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片腕の盾使い、騎士を志す  作者: ニシノヤショーゴ
豊穣祭編
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ご予定はいかがですか

 その日、ヨシュアはアルルを昼食に誘ってみた。ギルドの受付に薬を納品しに来たアルルと出会い、そのままお昼ご飯を食べる流れになった。まあ、正直に言えば、偶然を装いアルルを計画的に昼食へと誘った、と表現すべきなのだが。


 とにかくヨシュアはアルルをお昼に誘った。ギルドホームは混雑していてゆっくり話もできそうにないだろうから、予め別の場所を探しておいた。街外れだがウィンベルに近いこの場所なら、アルルの帰り道でもあるので、彼女にとっても都合がいいはずだ。



 店の名前は<安らぎの色彩亭>

 珍しい野菜を使った創作料理を手ごろな値段で食べられるらしい。初めて利用する店なのでよく分からないが、リコッタとミントのおススメなら間違いも無いだろう。アルルは変わったものが好きだし。


 白と緑を基調とした店内は明るい印象だが、内装自体は特別変わったところはない。いたって普通の、清潔感に溢れた綺麗なお店だ。

 お昼時にしては少し早い時間なので、店内にはヨシュアたちの他に一組の若いカップルしかいない。楽しそうに会話する恋人たちを横目に、ヨシュアは案内された席にアルルと座る。日当たりのいい窓側の席だ。



 少し落ち着かないので、ヨシュアはちらっと窓の外の景色を眺めてみる。その一方で、向かいに座るアルルはさっそくメニューを見て目を輝かせている。いつも通りのアルルの姿に、勝手に緊張している自分が可笑しく思えてくる。



「うわー! 風変わりな料理が多いだけでなく、種類も凄く豊富ですね!」


「アルルから見てもやっぱりそうなの?」


「はい、それはもう! あっ、この”メニラニ草”ってお薬にも使われたりする栄養価の高い植物なんですけど、これを料理に使っている店は初めて見ました。それにこっちの料理はニルローナの伝統的な料理で、アリストメイアではなかなかお目に掛かれない逸品ですよ!」


「へー…… じゃあ俺、それにしよっかな」


「あ、今、面倒くさがりましたね? ちゃんとメニューを見て決めないとお店に失礼ですよ?」



 そういうものなのか?

 それじゃあ、あまり冒険せずに同じ料理ばかり頼む自分は、いつもお店に失礼を働いていたことになるのか?


 でも考えてみれば、お店側としては、自分たちの考えた料理に興味を持ってくれるアルルのような客は嬉しいに決まっている。創作された料理には、想像もつかない様な努力と工夫が隠れているはずだ。その一つ一つに向き合い、思いを馳せてくれるアルルのような人間は、他の人に好かれて当然だと思うし、アルルの言うように、自分は少しばかり失礼だったのかもしれない。



 気を取り直し、ヨシュアはアルルと一緒にメニューを覗き込む。それから店員を呼んで、料理を注文して、一緒に取り皿も頼む。アルルが「せっかくなので分け合いましょう」と言ったからだ。


 それから料理が運ばれてくるまでは他愛もない会話を楽しんだ。料理が来てからは、それぞれ一口食べては感想を言い合って、それから互いの料理を分け合った。もうこれだけで満足しそうなほど楽しんでいる自分がいた。



 ただ、一番の目的は料理を楽しむことじゃない。

 ヨシュアはそれとなく”豊穣祭”の話題を切り出してみる。



「もちろん知ってますよ! わたしも受付に飾られた日めくりのカレンダーを見て、ああ、もうこんな時期なんだって。一年って早いなーって、思っちゃいました!」


「去年は参加してたの?」


「それがですねぇ、ニルローナからウィンベルに来たのは、ちょうど豊穣祭が終わった後だったんですよ」



 そう言ってアルルは悔しがった。「あと少し早ければ参加できたのになぁ」と頬を膨らませる。

 でもアルルには悪いが、ヨシュアは少しほっとしていた。去年誰かがアルルと花火を見ていたとしたら、もし誰かが告白していたとしたら、ヨシュアとしてはあまり気分の良いものでは無いからだ。たとえその人と今現在付き合いが無かったとしても、である。



「じゃあ今年は参加するんだ?」


「もちろんですよ! ああ、どんなお店を出そうかな~」



 え、出店するほうですか?

 思わず声に出して尋ねてみると、アルルはにっこりと笑って「はい、凄く楽しみですよね」と。

 まさかの一言に、ヨシュアは苦笑いを浮かべるほかなかった。


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