故に彼女は
「う、宇宙人……?」
システィさんの言葉に、俺は動揺した。したが……それと同時に、俺は意外なほどに落ち着いていた。メルティの例があるからなのかもしれないが、それだけではない気がする。思えば、システィさんの言動は、出会ったときからどこか妙だった。それも日本語に不慣れゆえだと思っていたが、彼女が宇宙人だとすれば納得がいく。
「はい。メルティ様と同じ、地球外生命体ですわ」
「……は?」
だが、続く言葉を聞いて、さすがに冷静ではいられなくなった。どうしてメルティのことを……いや、彼女は正確には宇宙人と地球人のハーフなのだが、中途半端に言い当てられたことが余計に俺を混乱させる。
「メルティ様の気配は、明らかに地球人の方々と違いましたわ。どちらかと言えば、わたくしと近いもの―――彼女も、地球外生命体なのでしょう?」
システィさんはどうやら、宇宙人特有の感覚のようなもので、メルティを同類と判断したようだ。こうなってくると、どう説明したものか……。いや、それはそれとして、彼女には言わないといけないことがある。
「そ、それよりさ」
「はい?」
「服、そろそろ着て欲しいんだけど」
話を誤魔化すためというわけではないが、俺はそう指摘した。依然としてシスティさんは半裸のままだ。しかも背中から翼を生やした今の彼女の姿は、俺の性癖にドストライクである。その刺激的な格好を早く何とかしてくれないと、俺の理性が毎秒ゴリゴリ削られていく。
「はぁ……分かりましたわ」
俺の要望に、システィさんは渋々といった感じで、脱いでいた体操着を着直してくれた。何故、残念そうにするんだろう……?
「これで問題ありませんわね」
服を着直したシスティさんは、翼も仕舞っており、こうして見ている分には普通の人間にしか見えない。
「それで、メルティのことだっけ?」
「はい。メルティ様と同じく、わたくしも地球外生命体なのです」
俺の確認に頷くシスティさん。彼女は誤解を続けたままだ。だが、果たしてこの誤解は解くべきなのか? システィさんには半分ほどばれているとはいえ、態々事情を全部話してしまう必要はないんじゃないか?
「それなんだけど……メルティにこのことは、システィさんの正体については話さないで欲しいんだ」
結局、俺は状況を保留することにした。システィさんはメルティと仲良くしてくれてるし、お互いに隠し事はなしのほうがいいとは思う。でも、メルティはまだ精神的に幼い。今のところは秘密を隠せているけど、いつ彼女が自身の正体を漏らしてしまうかという懸念がある。そんな状態で、システィさんの秘密まで抱えさせたくない。
「それと、言うまでもないと思うけど、メルティの正体のことも他言無用にして欲しい」
「そうですか……ハルヒコ様が仰るのならば、そう致しますわ」
幸いにも、システィさんは素直に俺のお願いを聞いてくれた。理由を聞かれたら困るところではあったが、それもしないでくれた。
「当然だけど、俺もシスティさんのことは内緒にするから」
「そうして下さると助かりますわ」
俺の言葉にシスティさんはそう答える。けど、今までの彼女の言動を考えるに、ちゃんと自身の正体を隠す気があるのか怪しいような……。いやまあ、実際、俺も本人の口から聞くまで気づかなかったから、それでも問題ないのかもしれないが。
「でも、どうして俺にそのことを?」
だけど、まだこの疑問が消えてなかった。……何故彼女は、俺に秘密を打ち明けたのだろう? メルティのことがあったからつい口止めを優先してしまったけど、本来なら先に尋ねるべきだったな。
「ハルヒコ様は、地球外生命体の存在を知る地球人ですわ。現地協力者としては、これ以上ないくらい最適な人材ですわ」
俺の問い掛けに、システィさんはそう返した。……さっきの話では、彼女は一人で地球に来たらしい。となれば、確かに協力者が欲しいところだろう。それだって、誰でもいいというわけではない。彼女の正体を知っても問題ない人物、となれば、既に宇宙人の存在を認識している俺が適任というのも頷ける。それに、システィさんとは友人なのだから、頼み事もしやすいだろう。
「分かった。俺で良ければ、協力するよ」
「かたじけないですわ」
俺がそう答えると、システィさんは丁寧にお辞儀をしてきた。
「早速で恐縮なのですが……一つ、お願いしてもよろしいですか?」
「ああ、いいよ」
システィさんのお願いに、俺は快く頷いた。
「では。ハルヒコ様、わたくしとデートしてくださいまし」
◇
「なるほど、この薬局ではポイントがつく分、食材の買い出しもお得なのですね」
「でも、品揃えは良くないし、物によっては高いから、スーパーと使い分けたほうがいいと思う」
放課後。俺はシスティさんと街を散策していた。彼女の言うデート―――つまりは、こちらに来て日が浅いシスティさんに、街を案内していたのだ。いつもならメルティもついて来るのだが、夏海と隣町まで遊びに行くらしく、不在だ。デートというから身構えたが、色気もへったくれもない内容で、ちょっと安心した。
「地図情報は把握していますが、やはり現地住民による生の情報というものも大切ですわ」
俺の言葉を細かくメモしながら、システィさんはそう言った。随分と勉強熱心なようだ。
「やっぱり、この辺に住んでるのか?」
「はい。近くに部屋を借りていますわ」
俺が尋ねると、システィさんはそう答えた。……宇宙人である彼女は、どうやって部屋を借りているんだろうか? 学校に通えているのも謎だが、深く追求しないほうがいいのだろうか? もしかしたら、俺以外にも協力者がいるのかもしれない。
「資産が心許ないので、節約は大切ですわ」
「生活費、どうしてるんだ?」
「手持ちの貴重品を換金して活動資金を作りましたが、それもあまり持ちませんわ。早めにアルバイトを探さなくては」
今すぐ生活に困窮するというほどではないようだが、それでも余裕はないみたいだな。
「どこか、いいバイト先が見つかるといいけど……」
生憎と、俺はバイト経験がないので、その方面ではあまり力になれそうもない。冬樹か夏海辺りにでも相談してみるか。
「出来ることならば、飲食店がいいですわ」
「やっぱり、賄いが出るから?」
「それもありますが、この星の食文化には興味がありますわ」
半ば冗談で返した俺に、システィさんはそう答えた。
「わたくしの故郷では、食事は効率化されていましたわ。短時間で沢山の栄養を摂取することに重きが置かれ、食事を楽しむという風習がありませんでした」
食事の効率化……より安価で手軽に、沢山の栄養を摂取出来るように、文化が発達していったということなのだろう。食事は栄養補給のための作業であり、楽しむものではないのだろう。俺の身近な人で言えば、叔父さんも似たような考えの持ち主らしく、安価で高カロリーの食事であれば、味は最悪でも気にせず食べていたな。
「その点、この星の食文化は興味深いですわ。元々は限られた食材を長期保存するための技術が、見た目や味を重視するように発展する。わたくしたちの星では考えられないことですもの」
システィさんは目をキラキラと輝かせながらそう語った。……彼女はもう、故郷には帰れない身だ。乗っていた宇宙船が大破して、地球では修理も出来ないらしい。篠原山で出会ったのはその直後だったとか。そんな彼女は、この星に永住するしか選択肢がない。
「出来ることならば、学校の食堂ではお目にかかれない料理も食べてみたいですわ」
そんなシスティさんだけど、地球で暮らして良かったと思えるような、幸せな人生を送って欲しい。俺はそう思うのだった。




