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刺激的な従妹と性癖と


  ◇



「ふぅ……」

 夜になって。俺は寝る準備をしていた。……現在午後十時。いつもは日付が変わるまで起きているのだが、今日は色々あって疲れた。早めに寝たほうがいいだろう。

「ハルヒコ……」

 すると、メルティが訪ねてきた。髪を解き、ピンクのパジャマに着替えた彼女は、不安げに枕を抱いている。

「どうかしたのか?」

「えっと……一緒に、寝てくれないかな?」

「……は?」

 俺の問い掛けに、メルティはそう懇願してきた。……ちょっと待て。今の聞き間違いじゃないのか? 或いは、主語を勘違いしているのか。

「一人だと寝付けなくて……ハルヒコと一緒に寝ても、いい?」

 だが、勘違いの可能性はなさそうだ。……何度も忘れそうになるが、彼女はまだ三歳。親と一緒に寝るのが当然の年齢である。叔父さんたちは既に帰ってしまい、メルティだけが我が家に残された。親元を離れて、不安になったのだろう。

「けど……」

 それは分かるが、さすがに同衾はまずくないか? そりゃ普通なら、三歳の従妹と寝たところで何も問題ない。だが、メルティの場合は違う。彼女の体は、年齢不相応なまでに成熟している。健全な男子である俺が―――まして、メルティを相手に、手を出さないでいられる自信がない。何せ、俺は……。

「駄目……?」

「うっ……」

 けれど、彼女には理解できない話だろう。俺が重度の特殊性癖―――異種族フェチを抱えているなど、普通は思い至るはずがない。……俺は重度の異種族好きである。獣耳は当然として、頭がほぼ獣の半獣人も守備範囲に入る。他にもエルフやラミア、ハーピーにスキュラにドリアードにマーメイドなどの異形種、スライム娘にゾンビに単眼、鬼娘に天使っ娘に悪魔っ娘や魔族だろうが、例えアンドロイドでもどんとこいという無節操さ。当然ながら、宇宙人も守備範囲内である。メルティの場合、系統としてはスライム娘だろうか? それとも、擬態能力があるからシェイプシフター系? いや、触手プレイはスキュラが近いか? いずれにしても、彼女は俺の趣味にどストライクなのである。それに、昼間のやらかしもある。メルティが隣で寝ていたら、あのときみたいに―――もしくは、あのとき以上のことをしてしまうかもしれない。そうなれば、うかつに同衾など出来るわけもなかった。

「私のこと、嫌いなの……?」

 そんな俺の葛藤など知る由もないメルティは、悲しげに目を潤ませた。そんな表情をされると、こっちが悪いみたいに思えてしまう。いや、実際問題、俺の性癖が悪いんだが。

「……分かったよ。一緒に寝よう」

「ほんとに! やったー!」

 観念して承諾した俺に、メルティは一転して笑顔になった。……この子、意外と小悪魔なところあるな。将来が不安で仕方ない。



「おやすみー」

「ああ、おやすみ」

 メルティと共に布団に入り、照明を落とす。シングルベッドに二人で寝るのはやや窮屈だが、それ自体は別に問題ではない。

「すぅ……」

 傍らのメルティは、すぐに寝息を立て始めた。やはり、隣に誰かがいるというだけで安心できるのだろうか? ……けれども、こちらは安心なんて出来はしない。吐息が顔に掛かるくらいの距離で異性が寝ているのだから、安眠なんて夢のまた夢だ。

「これ、どうしたもんかな……?」

 異性と一緒に布団に入るなど、小さい頃に母親か幼馴染と寝たくらいである俺には刺激が強すぎた。意識するほうが不純なのだろうけど、分かっていてもどうにもならない。

「一回出るか……?」

 そもそも、同衾しているのはメルティが寝付けなかったからだ。今ならもうその必要もないだろう。俺なら毛布に包まって床で寝てもいいし。

「おっ……?」

 だが、そんな俺の思考を読んだかのように、腕を掴まれた。……しまった。メルティが起きてしまったか。

「すぅ……。すぅ……」

 けれど、メルティは規則正しく寝息を漏らしていて、目を覚ました様子はない。眠ったまま、俺の手を掴んだのか?

「パパ……。ママ……」

「あ……」

 そして聞こえてきた寝言に、俺はハッとさせられる。……家族と離れて暮らすことになったメルティは、恐らくは生まれて初めて、寂しさというものを経験した。だから、俺のところに来たんだ。誰かの温もりを感じたくて―――いや、一人が怖くて。

「……ったく」

 それが分かると、メルティが年齢相応の女の子にしか見えなくなった。いやらしい気持ちなど、吹き飛んでしまう。

「……おやすみ、メルティ」

 俺は彼女の頭を軽く撫でて、目を閉じる。睡魔がすぐに襲ってきて、俺の意識は闇に落ちるのだった。



  ◇



「いよいよ明日か……」

 それからも、メルティとの生活は続いた。メルティに町を案内したり、新しい制服の試着会をしたりと、それなりに充実した春休みを送っていたのだが、それも今日まで。明日は俺たちが通う高校―――私立雪ノ下高校の入学式だ。

「楽しみだねー!」

 新たな学校生活に、メルティは今からわくわくしていた。……彼女からしてみれば、学園生活は憧れである。アニメの中でしか知らなかったことを自分で体験できるとあって、テンションも高い。

「それはそれとしてさ……この状況は何なんだよ?」

「?」

 俺の疑問に、メルティは首を傾げた……と思う。今までどうにかメルティのほうを見ないように努めて来たが、彼女からも、目の前の現実からも目を背け続けるのは難しかった。

「俺たち、どうして一緒に風呂に入ってるんだ?」

 だから俺は、ちゃんと現実と向き合うことにした―――メルティの裸体を視界に入れないようにしながら。そう、俺たちは何故か、一緒に入浴していたのだ。俺は湯に浸かって、彼女は体を洗っている。一体、どうしてこうなった?

「どうしてって、どうして?」

 けれど、彼女は特に疑問を抱いていないらしい。……そもそも、どんな経緯でこうなったんだったか。確か、俺は普通に風呂に入ってたはずなんだけど、気がついたらメルティも一緒に入ってたんだよな。うん、訳が分からん。

「うんしょっと」

「うぉっ……!」

 そんなことを考えていたら、いつの間にかメルティが目の前にいた。諸事情により膝を抱えていたら、空いたスペースに入り込んだようだ。……今のも全然気づかなかった。もしかして、メルティは気配を消して移動するスキルでもあるのか?

「どうしたの? さっきから変だよ?」

 髪をタオルで纏めた入浴スタイルのメルティは、首を傾げながらそう問いかけてくるが……こんな美少女と混浴してて、おかしくならない男はそうそういないと思う。彼女も膝を抱えているし、入浴剤で濁ったお湯が局部を隠しているが、そんなものは焼け石に水である。全裸の美少女が―――それも、俺のストライクゾーンど真ん中の異種族美少女が、足先が触れ合う距離にいるという事実だけで、俺の理性は崩壊寸前なのだから。

「え、えっと……そ、そうだ。メルティってさ、前は誰と風呂に入ってたんだ? やっぱアリシアさんか?」

 気を紛らわせるために、俺はそんな質問をした。……身なりはともかく、まだ彼女は三歳なのだから、母親と一緒に入浴していてもおかしくはない。それか、一人で入っているかだろう。

「最近は一人だけど、前はパパと入ってたよ」

 しかし、メルティの答えは意外なものだった。……いやまあ、娘とお風呂なんて別におかしなことではないんだけど。あの叔父さんだと、何故か犯罪臭がしてならない。

「何故か最近は一緒に入ってくれなくなっちゃったんだけど……どうしてだろ?」

 不思議そうに首を傾げるメルティだが……そりゃまあ、いくら娘でも、ここまで立派に成長しちゃうと混浴は無理だろうな。一応、叔父さんにもちゃんと良識はあったようだ。

「でも、ハルヒコと入れて良かったかも」

「うっ……」

 そう微笑むメルティに、不覚にもドキッとしてしまった。……というか、なんでメルティは平然としてるんだよ? 羞恥心を覚えたんじゃないのか?

「ハルヒコ? どうしたの?」

 そんな俺を不審に思ったのか、メルティが顔を近づけてくる。そのせいで、更に動悸が激しくなってきた。……ああくそ、なんでこんなに無防備なんだよ。おまけにこの距離だと、湯気越しでも彼女の顔が―――それこそちょっと長めの眉毛とか、肌のキメ細かさまではっきり分かってしまう。そのせいで、彼女の美しさを嫌というほど意識してしまう。そろそろ本当にやばいんだが……主に、下半身的な意味で。

「その、さ……」

「うん?」

「メルティは恥ずかしくないのか? その、俺に裸を見られて」

「え?」

 目を逸らしながらそう尋ねる俺に、メルティは気の抜けた声を漏らした。

「俺だって男だし、目の前に裸の女の子がいたら、色々落ち着かないっていうか……」

 言いながら、俺はチラリと彼女の顔色を窺った。

「……」

 すると、メルティは俯いて黙っていた。頬が真っ赤に染まっているのは、果たして風呂のせいだけだろうか? まさか―――

「も、もう出るね!」

 そして、慌てた様子で湯から上がり、風呂場から出て行く。その後姿を目で追うのは、残った理性でぎりぎり堪えた。

「……もしかして、今更恥ずかしくなったのか?」

 そんな彼女を見て、俺はそう思った。……俺が指摘したから、メルティは急に恥ずかしくなったのだろうか? この前まで羞恥心を知らなかった彼女なら、ありえない話ではないが。

「とにかく、助かった……」

 何はともあれ、劣情に駆られて、風呂場で従妹を襲う、なんてことにならなくて良かった。あのままだと俺の理性が持たなかったからな。



「うぅ……どうしちゃったんだろ?」

 その頃、メルティは。脱衣所で縮こまりながら、そんな自問自答をしていた。……生まれてこの方、異性といえば父親だけだった彼女にとって、春彦の存在は大きなものだった。彼と出会って、少しずつだがメルティは変わり始めている。しかし、彼女はそんな自身の変化に戸惑っているのだ。

「お風呂くらい、なんでもないと思ったんだけどなぁ……」

 例えば、異性と入浴するのが、異性に裸を見られるのが、こんなに恥ずかしいことだとは知らなかった。恥ずかしいものだという知識はあったものの、自分で体験してみてようやく、それがどういうことなのか理解できたのだ。

「……へくちっ! うぅ……早く着替えないと」

 それはそれとして。風邪を引く前に体を拭いて、服を着なければと思うメルティであった。

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