表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
片腕の盾使い、騎士を志す  作者: ニシノヤショーゴ
豊穣祭編
102/154

期待していますよ、ワレスさん


 ────さて、どうしたものか。



 目の前に並べられたお皿の上には、もうほとんど料理が残っていなかった。つまり、食事の時間も終わりに近づいているということだ。この後のアルルの予定は知らないが、きっと彼女のことだ。きちんと午後の予定を立てているに違いない。


 ヨシュアの今日の目標は「豊穣祭」の話題にふれること。ただそれだけでよかった。いきなり踏み込み過ぎても、何だか失敗してしまいそうだと感じていた。

 その意味では、本日の目標は見事に達成した。はずだったが…… まさか、アルルが出店する側に回るとは思いもしなかった。その可能性は十分にあったのに、まったく予想していなかったのだ。



 ヨシュアはそれとなくアルルの興味の矛先を変えようとしてみる。



「アルルはてっきり祭りを見て回る側だと思っていたよ」


「もちろん、そのつもりでもいますよ」



 ────()()()()()()()



「それって、両方楽しむつもりってこと?」


「そうです。お店といっても一人で切り盛りする訳ではありませんからね。交代で祭りを見て回ることになると思います」



 アルルは自分の他に三名の女性の名を口にした。雑貨屋を営む女性を中心に、それぞれ手作りの品を店に並べる計画らしい。豊穣祭は規模の大きなお祭りとはいえ、さすがに三日間何もせずに見て回るだけだと飽きもする。だから地元の人はお店を出し、交代で祭りを見て回るのが普通なのだそうだ。



「ヨシュアさんも<浮雲の旅団>のメンバーとして、何かされるんですか?」


「うん、祭りの警備か、もしくは豊穣祭を盛り上げるための何かを担当することになるみたい。何するかはまだ全然分からないけど」


「なるほどー、<浮雲の旅団>はメンバーも多いですから、色々とやれることがありますものね。それはそれで楽しみです!」


「去年はステージでワレスさんが歌を披露したらしいよ」


「ええ!? それはぜひ今年も聞いてみたい!」



 身を乗り出すようにして全身で興味を示すアルルに、それじゃあ頼んでみるよ、とヨシュアは言った。「俺もワレスさんの歌に興味あるし、もし今年も歌ってくれるようなら、一緒にステージに聞きに行こうよ」


「いいですね! もちろん、ご一緒させていただきます!」







 店を出ると、アルルとはそのまま別れた。夜の遅い時間という訳でも無いので、わざわざ家まで送るのも不自然だと思った。


 特にこの後の予定も無かったヨシュアの足は、自然とギルドホームへと向かっていた。その道中、ヨシュアはこれからのことを考えてみる。


(まずはワレスさんを探して、今年の豊穣祭もステージに立つのか尋ねよう。それから豊穣祭にて<浮雲の旅団>がどのような活動を行っているのか、もっと具体的に教えてもらおう。そうでないと予定が組み立てられない。それと、出来ればステージのタイムテーブルも早めに知りたいな)


 もし、花火のタイミングで仕事が入ったらどうしよう? 十分に考えられる話だ。さすがに「その時間だけは仕事をフリーにしてください」などどは決して言えない。傭兵としての責務もそうだが、花火の時間に告白しようとしているのがバレてしまう。余計な横やりはできるだけ避けたい。


 でもまあ、深く考えないでおこう。あくまで豊穣祭も花火もきっかけに過ぎない。それを逃したからと言っても死ぬわけじゃない。絶好のチャンスかもしれないが、最後のチャンスという訳では無いし。



 そんなことを考えていると、いつの間にかギルドホームまで辿り着いた。時刻は十三時をまわったところ。日はまだまだ高い。大きな扉を名一杯に押し開けると、やはりそこは賑わっていた。いつもと変わらぬ活気に満ちた場所だった。


 店内を見渡していると「ヨシュア!」と大きな声で呼ばれた。見上げた吹き抜けの先にはスキンヘッドの男。こっちへ来いと誘ってくれる。これ幸いとヨシュアも二階へと駆けあがる。


 真っ昼間から酒を喰らうワレスは耳から鼻先まで真っ赤に染めている。



「こんにちは、ワレスさん。あの、俺、昨日聞いたんですけど、去年豊穣祭のステージに立ったそうじゃないですか。今年はどうするんですか?」


「おっ、よく知ってるな! もしかして期待してくれてんのか?」


「はい。俺と、それからアルルも。ぜひ歌ってる姿を見てみたいって、彼女、目を輝かせていましたよ」


「へへっ。そうかよ。まだ今年はどうするか決めて無かったが、そんなに期待されちゃあしょうがねぇなぁ!!」



 ガハハ、と豪快に笑うワレス。大きく開けた口から酒の匂いが漂ってくる。

 でもそんなことは気にしない。ヨシュアは期待を込めてワレスを見た。



 ────よし。これで予定を一つ確保できた。意外と幸先がいいかもしれない。思わず顔がほころんだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ