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片腕の盾使い、騎士を志す  作者: ニシノヤショーゴ
聖騎士見習い試験編
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実技試験とヨシュアの実力

 

 いよいよ行われることになった実技試験。

 試験内容は大きく分けて四つ。


 試験官のマオに連れられてヨシュアたちが最初に受けたのは<マジックワイヤー>の実力を試す試験だ。



 試験内容はマジックワイヤーの先端部分をいかに早く適切に変形させることができるかを競う試験と、宙に漂う十枚の<魔法盤マジックディスク>をいかに早く撃ち落とせるかを競う試験の二種類だ。



 ラスティに教わっていたおかげで先端部分の変形テストはうまくできた。

 だが、タイムを競う<魔法盤マジックディスク>の撃ち落としに関しては、どうしても片腕では他の受験生と比べて手数が少なくていい結果が残せなかった。



 そんなヨシュアの試験を近くでじっと見ていたのはレオだった。


 レオ自身はなんとこの試験をグループトップで通過していた。どうやら口だけの男ではないようだ。

 レオは余裕の笑みを浮かべながら、わざとヨシュアに視線をあわせようとこちらを見てくるが、「今に見てろよ」という想いを胸に秘めながら、ヨシュアは無視を決め込んだ。




 二つ目の試験は<スイム>のテストだ。


 このエルベールを中心とした世界は、『世界樹』や『魔法』や『魔物』の存在など、他の外側の世界と大きく異なっているのだが、もう一つ大きな違いを挙げるならば『環状根』の存在だろう。


 中央に位置する世界樹がある大陸<エルベール>


 その島を中心に取り囲むように8つの島がドーナツ形に存在しているのだが、その島と島をつなぐ天然の橋を『環状根』という。

 常識を超えた話になるかもしれないが、この環状根とは『エルベールの大陸に納まりきらない世界樹の根が、海底を埋め尽くすように伸びていき、いつしか世界樹の根の先端が海面に向けて伸びて海面からせり出したもの』である。

 そのお椀型に伸びて巨大な防波堤となった世界樹の根の先端部分を、長い年月をかけて先人たちが削り、できる限り平らにして橋として島と島をつなげたものを『環状根』と呼んでいる。



 各島を繋げる環状根の合計の長さは百キロメートルを余裕で超える。

 対して環状根の道幅はところによって変わるが、だいたい十メートルほどしかない。

 環状根から落ちれば外側は海、内側には樹海が広がっている。環状根の上で戦闘になった場合、あやまって水の中に落ちる可能性は十分にある。そのために水泳や潜水のテストが行われるのだ。




 三つ目の試験は<基礎魔法>のテストである。


 聖騎士に求められる<基礎魔法>は全部で七つ。


 暗闇を照らす<光球イルミネイト>、傷や毒など自分自身の体の異変を応急処置する<自己再生キュアコンディション>、濡れた服や体を一瞬で乾かす<瞬間乾燥ドライ>、身体能力を強化する<身体強化フィジカルブースト>、五感を強化する<五感強化センスブースト>、触れた魔法効果を打ち消す<魔法無効化ディスペル>、そして触れた物理的衝撃を瞬間的に無力化する<衝撃吸収アブソープ>の七つである。



 この中で<光球イルミネイト>や<瞬間乾燥ドライ>はそれほど難しい魔法では無いし、<自己再生キュアコンディション>と<五感強化センスブースト>も、試験で求められるレベルは大したことない。

 聖騎士を目指す受験者たちにとって問題となるのは残る三つのテストだ。




 マオに名前を呼ばれたヨシュアは<身体強化フィジカルブースト>の試験を受けるため立ち上がる。

 他の受験者たちの視線がヨシュアに集まってくるのが分かる。その視線は興味や好奇心なんかじゃない。嘲笑や軽蔑といった『片腕』であることをバカにした視線だ。



(「なんでお前みたいな『片腕』が試験を受けているんだ」なんてみんな思ってるんだろうな。…… けど、悪いな。ここからは俺のターンだ…… !)



 ヨシュアはここまでの実技試験でいい結果を残しているとは正直言い難い。

 <マジックワイヤー>の試験は、片腕ではどうしても難しい試験もあって点数は良くなかった。『スイム』も潜水はトップクラスの成績を残せたが、抜きん出た成績という訳でもない。基礎魔法四つも満点に近い成績のはずだが、この四つに関しては満点で当たり前だから意味がない。

 試験開始位置についたヨシュアは、胸に手を当て自らを鼓舞する。


(ここまでは決して悪くない。けれども『片腕』である俺にとってみんなと同じ成績じゃダメなんだ。ここから求められるのは圧倒的な結果。誰が見ても納得せざるを得ないような結果だ!)



 マオがこちらを見る。こちらを試すような視線。だが、その視線は他の受験者たちと違って、単純にヨシュアの力を見極めようとする好奇心に満ちた視線だ。こういう視線なら嫌いじゃない。



「準備はいい?」


「…… はい。いつでも!」



 ヨシュアは前を見据えてマオの合図を待つ。


 <身体強化フィジカルブースト>の試験内容は『走る』ことだ。

 もう少し詳しく説明すると、一辺が二十五メートルの正方形が二つ、八の字型に繋がったコースの外側を四周するタイムを計るというもの。

 別名<スクエアラン>とも呼ばれるこの試験では、単純な速さはもちろん、直角コーナーを曲がる技術と、合計八百メートルを全力で走りきる体力も求められる。

 魔法を使わずに走ろうと思うとどれだけ速く走っても百五十秒近くはかかる。しかし試験では最低でもあと三十秒はタイムを縮めなければ合格は難しい。


 そこで使うのが<身体強化フィジカルブースト>というわけだ。


 この魔法は「体中を巡る『魔力』を必要に応じて必要な個所に供給する魔法」である。文字通り身体能力を強化する魔法なので、体をしっかり鍛えていないと効果があまり発揮されないのだが────



「それでは位置について…… 始め!」



 マオの合図とともにヨシュアは力強く一歩を踏み出す!!


 それはまさに電光石火。

 静から動へ、一瞬にしてトップスピードに乗る。


 目の前には最初のコーナー。

 直角カーブに対し左足でしっかりと地面を噛みしめると、スピードを全く落とすことなく曲がりきる!!

 その動きに一切の無駄は無かった。



 スタートで見せた加速と、直角コーナーをほとんど速度を落とさずに曲がるヨシュアの姿を見て、他の受験者は早くもこの日一番のタイムが出る予感がしていた。

 同じグループで試験を受け、<マジックワイヤー>の試験をはじめここまでほぼ満点の成績を残してきたレオも、ヨシュアのこの走りに驚き戸惑いを隠せない。



(なんなんだ、アイツのスピードは!? あ、ありえない…… ! いや、このままのスピードで走り切れるはずはない。…… だがもし走り切れるとしたならば…… それはもう圧倒的という言葉ですら足りないことになるぞ……!)



 <身体強化フィジカルブースト>で大切なのは『身体能力の高さ』と『適切な魔力供給』だ。そして片腕であるヨシュアは『走る』ということに誰よりも時間を割いてきた。だから、この試験の結果はヨシュアにとってある意味当然のことだった。

 しかしながら、いままでヨシュアのことを『所詮は記念受験を受けに来た愚か者』と思っていたレオや他の受験者はもちろん、ヨシュアのことを信じていたクノンでさえ、この走りを見て度肝を抜かれることとなった。


 ────けれど、ヨシュアの得意な試験は<身体強化フィジカルブースト>だけではなかった。



 <身体強化フィジカルブースト>の試験をここまでの試験で最高の『九十八秒』を超え、さらになんと歴代最高タイムを五秒も更新する『八十四秒』で終えたヨシュアは、そのあとに続く<魔法無効化ディスペル>と<衝撃吸収アブソープ>の試験までも満点フルスコアでクリアして見せたのだ。


 その結果を側で見ていたレオとハンスは自身の目を疑った。



(ま、またしても…… ありえない…… ! あの『片腕』が満点フルスコアだと…… ! <スクエアラン>だけならまだ分かる。あの試験内容なら『片腕』でもそれほど影響はないからな。だがこの試験は…… 盾一つで攻撃をさばききっただけでなく、<衝撃吸収アブソープ>を完璧に成功させることなどあり得るのか!?)



 レオが驚くのも無理はない。


 <魔法無効化ディスペル>と<衝撃吸収アブソープ>の試験は同時に行われるのだが、試験内容は狭いフィールドの中で二体の<魔法人形マギアドール>の攻撃を一分間ひたすら防ぎ続けるといったものだ。

 <魔法人形マギアドール>のうちの一体は魔法使い風で右手に杖を持ち、離れた位置から雷魔法で攻撃してくる。もう一体は両手に木刀を持った二刀流剣士風だ。

 攻撃は必ずしも受け止めなくてもいいが、剣士風の<魔法人形マギアドール>の動きはかなり速いため、狭いフィールド上で攻撃をかわし続けるのは実質不可能に近い。



 二体の波状攻撃に対し、魔法には<魔法無効化ディスペル>を、木刀による攻撃に対しては<衝撃吸収アブソープ>をうまく発動できるかを見る試験なのだが、この試験が難関と言われる理由はその魔法の発動タイミングの難しさにある。

 なにせ二つの魔法は<衝撃吸収アブソープ>ならコンマ一秒、<魔法無効化ディスペル>でもコンマ二秒と、ほんの一瞬しか発動受付時間が無いのだ。



 『片腕』のヨシュアにとって防御手段は盾のみである。

 盾一つで<魔法人形マギアドール>の二刀流を防ぐだけでも厳しい。にもかかわらず、そこに魔法がとんでくるのである。

 普通なら満点フルスコアなどありえないのだが────



(この剣士風の<魔法人形マギアドール>はガトリーさんのレベル5程度だな。しかもあの魔法使い風の『魔法人形マギアドール』の攻撃頻度はそれほどでもない。というよりも味方を攻撃しないように、どうやら俺と剣士風との距離が離れたときだけ攻撃してくるようだ。それなら剣士風の<魔法人形マギアドール>に回り込まれたりしないよう位置取りだけを意識して、あとは至近距離でまとわりついてやれば満点フルスコアも十分狙えるな!)




 そうして、本来ならば聖騎士でさえ難しいことをヨシュアはやってのけたのだ。

 試験を終えて戻ってきたヨシュアにクノンは駆け寄ってきた。



「本当にすごいわ! 歴代一位のタイムも、あそこまで聖騎士に認められる走りも! それに<魔法人形マギアドール>も完璧に防いでしまうなんて! ああ、でもあんな結果を見せられたら、私ちょっと自信無くしちゃいそう…… 」


「いやいや、『三人一緒に試験に受かろう!』って言ってくれたの、クノンじゃないか。それにクノンだってここまでかなり順調だろう?」


「うん、そうなんだけど…… そうね。どのみち試験はもうあと一つしか残されていないし、今更不安になっても仕方ないわね」



 ────そう、残るは決闘デュエルのみだ。いくらここまで結果を出しても合格できなければ意味がない。

 ヨシュアは決意を新たに、最後の試験に臨む。


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