデュランスは、余裕が無ければ<魔封じの光剣(シールズ・エッジ)>が使えないと見破っていたのだ。

 でもそれならそれで、相手が気分よく単調な攻撃を繰り返してくれるならそれで、ヨシュアとしても好都合である。



「悲しいな…… 。右手があればもう少しまともな戦いが出来たのに」



 エンデュランスは体を独楽こまのように回転させながら、長い脚を使って連続蹴りを繰り出す。かと思うとしゃがみ込み、足払いでヨシュアの守りを崩そうとする。体を左右に揺らし、ジャブ、ストレートのコンビネーション。そして間髪入れずにハイキック。どれも威力充分で<衝撃吸収アブソープ>を一度でもミスれば大きく吹き飛ばされることだろう。


 しかし、それだけではヨシュアの守りは崩せない。なぜなら、いつも訓練で使用しているガトリーを模した魔法人形マギアドールのレベル9に遠く及ばないからだ。



 エンデュランスの呼吸が荒くなってきた。額の汗の量も尋常じゃない。顔色も少し悪いだろうか。だが表情は変わらない。相変わらず薄気味悪い笑みを浮かべたままだ。自身の体の変化に気付いていないのかもしれない。


 このままで勝てるのか?

 それともまだ奥の手を隠しているのだろうか?


 ヨシュアはエンデュランスの表情を注視する。どんな些細な変化も見逃してはならない。



「ふぅーっ、ふぅーっ、やりますねぇ…… !」



 その目は狂気じみていた。ヨシュアを叩き潰すことしか頭にないようだった。揺さぶりをかけようとニア達を襲う事など、もう頭の片隅にも無いようだ。もちろん、エンデュランスが馬車の方へ走るそぶりを見せたとしても、ヨシュアは即座に対応できる自信があった。


 体ごと、ショルダータックルの要領で突撃してくるエンデュランスを、ヨシュアはまた盾一つで弾く。するとエンデュランスは坂道に足をとられて大きくよろけた。

 そしてこの戦いで初めて一呼吸置くと、今度は右腕を大きく振りかぶり、盾ごと貫かんとばかりに渾身の右ストレートを繰り出してきた。



 ────そこっ!!!



 両足を肩幅に開き、どっしりと待ち構えるヨシュア。

 タイミングを完璧に見極めると、ヨシュアはエンデュランスの拳を盾で弾く。


 だが、この時ヨシュアは<衝撃吸収アブソープ>を発動させなかった。

 その代わりにヨシュアが使用した魔法は────

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