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片腕の盾使い、騎士を志す  作者: ニシノヤショーゴ
豊穣祭編
145/154

告白①

「これからお前を騎士に引き渡す。きっちりと罪を償わせてやる」



 ギルバートは項垂うなだれている。罪を自覚しているのか、失意に沈んでいるのか、あるいは秘かに怒りに震えているのか、それはヨシュアにも分からない。


 だが、そんなことどうでもいい。ワイヤーと<魔封じ光剣(シールズ・エッジ)>で拘束されたギルバートに抵抗する力は残されていない。できればソーニャに面と向かって謝罪させてやりたいが、それも豊穣祭が終わった後でいい。今はとにかく騎士に引き渡してしまおう。


 そんなことを考えていると、隣りでライが言った。



「後は私が引き受けます、ヨシュアさん」


「えっ…… と、引き受けるって?」


「行くべき場所、やるべきことがあると聞きました。此処はもう私一人で十分ですから、ヨシュアさんは自分のすべきことを優先してください」



 ヨシュアは驚いた。まさかライからこのような提案を受けるとは思いもしなかったからだ。

 というよりそもそも、どうして告白のことを知っているのだろう?


 いや、それよりも今はギルバートの件を片付けなければいけない。

 ヨシュアはライに「お気持ちは嬉しいのですが、さすがに甘える訳にはいきませんよ」と言った。


 するとライは耳元に手を当てて、念話テレパスでヨシュアとニアを繋いだ。一体何をしようとしているのだろう?



【ニア様。ヨシュアさんがアルルさんの下へ向かおうとしません】



 え? ライさん?



【ちょっと、ヨシュア! そっちはもう片付いたんでしょ!? だったら早くアルルの下に向かいなさいよ!】


【いや、でも…… 】


【でもじゃない! それともライが信用できないの!?】


【そんなことはないよ!】


【だったらヨシュアは早くアルルに会いに行きなさい! 一月近く待たせてたんでしょ!】



 それはその通りだった。

 今日この日に会うと約束したのはおよそ一月前。魔の島から帰還した時に約束したのだ。

 ヨシュアは傭兵の仕事こそ最優先にすべきだと思っていたが、今日ぐらいは他人に甘えてもよいのだろうか?


 ヨシュアはライに向き直り言った。



「やっぱり、お任せしてもいいですか?」


「もちろんです」


「すみません、このお礼はあとで必ず!」



 そう言ってヨシュアは走り出した。

 目指すはもちろん、アルルとの待ち合わせ場所である。







 豊穣祭の時期はどこも人が多い。特に祭りの最後を締めくくる花火のタイミングは、街の人もみんな外に出て夜空を眺めるから、特に人で賑わうことになる。

 でもそれはそれで、静かで二人きりになれる場所が無い、ということでもある。できれば二人きりになれる場所が欲しいヨシュアにとって、それは大きな問題であった。


 けれど、二人きりになりたい、というのはアルルも同じ気持ちでいてくれたらしい。数日前、彼女から「当日は私の家の屋上で会いませんか」と言ってくれたのだ。

 アルルが借りている老夫婦の二階建ての家には、屋上に薬草を育てるスペースがある。特別広い場所では無いが、誰かに邪魔されることも無ければ、花火もバッチリ見える。いわば地元民ならではの「特等席」と言えるだろう。



 ライと別れたヨシュアは隣町まで走ると、あらかじめアルルから手渡されていた合鍵を使って彼女の家に入り、そのまま屋上へと駆けあがった。

 そして屋上に繋がる扉の前で一度立ち止まり、深呼吸して気持ちを落ち着かせる。



「…… ふぅ、よし!」



 緊張はしている。気持ちもこれ以上無いくらい高ぶっている。けれどこの気持ちはいくら深呼吸しても消えることの無いものであり、大事にしなければいけない感情だ。そんな高揚感を胸に、ヨシュアはアルルへと繋がる最後の扉を開けた。


 扉を開けると、そこでアルルは長椅子に座って、一人夜空を見上げていた。

 金色の美しい髪が風に揺られてたなびいている。頬はほんのりと赤く染まっている。両手は膝の上で、祈るようにぎゅっと握りしめられている。そんな彼女の横顔を見て、ヨシュアは目を奪われてしまった。アルルの華奢な体を、後ろからそっと抱きしめたい衝動に駆られた。


 そんなことを考えながら扉の前で立ち尽くしていると、不意にアルルはこちらを振り返り、笑みを浮かべて「こんばんは!」と声をかけてくれた。いつも通りの自然な笑みだ。



「問題は解決しましたか?」


「うん、バッチリだよ」


「それはよかった!」



「お疲れでしょう、まずは座ってください」と促され、ヨシュアはアルルの右隣に座る。

 その時、アルルの方からふわっと、優しい香りが漂ってきて、思わずドキッとしてしまう。どうして女性はこれほど素敵な匂いがするのだろう。不思議で堪らなかった。アルルのことを意識しすぎて、何も会話が浮かんでこない。


 アルルはまた夜空を見上げる。

 そして独り言のように呟いた。



「それにしても、今年は花火の時間が例年より早かったみたいで残念です。できればヨシュアさんと一緒に見たかったのですが…… 」


「ああ、あれは違うよ。本物の花火はあとでちゃんと上がるって」


「え、そうなのですか!?」


「うん。運営本部の人に聞いたから間違いないよ」



 目を丸くして驚くアルルに、ヨシュアはギルバートが仕掛けた大掛かりな作戦をかいつまんで話した。



「そうだったんですね。てっきりもう終わってしまったのかと。いや、でも確かに話に聞いていたよりずっと小規模で、おかしいなぁ、とは思ってたんですけど」


「何も事情を知らなければ、勘違いするのも仕方ないよ。実際、ステージ近くにいた人々も、花火が打ちあがった瞬間は、みんなして夜空を見上げていたからね。全員がギルバートに騙されていたってわけ」


「でもヨシュアさんは騙されなかった」


「まあ、そうなるのかな。…… あっ、あれ、始まったんじゃない!?」





 夜空に上がる一筋の閃光。

 そして鮮やかな光が大きく花開く。

 僅かに遅れて、遠くから乾いた音が耳に届く。





「うわぁ、素敵だなぁ。本物は迫力が違いますねっ!」


「うん、さっきのまばらな花火とは比べ物にならないや」



 花火は次々と惜しみなく夜空に上がっては、色とりどりの大輪の華を咲かせていく。花火の種類もさまざまで、飽きることなくずっと見ていられそうだ。


 とはいえ、花火に見とれてばかりではいられない。今日は目的を持ってアルルに会いに来たのだから。

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