ラスティの意外な答え
旅立つまでの三日間に、ヨシュアの決意を聞いて欲しい人が両親の他にもう一人いる。それはもちろん兄弟子のラスティだった。
そしてその願いは旅立つ前日に叶った。
またいつものようにエルザの家を訪れると、アリストメイアからわざわざ船に乗って、ヨシュアの住むレント村までやってきてくれたラスティが待っていた。
ヨシュアは試験の結果を報告しようとする。
「あの、ラスティさん、俺…… 」
「結果はエルザさんから聞いてる。惜しかったな」
「すみません。あんなにラスティさんに稽古をつけてもらったのに」
「いや、ある意味当然の結果だろう。とりあえずこっち来て座れよ」
ラスティはそういって扉の前で立っていたヨシュアを手招きする。ヨシュアはラスティの隣に座ると、先ほどラスティが言った「ある意味当然の結果」という言葉の意味を尋ねる。
「どういう意味かって? そりゃあお前、まだまともに攻撃手段持ってないだろう? それじゃあその辺の騎士レベルを相手にするならともかく、聖騎士になろうとするようなエリート相手に決め手がないんじゃ、どうやったって<決闘>の試験で落とされるだろう」
「受ける前から分かっていたんですか?」
「まぁ、きっと落ちるだろうなと。本来なら当初の予定通り<魔法人形>のレベル7の攻撃を凌げるようになったなら、もう少し攻撃について教えるつもりだったんだが…… 結局俺はそうしなかったしな。だからまぁ試験に落ちたのは俺のせいだから、あんまり落ち込むなよ」
ラスティはいつも通りの淡々とした表情で語る。
あまりにも意外な言葉にヨシュアは戸惑う。しかしラスティのことだから何か考えがあったのだろうと、信頼しているからこそヨシュアはラスティの真意を聞かずにはいられなかった。
「え、そうだったんですか? でも、何か理由があるんですよね?」
「ああ。あの時、俺の想像よりもずっと早くレベル7の攻撃を凌ぐお前を見て、俺はお前が凄く伸び盛りに感じたんだ。きっとこのまま鍛錬を重ねてレベルを上げていけば、お前はもっともっと盾使いとして覚醒すると思ってな。だから俺は『目先の見習い試験』よりも『盾使いとしての成長』を選ぶことにした、そういうわけだ。相談も無く勝手に決めて悪かったな」
「いえ、そんなことないです。俺よりずっと俺のことを考えてくれていたんですね……」
ラスティはヨシュア以上にヨシュアの将来を考えてくれていたことに感謝の気持ちしかなかった。
たしかに聖騎士になることはヨシュアの夢であり、そのために最短で聖騎士をめざしていたのは間違いない。だが実際に試験に落ちて、それから少し冷静になってみて、そんなに焦って聖騎士を目指す必要も無いと思い始めていた。けど、その感情は本当に正しいものなのか、少し不安だった。
そんなヨシュアにとって、今のラスティの言葉はとても大きな意味を持っていた。そう、優先すべきは『目先の合格』より『将来』であることと、一番信頼している人物に言ってもらえたのだ。
「そういえばお前、エルザさんから聞いた話では明日にでも旅に出るんだろう?」
「はい、マーセナルまで行ってみようかと。そこで傭兵団の一員になって経験を積んでみようかと思っているのですが、ラスティさんはどう思いますか?」
「どう思うも何も、お前の中ではもう答えは出ているんだろう?」
「そうなんですけど、やっぱり相談しておきたくて…… 」
「俺は良い考えだと思うぞ。『外の世界を知りたい』という想いは、きっともっとお前を強くする。それに、そろそろ攻撃に関する立ち回りも真剣に考えないといけないしな。少し環境を変えて、いろんな戦い方を観察するのもいいだろう。盾使いは特殊だから、俺一人がアドバイスできることも限られているだろうし」
ラスティの言葉にヨシュアは力強く頷く。
ラスティの言葉はいつもヨシュアの考えを整理して補強してくれるので、他の誰の言葉よりも力になる。やっぱり相談してよかった。
「<魔法人形>はマーセナルにも持っていくんだろう?」
「はい、宿が決まってから後で親に送ってもらう予定です」
「とりあえずレベル5ぐらいまで下げて色々試してみるといい。あんまりレベルを上げすぎると考える余裕が無くなるからな。しっかりと攻撃のイメージを持って<魔法人形>相手に試すんだ。ただ、あくまでお前は『盾使い』だ。攻撃に意識を割きすぎて守りをおろそかにするなよ?」
「わかりました」
「まぁ、もし盾使いとしての腕がなまりそうだと感じたら、またレベル9のガトリーさんに徹底的に鍛えてもらえばいい。それからマーセナルなら、俺もそのうち任務で行くことがあるかもしれないから、その時はまたお前を鍛えてやれる。だから、今度俺と会うまで鍛錬はちゃんと続けろよ?」
「はい……! 向こうで会えるの楽しみにしてます!」
マーセナルでの楽しみがまた一つ増えたことを、ヨシュアは心の底から嬉しく思ったのだった。




