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片腕の盾使い、騎士を志す  作者: ニシノヤショーゴ
豊穣祭編
121/154

猟犬

 世界樹付近に現れた「光の柱」を調べるため、現地へと足を運ぶことにしたオーウェンたち三人。元々世界樹の根元を目指していたこともあり、目的地まではさほど遠くはない。


 オーウェンは今まで幾度となくエルベール大陸に足を運んできた。初めて上陸したのはおよそ七年前だったろうか。危険だからと誰も足を踏み入れたがらないが、オーウェンにとって此処は間違いなく宝の島。常に死と隣り合わせではあるが、その分見返りもデカい。それに知識と経験を積めば、如何にエルベール大陸と言えどある程度危険は回避できる。



 磨き抜かれた直感を頼りに、三人はスイスイと目的地に向け進んでいく。

 足を止めるな。姿を晒すな。魔物の目を見るな。そして何より、この異様な空気に呑まれるな。姿勢は低く、姿を隠しながら移動し続ける事が大事だ。そうすれば少なくとも大型の魔物に狙われることは無い。



「この辺りだったな…… って、やっぱりアイツらか」



 あれから一時間ほど走った。光の柱が出現したであろう場所の近くまで来てみると、オーウェンの予想通りそこに人影が見えた。

 ────エテルマギアの兵士である。


 まあ、でもこれは予想通り。オーウェンたち以外にエルベール大陸にいるとすれば、それはエテルマギアの兵に違いないのである。

 一先ずオーウェンたち三人は茂みに身を隠し、兵たちの会話を盗み聞くことにする。




 兵士たちは十人ほど。その中でも偉そうな幹部が何やら難しい顔をしている。

 此処で何かしらの実験を行われていたのだろうか。それが失敗に終わったから難しい顔をしている、といったところか?


 オーウェンは兵たちの足元を見た。そこには魔法陣らしきものが描かれている。だが、この島ではそれは特に珍しいものでもない。この島には他にも魔法陣が存在しているからだ。

 とはいえ、あの魔法陣が光の発生源だとすると話は変わってくる。今まで用途が不明だった魔法陣の存在意義を解き明かしたという事なのだから。



 風向きが変わった。兵たちの会話が切れ切れに聞こえてくる。



「うんともすんとも言いませんね。何をやっても起動まで。どうやっても光の柱は現れません」



 どういうことだ?

 アイツらが何かしたんじゃねーのか? それともさっきの光は偶発的なもの何か?



「隊長! この付近に足跡を発見しました! それも二人。明らかに我々のものではありません」


「足跡だと?」


「はい。そのうち一人はブーツのようなものを履いていると思われます!」


「こんな危険な島にブーツでか? それで、その足跡は何処に向かっている?」


「はっ。南東方面へ向かっていると見られます。足跡と同様に血痕も見られましたので、もしかしたら負傷しているのかもしれません…… 」






「────おい、行くぞ」



 オーウェンはヘルバとラルフに声をかける。



「え? 行くって何処へ?」


「決まってるだろ。足跡を追うんだよ。此処には俺たちとエテルマギアの連中以外にも誰かがいる。その誰かが光の柱を出現させたんだ。そうと分かればさっさと行動して、その誰かとやらをアイツらより先に捕まえるぞ」


「マジかよ…… 」



 気乗りしない様子の二人を置いて、オーウェンは既に走り出していた。久々に獲物を追う猟犬になった気分である。宝探しとはこうでないとな。オーウェンは自分の痕跡を残さないように注意を払いながら、南東へと向かった。



 兵士たちが話していた通り、足跡はすぐに見つかった。獣道を普通に歩いていたようである。何処からどうやってきたかは知らないが、この二人は明らかに素人だ。しかも血の跡がある。さっそく負傷したって訳だ。


 足跡はそこから一つになった。もう早や一人喰われたかと思ったが、血の跡はその後も点々と続いている。負傷した方が生き残ったのか、あるいは負傷して動けなくなった方をもう一人が担いで逃げたか。


 足跡の主は途中から脇道に逸れて、道なき道へと入っていった。獣道が危険だとようやく気付いたらしい。一歩一歩が大きい事から、何かに追われて走って逃げていたのかもしれない。相変わらず血は点々と続いている。

 情報吐く前に喰われるんじゃねーぞ。



 その後、大きな血の溜まりを見つけた。ぼたぼたと血が滴り落ちた跡がある。何かが大型の魔物に捕食されたのだと、オーウェンはすぐに分かった。なんとも呆気ない。此処まで来て無駄足かよ。勘弁してくれ


 だが、その血の跡の先をよく見てみると、足跡はまだ先へと続いているではないか。しかも途中から足跡はまた二つになった。ブーツの主はまだ生きていたようである。思わずオーウェンは「やるじゃねーか」と、魔物に追われながらも生き残った二人に賛辞を送った。



「まだ足跡は続いているみたいだが、まだ追うってのか、オーウェン」


「当たり前だろ? 此処まで来て止められるかよ」



 ヘルバの言葉にオーウェンは即答した。こんな面白い事見逃せる訳が無い。ヘルバとラルフは目的地である世界樹からどんどん遠ざかっているのが気に喰わないようだが、そんなのお構いなしだ。


 待ってろよ、二人とも。必ず俺が捕まえてやる!

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