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そこはかとなく漂ってくるポンコ……いや何でもないです

「不思議な人だったな」

「ああ……っていうか、大丈夫なんかな、あれ?」

「まあ、ここから遭難するのも中々に難しいだろうし、大丈夫じゃない?」

 システィさんがいなくなって。俺たちはそんなことを言い合っていた。……先程まで餓死しかけていた彼女を一人にはしたくなかったが、足取りもしっかりしていたし、大丈夫だろう。余っていたお菓子も持たせたし、また空腹で倒れる心配もないはずだ。

「さて。ハプニングもあったが、活動を再開するか」

 そう言う先輩に従って、俺たちは再び歩き始めた。

「うーん……」

「メルティ、どうかしたのか?」

 歩き始めてすぐ、俺はメルティの様子がおかしいことに気づいた。……そういえば、システィさんと会ったときも彼女はあまり喋らなかった。何かあったのだろうか?

「システィさん、なんかどこかで会ったような気がする」

「そうなのか?」

「でも、会ってないような気もするの……」

 メルティは釈然としない様子で、そんなことを言い出した。会ったことがないはずなのに、どこかで会ったような気がするってことか。

「どっちなのかはっきりしたらどう?」

「そんなこと言われても……」

「あんま虐めてやんなよ。たまにそういうことってあるだろ?」

 曖昧なメルティの態度にイラッとしている夏海と、それを窘める冬樹。……システィさんはアニメに出てきそうな風貌だったし、メルティの既視感はそれかもしれない。けれど、決してそれだけが理由ではないような気もする。

「何なのかなぁ……?」

 そこでふと、俺は妙な考えが思い浮かんだ。……俺たちが探しているのはUFOだ。UFOには宇宙人が乗っている場合もあるだろう。そして、メルティは宇宙人の血を引いている。そんな彼女が言うのであれば、もしかすると―――

「いや、そんなわけないか」

 ふと頭に浮かんだ可能性を、俺は首を振って掻き消すのだった。いくらなんでも、荒唐無稽が過ぎるからな。



  ◇



「……あれ?」

 その後も十分ほど歩き続けて、早くもこの山歩きに飽きてきた頃。メルティが急に立ち止まった。何かあったのだろうか?

「どうしたんだ?」

「あそこ、枝が折れてるの」

 メルティが指差したのは、木々の生い茂る林の中。しかし、彼女が言うような折れた枝は見当たらない。

「うむ……確かに、折れてる枝があるな。かなり遠くで、目を凝らさないと見えないが」

 黒原先輩も折れた枝を見つけたらしく、そんなことを言った。……俺はそんなに目が良くないから、未だにどれのことを言っているのか分からない。メルティも先輩も随分目がいいな。

「とにかく、行ってみるか」

 先輩はそう言って、林のほうへと歩いていく。……確かに、そもそも今回の趣旨はUFOの探索だ。それを考えるなら、怪しい場所を調べるのは当然だろう。けれど、歩道と違って、林は人が踏み入るための整備がされていない。恐らくは、山を維持するための最低限の手入れしかされていないはずだ。素人が迂闊に立ち入っても、まともに歩けないか、最悪迷子になる。

「先輩、そっちは―――」

「君たちはそこで待っていてくれ。少し調べたらすぐ戻る」

 俺は先輩を止めようとしたものの、先輩はそう言い残して林の中に入ってしまう。……猪突猛進というか、目標が見つかると真っ先に突っ込んでいくタイプなのだろうか?

「どうするの?」

「どうするったって……このまま一人で行かせていいわけないだろ」

 そんな先輩に若干呆れ気味の夏海と、そんなことを言い合う。……山を侮ると痛い目を見る。アニメとかじゃあ、山での遭難なんてイベントは珍しくない。それに、システィさんという前例もある。先輩を一人にすれば、システィさんの二の舞になる可能性が高い。

「俺が追いかけるから、メルティたちはここで待っていてくれ」

「あ、ちょっと……!」

 俺は皆にそう告げて、先輩を追い掛けた。今ならまだ、先輩の背中を追える。林の奥に入られる前に追いつかなければ。



「先輩……!」

 俺は先輩に声を掛けた。林の中は悪路であったが、先輩もあまり早くは進めなかったのか、なんとか追いつけた。

「春彦君……どうしたんだい?」

「どうしたもこうしたもないでしょう。勝手に一人で行ったら心配しますよ」

 俺が追いかけてきたことに驚く先輩だが、こっちからすれば追いかけて当然だ。あんまり心配させないで欲しい。……いやまあ、俺も皆を置いてきたから、あんま人のことを言えない気がするけど。

「そうか……すまない。UFOの痕跡を見つけて舞い上がってしまった。確かに軽率な行動だったな」

 すると先輩は、そう言って頭を下げた。俺に咎められて、冷静になったみたいだ。

「……どうして、そんなにUFOに拘るんですか?」

 そんな先輩に、俺は尋ねた。……今までは、先輩の事情に深く踏み入ろうとはしなかった。けれど、こんなことになったからには、せめて事情だけでも聞かなければ。あんまりこんなことが続くなら、オカ研を退部することも検討しないといけないからな。

「……そうだな。少し、話しておくか」

 さすがに全く事情を話さないというわけにもいかないと分かってくれたのか、それとも別に隠す気もないのか、先輩は近くの木にもたれ掛かりながら、ゆっくりと語り始めた。

「私の両親は学者だったんだ。専門は宇宙―――特にUFOや宇宙人について熱心に研究していた。いずれは、宇宙人の存在を証明するのが目標だったのさ」

 話の内容自体は、別に何の変哲もない。親の仕事に子供が憧れるというのはよくあることだし、宇宙人について研究している学者だって大勢いるだろう。聞いてしまえば、ああなるほど、以上の感想は出てこないものだ。ただ、気になるとすれば、先輩が話すことは何故か過去形だった。それはつまり―――

「だがある日、フィールドワークに向かう途中で、乗った飛行機が墜落してな……二人とも帰らぬ人となったよ」

「……」

 先輩の言葉に、俺は声も出なかった。両親を失ったという話をされても、うまい切り返しなど浮かんでくるはずもない。

「まあ、もう十年近く前の話だ。引き取ってくれた親戚も良くしてくれてるし、何不自由することもない。……悲しくないわけではないが、もう心の整理は出来ているさ」

 そんな俺の心情を察してなのか、先輩はそう続けた。そうして暫し儚げに微笑んでいたが、やがて表情を真剣なものに変えた。

「だが、両親の悲願は果たしたいと思っている。二人の研究を私が引き継ぐ―――いや、二人が終ぞ成し得なかったことを成したい。それが私の夢だ」

「だから先輩は……そこまでUFOに執着するんですか?」

「まあな。……こんなことをする前にもっと大学受験に身を入れるべきだとは思うし、こんなものは子供のお遊びなのも理解している。けれど、目の前に研究するべき対象がいるのに、無視するなんて出来ないだろ?」

 そんな風に口にする先輩は、真剣ながらも、どこか夢見る子供のような笑みを浮かべていた。……そこまでの思い入れがあるのならば、後先考えずに動いてしまうのも無理からぬことか。いやまあ、集団行動の和を乱す真似は謹んで欲しいけど。

「さてと。折角ここまで来たんだ。私たちで探索を終えてしまおう」

「え」

 すると、先輩は林の奥へと足を向けた。確かに、折角ここまで踏み込んだのだから、このまま探索してしまいたい気持ちは分かる。けれど、メルティたちを置いてきているし、このままでいいものか。

「……仕方ないか」

 とはいえ、あんな話を聞いた後だと、止めるのも気が引ける。俺はメルティにメッセを飛ばしてから、先輩を追いかけることにした。

「ここだな」

 暫く進んだところで、先輩は立ち止まった。傍の木を見ると太い枝が折れている。恐らく、メルティが言っていた枝だろう。……結構奥まで来たな。辛うじて来た方向は分かるが、これ以上先まで行くと帰れなくなりそうだ。

「周りは特に荒れた様子もないのに、何故かここだけ枝が折れているな。しかも、自然な折れ方じゃないし、折れたのもつい最近のようだ……妙だとは思わないか、春彦君?」

「まあ、確かに……」

 聞かれて、俺は今更ながら、先輩が何を思ってここまで来たのか理解した。もしもUFOが落ちたのなら、落下地点周辺は破壊されているはずだ。けれど、ここにはそんな痕跡はない―――この枝を除いて。

「不自然な隠蔽工作の気配……これは、詳しく調べなければな」

 先輩はそう言って、折れた枝がある木の周囲を調べ始めた。

「枝の折れ方を考えると、落下地点はこちら側のはず―――っと!」

「先輩……!」

 しかし、先輩はすぐに蹴躓いてしまった。先輩を助けようと、俺は咄嗟に彼女の腕を掴んだのだが―――

「わわっ……!」

「おぉっ……!」

 突然地面が沈み込んで、俺と先輩はその中へと落ちてしまうのだった。

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