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片腕の盾使い、騎士を志す  作者: ニシノヤショーゴ
豊穣祭編
107/154

さっそく行きましょう

 父親を説得すると息巻いて部屋を出たソーニャ。娘を大事に想うジフカが、彼女のマーセナル行きを簡単に認めるとは思えないが、それでもソーニャなら最後には説得してしまうのだろうとヨシュアは予想した。

 そしてやはりヨシュアの思った通り、時間こそかかったものの、ソーニャは父親を説得して戻って来た。



「ヨシュア! 来週から行くわよ!」



 自室へと戻っていたヨシュア。ソーニャはその部屋の扉を開けるなり言った。



「行く、と言うと、やはりマーセナルへですか?」


「もちろん!」



 ソーニャは何故か部屋の入り口付近で仁王立ちしている。そしてとても満足気な表情を浮かべている。早くもマーセナルでの日々を想像しては、心躍らせているようだ。



「向こうで生活するのは良いとして、何処に住むつもりですか?」とヨシュアは尋ねた。「それと、マーセナルでは一人で生活するつもりですか?」



「住む場所はこれから決める。一人暮らしは流石に許してくれなかったから、ファウストが来てくれることになってるわ」



 御者であり、使用人であるファウスト。いつも気難しそうな表情をしていて、ヨシュアからすれば少し苦手な人物に当たる。でも真面目な人物であるから、信用はできる。ジフカが彼を付き添わせるのも分かる気がする。今回のソーニャの決定に対し色々と気になる事もあるが、ファウストが身の回りの世話をしてくれるなら任せて大丈夫だろう。



「そうと決まれば荷物をまとめなくちゃね。あなたは…… そう言えばほとんど荷物も持ってきてなかったから、あまり準備も必要なさそうね。そうそう、あの人形さんも、もちろんマーセナルまで持ってきてくれるのよね?」



 ソーニャがヨシュアに期待するのは<魔法人形マギアドール>である。いつもヨシュアが訓練で使用している物を、宿の人に頼んで後から送ってもらったのだが、それにソーニャは強く関心を示した。そして「私もこれを使って訓練してみたい」と彼女は言った。

 確かにレベルさえ調整すれば良い運動相手にはなりそうだ。そう考えたヨシュアは、ソーニャに貸し出しすことにした。それ以来、彼女は毎日のように訓練に打ち込んでいる。熱心に、そしてとても楽しそうに。



「もちろん持っていきますよ。置いていく理由は何もありませんし、あれが無いと俺も困ります。持ってきた中で一番大事なものですから」


「そうよね。私ったら、当然の事を聞いてしまったわ!」



 その声は意気揚々としていた。楽しそうな彼女の声を聞いているだけで、此方まで不思議と楽しくなってくる。ソーニャが持つ前向きなパワーと、その魅力を知れば、きっとマーセナルでも多くのファンを獲得できるだろうとヨシュアは思った。







 そんな訳でヨシュアは十日ほどでマーセナルへと戻って来た。十日を「つい先日」と捉えるか、それとも「久しぶり」と捉えるかは意見が分かれるところだろう。


 ヨシュアはまた宿で一人暮らしをする事になった。宿の店主の計らいで、慣れ親しんだいつもの部屋を用意してもらった。

 その一方で、ソーニャたちはマーセナルの街の中心から少し外れた場所に立地する空き家に住むことになった。空き家と言ってもそれなりに広く、二か月間の仮の宿と見れば立派過ぎる家だろう。綺麗さも申し分ない。ちなみにだが、ヨシュアが暮らす宿からは比較的近いので、その点は有り難い。



 ソーニャがマーセナルに着く前に荷物の引っ越しは完了していた。すでに運送会社に頼んで終わらせていたのだ。その辺りはさすが金持ちの家なだけはある。だからマーセナルに越してきたその日から、ソーニャは快適な日常を送れるという訳だ。



 朝からニューポートを出発して、今はお昼を少し過ぎたところ。一日を終えるには早すぎる時間だ。ソーニャはさっそくとばかりに「ヨシュア、街を案内してちょうだい!」と言った。


 さて、何処に彼女を案内しようか。



「そうですね。せっかくですからギルドホームにでも行きませんか? この前と違って、今の時間ならとても賑わっていると思います。多くの人と知り合えると思いますよ。昼食もまだですし。ああ、でもお口にあうかは分かりませんけど」


「ううん、それは心配しなくてもいいわ。むしろ、皆が普段何を食べているか見てみたいし。そうと決まればさっそく行きましょう。私の魅力を沢山の人に知ってもらうためにもね!」



 ソーニャは無邪気にはしゃいでいる。

 その傍らで、ファウストがやけに冷たい目をして此方を見ていたことに、ヨシュアはまだ気が付いていなかった。

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