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片腕の盾使い、騎士を志す  作者: ニシノヤショーゴ
片腕の盾使いは騎士に憧れる
151/154

片腕の盾使い VS 聖騎士①

「────お前、俺に喧嘩を売っているのか」



 辺りがしんと静まり返る。他のグループの試験の音が遠く向こうで聞こえる一方で、ヨシュアたちのグループは誰一人として口を開こうとしなかった。試験担当のマオも呆気に取られていた。




 それは最終試験である<決闘デュエル>でのことだ。この試験ではマオだけでなく、聖騎士で小隊長を務めるアーノルドも観戦することになっていた。

 そのアーノルドから試験概要が述べられる。



「諸君らも知っての通り、これより行う試験は<決闘デュエル>だ。当然ルールは知っているはずだが一応説明しておこう。使用できる武器は木刀と盾とマジックワイヤーの三種類であり、基礎魔法の使用も可能。戦場は一辺十メートルの正方形のフィールド上で行ってもらう。これは『環状根』のような狭い場所での戦闘を想定しているためだな。勝敗については、先に有効打を与えるか、相手をフィールドの上から落とすことで決まる。ちなみにだが試合数は人によって違う。不公平とも感じるかもしれないが、俺が「次も見てみたい」と思えるだけのアピールを最初から全力でしてくれ。反対に、たとえ勝負に敗れたからといって即不合格になることはないから、その点だけは安心してくれ。以上、質問は?」



 アーノルドの問いかけに、一人だけ手を挙げた。

 それがヨシュアだった。



「戦いたい相手がいます」



 当然このような申し出は認められる訳が無い。だが、あろうことか昨年は認められたことをヨシュアはよく知っていた。アーノルドの心さえ動かせれば、相手を指名できる。それだけの権限がアーノルドには与えられているのだ。



「本来は認められていない。だが、聞くだけ聞いてやろう。誰と戦いたい?」



 ほら、喰いついて来た。

 だからヨシュアは言ったのだ。



「俺が戦いたいのはアーノルドさん、あなただ」



 その言葉を口にした途端、受験生の間に緊張が走った。誰も何も言えない中で、アーノルドは険しい表情を浮かべて「お前、俺に喧嘩を売っているのか」と言った。

 そうして今に至るのである。







「どう受け取るかはあなたの勝手だ。けれど、何も考えなくお願いしているのではありません」


「理由を聞かせてもらおうか」


「昨年の試験会場であなたは言った。『試験結果だけを踏まえると間違いなく合格だ。だが同時に、聖騎士になれる伸びしろを感じることができなかった』と、そして『もし来年新たに伸びしろを見せてくれたなら、俺のこの時の判断が間違っていたと謝罪し、君に合格を言い渡すだろう』と。俺はその『伸びしろ』という部分をあなたに見せたい」


「言いたいことは分かった。だが、それがどうして俺と戦うことに繋がる?」


「片腕で聖騎士など前例のないことだというのは俺自身よく分かっている。だからこそ、圧倒的な結果が必要だということも分かる。普通の結果が求められていない、片腕である俺だけ判断基準が違うというのなら、より難しい試験をクリアしなければ認めてもらえないと思った。だから俺はここで一番強いあなたを倒して、片腕でも聖騎士になれると認めて頂きたい」



 アーノルドが目を細める。

 ヨシュアの言葉の真意を、どこまで本気で語っているのかを見極めようとしているらしい。



「ルールは?」


「<決闘デュエル>のルールに従う。ただし、基礎魔法以外の魔法の使用を認めてもらいたい。もちろん、アーノルドさんも使用してくれて構わない」


「あくまでも対等に渡り合う気か。それで、勝敗条件は?」


「それは試験官であるあなたに任せる。ただし、あなたが出す勝利条件を満たすことができたなら、この場ですぐに試験の合格を言い渡して欲しい」


「それは筆記試験の合否にかかわらず、ということか?」


「そうなりますが、筆記試験に合格していなかった場合は、あとで見習い騎士としての資格を取り消してもらって構いません」



 まあ、万に一つも有り得ないだろうが、という言葉は言わないでおく。これ以上失礼を重ねても、得になることは無い。


 重たい沈黙が流れる。その時間はほんの僅かだったが、まるでこの場所だけ空間が切り取られたかのように静まり返っていた。誰も、ほんの少しの物音も立てなかった。みんな、自分が叱られているかのように大人しかった。



「いいだろう」とアーノルドは言った。「だが、俺と戦うということは、それ相応の覚悟はできているな?」


「はい」


「よかろう。勝敗条件は先に有効打を与えるか、相手をフィールドの上から落とすこと。加えて、君が俺の攻撃を三分間耐えきったなら、その時も君の勝ちだと認めよう」



 よし、乗ってきた。

 しかも提示されたルールは、盾使いとしての役割を遂行すればよく、ヨシュアにとって有利な条件である。

 だが、アーノルドの話はこれで終わらない。



「ただし、もしも君が負けた場合、聖騎士見習い試験の受験資格を永久に剥奪する」



 構いません、とヨシュアは即答した。

 もとよりそのつもりだった。それぐらいの覚悟があってアーノルドに挑んでいるのだ。


 手招きを受け、ヨシュアはフィールドの中央へ。アーノルドから少し離れて正面に立った。向けられる視線は眼光鋭く、重く圧し掛かるプレッシャーは息苦しさを感じるほど。だがそれらを一身に受けながらも、ヨシュアは冷静だった。魔の島で感じた圧倒的な恐怖と比べれば、アーノルドなんて可愛いもんだ。



「審判は、マオ、お前に任せる。それと時計を渡すから、だれか時間を計ってくれるか?」


 

 マオを呼び、受験生の一人に腕時計を渡す。

 そしてもう一度ヨシュアに向き直る。右手には木刀を、左手には盾を装備した、一般的な聖騎士スタイルである。筋骨隆々、身長は百八十を超えるが、全身から放たれるプレッシャーからは実際の身長以上にデカく見える。



「全力でいく。覚悟はいいな?」


「はい」



 ヨシュアは左足を一歩前へ、腰を落とし、気持ち前傾姿勢を取る。盾を前面に押し出す、防御重視のスタイルだ。


 マオが右手を高々と上げた。

 片腕の盾使いと聖騎士の戦いが、今、幕を開ける。

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